第89話 血縁関係!
ケーキを食べて落ち着くことが出来たので、産まれてから今に至るまでの全てを話していく。
「まず、オレが生まれた日は神歴802年の9月2日です」
「それが、お姉ちゃんの……命日でもある、ってことだよね……」
「そうです」
出産はそうだよなァ。負担かかるよなァ……。
そこまでして産んでもらったって考えると感謝しかねェ。
罪悪感はない。それを抱いたら失礼だろうと思っているから。
あるのは幸せになる義務だけ。
「お姉ちゃんの旦那さん、えっと、ヒビキちゃんのお父さんは?」
「産まれて数ヶ月のオレを、とある魔法で別の場所に送った時に……後を追うように……です」
「うぇ…………その、ヒビキちゃんは、すごいね……!」
「……泣いてるんですか?」
「だ、だってぇ、ヒビキちゃんの人生を考えたら辛すぎて……!」
コトネさん、めっちゃ心優しい人じゃん。
ちょっと羨ましいなぁ。
……いや、別に羨ましがる必要はねェか。オレはオレの考え方でいい。
「というか、それはコトネさんもでしょう?」
「そう、だね。私も昔はそこそこ…かなり、かな? かなり苦労したよ」
コトネさんが一口コーヒーを飲む。
「18歳で色々あって借金しちゃって、奴隷にされちゃったんだ。あ、でもね? その後すぐにマサムネ様に買ってもらって、27歳までお世話になったんだ」
「9年間もあそこで暮らしてたんですねェ」
オレも18だったし運命感じちゃうね。
コトネさんが18のときは、ヒビネお母さんは……何歳だ? 24歳? まァ多分それくらいだろ。
「……あれ、コトネさんって今何歳ですか? 随分若いですけど」
「もう41歳だよ」
「…………わっけェ」
まだ20代だろそれは。JDで通じ……さすがにOLか。
カリンさんもそうだが、30過ぎても若さを保てるタイプの人ってたまにいるよなァ……。にしてもコトネさんは規格外だとは思うが。
まァでもそうだよなァ。母親の妹、叔母ってなんとそれくらいの年齢になるわ。
……漢字どっちだ? ここじゃ漢字使わねェし別にいいかァ。
◆
その後も色々と話した。
オレの両親やオレ自身のこと、後はマサムネさんの事か。
「コトネさんはどうなんですか? マサムネさんは、コトネさんが電気工学に興味があるって言ってましたけど」
「あ、それは合ってるよ。私は今、電気で動く精密機械の設計とかをしてるから」
「ヘェー。じゃァ、例えば白熱電球とかも作ったことあるんですか?」
「うん、あるよ。この区にある商業施設の半分くらいは、私が設計した照明を使ってるね。多分、ここのもかな?」
「マジかすげェ!」
ガチの天才じゃん! ガリレオ……とは違ェけど、絶対にそっち側の人間だわ。
「基板自体は単純なんだけど、デザインが難しかったなぁ……って、こんな話はどうでもいいよね。他に何か聞きたいこと、ある?」
「んー、やっぱり電気系の魔法が使えるとそういう電子機器を作るのって簡単なんですか?」
「そうだね、電気系の魔法は電気の原理を理解してからじゃないと満足に使えないから」
「ヘェー」
電気の原理かァ……。
オレには10年掛かっても無理そうだぜ。だって電流と電子の流れる向きが反対な理由がまだよく分かってねェもん。アレ何なのマジで。
「あ、あとこれは最近言われてる事なんだけど、他の魔法もそうなんじゃないかって」
「え?」
そ、え? そうなの?
「オレ温度変化の原理とかそこまで詳しく考えないで『氷塊』とか使ってるんですけど……? いやまァ、調べたので状態変化で温度に差が出るのは知ってますけど」
「それなら充分だよ。現に使えてるってことはそうだから」
「なら、いいんですかねェ?」
難しいぜ。
◆
「オレはそろそろ『砂漠の国』へ行こうと思ってます……けど、そしたらもう会えないですねェ」
「大丈夫だよ。私はこっちで生きていけるから」
お会計を済ませて帰り道。
体が温まったり心が冷えたりと忙しかったが……まァ、仲良くなれたからオーケーだ。
「でも別れるのは……やっぱり寂しいです。唯一の血縁ですし」
両親のことは血縁関係じゃなくても親だと思ってる。でも、やっぱり血縁っていうのは何か特別感がある。
「うーん……あ、じゃあコレあげるね」
「え? ……カメラですか? って、いやいや、こんなに高そうなやつ貰えませんよ」
メタリックシルバーの小型フィルムカメラだ。
時代にそぐわない道具出てきたなァ……。
「私の収入ならまた買えるから。ヒビキちゃん、これがあれば大丈夫だよね!」
「……はい! あ、何枚か撮りましょう!」
「うん!」
こういうカメラで自撮りすんのは初めてだぜ。
「もうちょっとこう、ギューって……」
「こ、こうかな?」
「あァーいい感じです! そしたら後は笑顔ですよ!」
「笑顔……い、いえーい…!」
「イェーイ!」
─パシャッ! ……パシャッ!
「帰っても元気でね!」
「コトネさんこそ!」
◆
別にオレとは違ってずっと探し求めていたわけじゃないからかなァ……コトネさん、自立した女性って感じのすごい人だったわ。
とりあえず心残りは減った。……あ、耳触り損ねたわ。……まァいいか。
ホテルに着く直前にオレが表紙になっていたカリンさんのとこのファッション誌を買い、自分の部屋に戻って読んだ後に寝た。
明日、ここ出るか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます