第88話 姪?
ほあァー……寒すぎィ! 寒すぎるんですけど!
12月5日の今日は晴れだが、一昨日から降った雪の影響で町中の地面と空気が普段よりも冷たくなっていた。
吹き付ける風も冷てェ……。歩くのしんどい。スチームパンクならもうちょい暖かくしてくんねェか? 蒸気でなんかこう、いい感じにできねェの?
撮影を終えてホテルまで戻る道を震えながら歩く。今日は午前中の撮影だけだった。
こうなんと、今すぐにでも『砂漠の国』へ行きたいところなんだが……
とはいえ、さすがに1月までにはあっちに着いている予定だ。夏のクソ暑い砂漠とか考えただけで死んでしまう。
ここよりも南にあるから寒さは控えめなはずだ。
……別に体温調節の魔法覚えればいいだけか。得意分野だし。てか現時点で使える『氷塊』『熱線』『温風』『冷風』でどうとでもなるわ。
◆
ホテルへ近づいたところで、ある服を着た人とすれ違った。
あ、さっきダウンこの前オレが着たやつじゃん。フードの中モコモコだったなァ……。
「ヒビネお姉ちゃん……?」
「!?」
バッ、と効果音が見えそうな程の反応で後ろから聞こえたその声へ振り返る。
「あなたは……?」
「あ、わ、私は……」
ゆっくりとフードを脱いだ。
オレンジ色の髪と猫耳の生えたオレに……いや、ヒビネお母さんによく似た女性がそこにいた。
「コトネです……だよ? えと、どっちだろ……? あっ、私、コトネ……だよ」
……イメージと違ったぜ。
「オレはヒビキです」
「えっ……? あっ、じゃ、じゃあ、私の勘違い……? で、でもすごく似てるし……」
「オレを産んでくれたお母さんの名前なら、ヒビネですよ」
「! お、お姉ちゃんの……む、娘!? えと、なら……こ、この場合って私の姪っ子……で、いい…のかな…? は、初めまして……コトネ、だよ?」
姪っ子……甥っ子? まァ今は姪っ子か。
「はじめまして、コトネさん。とりあえずどこか入って話しませんか?」
寒いっす。
「あ、は、はい……気づけなくてご、ごめんね?」
「気にしてませんよ」
「うぅ……私よりしっかりしてる……」
それはどうだろう。
◆
カフェに入ったのって何だかんだで初めて……いや、そんなことはねェか。
ただ、親戚と入るのは確実に初めてだ。
「何にします? オレはホットコーヒーで」
「わ、私は……私もホットコーヒー、かな」
「おけです。すみませェん、ホットコーヒー2つお願いしまァす」
「かしこまりました」
ここのコーヒーはどんな感じなのか気になるぜ。
「……えと、さ。ヒビキちゃんは自分のことを、その…『オレ』っていうんだね……?」
「あ、はいそうですよ。昔からのクセっていうか、別に変えようと思えば変えられるんですけど」
クール系オレっ娘も悪かねェだろ? もうそろ『うわキツ』だが、20まではいけるなァ!
「というか、マジで偶然ですよねェ。マサムネさんからここで技術者やってるとは聞いてましたけ「ちょ、ちょっと待って……!」……はい」
「ま、『マサムネさん』って……『悪魔の国』の、だよね? あの人王族だけど、は、話したの……じゃなくて、話せたの?」
「あァ、オレ元々マサムネさんのとこの奴隷やってたんで」
「そっ、そうなの……!? あ、わ、私とおんなじ……!? あっ、大会優勝おめでとう」
うおッ、急に落ち着くじゃん。
「そちらこそおめでとうございます、先輩」
「うえっ!? せ、先輩? 私が?」
「嫌でした? オレはそう呼びたいなって思ったんですけど」
「先輩……! 私が、先輩……! あ、全然嫌じゃないよ!」
「なら良かったです」
席にホットコーヒーが運ばれてきた。
「おォー、いい匂いしますねェ」
「うん……!」
どこ産とか全く分からねェけど、なんかいいところのやつなんだろうなァ。
火傷しないように、ゆっくりと傾けて飲む。
「…………! ここの美味しいですねェ」
「おー……本当だ……!」
ふー、と一息つく。
やっぱオレは夏より冬の方が好きだなァ。こういう事が出来んのは冬だけだもん。だから──
「そ、その、さ。ヒビネお姉ちゃんって、今どこにいるか知ってる…かな?」
「ぇ……」
温かいコーヒーを飲んだはずなのに、寒い。
……それは予測できただろ、オレ。覚悟を決めろ。
深呼吸。
……よし。
「ヒビネお母さんなら…………その……オレを産んでくれたときに……亡くなりました……」
「え……? あ、え、そんなウソは良くない……ウソじゃ、ない、の? ね、ねぇヒビキちゃ……ごめん、ごめんね。辛いのはヒビキちゃんだよね」
「いえ、オレはもう大丈夫です……」
「そ、そんな泣きそうな顔で言われても説得力ないよ……」
「ならっ、気のせい、です」
落ち着け……! 落ち着け!
呼吸が乱れたままだ。
オレは全て説明したい。
「えっえっ、あっ、じゃあ……ケーキでも、食べる?」
「……なんで、ケーキ? でも、どうせ食べるなら、チーズケーキでお願いします」
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