第70話 彼氏のフリ?

 

7月18日。


ココ最近はゴウお父さんの遺した資料をノートに纏めたり、依頼で稼いだりしている。


いつもの時間に起床し、朝ごはんを食べに部屋を出て移動する。


朝の涼しい風が気持ちいい。


趣があるってのはこういうことなんだろうなァ。アレだな、こういう所で着る和装とか最高な気分になれそう。コスプレじゃなくてガチのやつで。


食事処に着いた。


いつものように食事をお皿に盛っていく。


「〜〜♪」

「おはようございます、ヒビキ」

「ん? あァ、おはようマキ」


マキもやって来て2人で話す。


よそり追え、いつもの席に座る。


「「いただきます」」


ここの料理人もすごいもんだ。何回も食べてるけど飽きないんだもん。


そうやって暫く食べていたらマキが話し始めた。


「昨日、無理やりお見合いをセッティングされました」

「……お、おォそうですか」

「なので彼氏のフリをしていただけませんか?」

「…………彼、氏?」

「はい」

「………………いつ?」

「今日です」

「…………マジ?」

「はい」


いつもと違う1日になりそうだ。


ヘビ食いたかったんだけどなァ……。



場所は変わって服屋。


1人だったら絶対に入ろうとすら思わないような空気感の店だ。


「な、なんで服ってこんな高ェの? ゲーム機本体より高ェ上着とか意味わからんて……」


なんで2桁万円を余裕で超えるんですか? ブランド物ってなんだよ。


「お見合い用の服なんてこれくらいが普通ですよ?」

「……今日のためだけにこれ買うのヤなんですけど」

「私が出しますよ?」

「それはそれでヒモみたいで嫌だな……」


仕方ねェ、自腹で買うか。


「……というか、ヒビキは服に無頓着過ぎるのではないですか?」

「うん」

「『うん』…!?」

「いやだって、普段からこの格好以外着る気ねェし」


着ている半袖のワイシャツと夏用スーツ生地の黒いスラックスを指さす。


オレ私服のセンスがゼロだからこうするしかないんだよなァ。男友達同士で集まってゲームするのに服とかどうでもいいし。


あ、でもさすがに謎英字Tシャツがダサいってのは何となくわかるぜ。あれが許されるのは小学生までだ。


「……そうですか。とりあえずはこれらを一通り試着して下さい」

「うおっ、いつの間に。てかこれ何着あんのさ? ワイシャツってそんな種類あるもん?」

「ブランドが違うんですよ。ほら、早くしてください」

「わァったわァった」


服を受け取り、試着室まで行き着替える。


金掛けてやることが男装して彼氏のフリかァ……。


……女になったのに男装するのかオレは。いやいいけど。


ただどちらかと言えば、スカートとかヒラヒラ衣装を着こなしてみたいなァ。メイド服とか巫女服とか、そういうコスプレもやってみてェ。絶対楽しいじゃん。


ん゛ん゛ッ…………お帰りなさいませっ、ご主人様っミ☆


うん、いけるわ。


1着目に着替え、試着室に備え付けられている鏡を見る。


…………敢えてハードボイルドにキメるのも悪くねェなァ。ソフトハットが欲しいところだ。


─シャッ


「見てマキ、めっちゃかっこよくねェ?」

「ふむ……ちょっとコレで髪纏めてくれませんか?」

「ポニテにしろってこと?」

「お願いします」

「うーい」


渡されたヘアゴムを使い、低めの位置で髪を纏めた。


「コレでいい?」

「……いえ、全然。後ろ向いてください」

「はいはァい」


マキがオレの髪を纏めていく。


髪を纏めるのなんて普段しねェからなァ。この際バッサリ切ってもいいと思うんだが。


……いや、髪は乙女の命って言うしやめとくか。鎖も髪を巻き込まない回し方できるようになったし。


「出来ましたよ」

「お、いい感じ……なんか、かなり女の子感強くねェ?」


かなり高めの位置からポニーテールになっている。


カッコイイはカッコイイけど、今のこれが男装かと言われると……うーん。


「大丈夫ですよ。目付きが悪いですし、貧乳のスレンダー体型なので『女の子っぽい青年』として完璧です」

「え、バカにしてる? あでっ……。すごいストレートに言うじゃん」


思わず振り返った。ポニーテールが慣性で顔に当たって地味に痛い。


「馬鹿になんてしていませんよ? 寧ろ動きやすそうで羨ましいです」


腕を組んで下からゆさゆさと大きな胸を揺らす。


なんだろう、その胸で言われても素直に喜べんのよ。てかめっちゃエッチだからやめた方がいいと思うぞー。


「……見すぎです」

「おっと、こりゃァ失礼」

「ヒビキと話していると男性と話している気分になります……」


ははは、鋭い。


「まァ昔っからそんなんだから、オレは」

「……私としては都合がいいですから何も言いません」

「じゃァこれからもガン見していいってこと?」

「死にたいならそう言ってください」

「じ、冗談冗談! ジョーダンだって!」


トーセンジョ、やめとこ。


「はぁ……他にもあるんですから、お願いしますよ?」

「おけおけ、次のは?」

「これをお願いします」

「はいよ」



完璧に男装をキメて、いざお見合い。


マキも紫色のドレス姿だ。美しい。


てかアレだ。こうしてんと美男美女カップルに見えんのかなァ? 日本にいた頃の俺に言ったら嘘だって思われるぜ。


「つゥか、よくオレここ入れたなァ。両親はお見合いを成立させたいんだろ?」

「私達『ヴィオラ家』の全権限が両親にあるわけではありませんので」

「この家も一枚岩じゃねェんだなァ……疲れそう」

「……はい、それはもう」


ウンザリした声でそう言った。


「……今更なんだけどさ、お相手の顔に泥塗るようなことしちゃって平気なのか?」

「平気ですよ。相手もこのお見合いにそこまで乗り気ではないので」

「……そういうもん?」

「はい」

「そっか」


敷地内の庭を歩いていく。


現在地はマキの親の私有地にある豪邸。そこの庭……っつってもデカイ木とかの植物だらけだけど。こう……なんかティータイムしてそうな白いスカスカの机と椅子で、お相手方が座って待っていた。


「初めまして、イトマキさん。お初にお目に掛かります、フロッグです」


立ち上がって挨拶してくる茶髪の少年。オレより歳下じゃん。15くらい?


「……ご丁寧にどうもありがとうございます、フロッグさん。イトマキです。こちらは私の『彼氏』の」

「ヒビキです。初めまして」


『彼氏』の部分やけに強調して言った……!


「……おや?」


そりゃァそうなるわなァ……。


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