第69話 複雑な家庭?
「そんじゃ、帰るか。……あ」
「なんですか?」
「オレいい感じの家……家か? まァ家か。家見つけたから、宿に泊まんのは1週間だけになりそうだわ」
「……その家、どこにあるんですか?」
どこって言われてもなァ。住所とか番地とか知らないぜ? フレットが連れてってくれたルートしか知らねェし。
「あァー、あっちの方だ」
冒険者ギルドと道を挟んだ反対側を指さす。
「……そういえば、売り出している家が何軒かありましたね。私も「イトマキ!」……チッ」
身なりのいい男性が大きな声でマキを呼びながら近づいてきた。
ね、ねェ今舌打ちせんかった? っと、思わず心の中で関西弁キャラが出てきちまったぜ。
よく分かんねェけど、黙ってるか。ヤバそうになったら介入しよう。
「おいイトマキ! こんなところにいるとは何事だ!」
「……うるさいです。私がどこにいようと勝手でしょう」
「そんな訳がないだろう!」
『そんな訳がないだろう』!? すげェこと言うじゃんね。
「……何度も言いましたが、私はあの場所に戻るつもりはありません」
「生意気な事を言うんじゃない! ほらいいから来─」
男がマキの右腕を掴んだ瞬間。
「触るなッ!」
─パシッ
その手を強く振り払った。
周りにいる人たちが何事かとコチラの様子を見ている。
ま、マキさァん? めっちゃキレてるじゃないですかァ? オレ他人のフリしていィ?
「き、貴様ぁ! それが父親に取る態度かぁ!」
「うるさいッ! ……行きますよ、ヒビキ」
「あァ、分かった」
他人ではいられないわな、うん。
「待て! まだ話は終わっていないぞ! お前にはウズマキの補佐としての役割があるんだからな!? それになんだ! 黒髪黒目の奴なんかと共にい─」
「黙れ」
ドスの効いた声で威圧する。父親を名乗る男はそれだけで動けなくなった。
あっ、好き。今のめっちゃカッコイイ……!
「ヒビキ、行きますよ。……ヒビキ?」
はッ…!? メスになるところだった……!
「だ、大丈夫だ。どっか食べ行くかァ?」
「賛成です。……ガッツリ系で」
「近くにあったかなァ……?」
◆
冒険者ギルドから少し遠い位置にある、いわゆる隠れた名店。肉料理が美味いらしい。いつの間にかいたフレットが教えてくれた。この国はフレットの庭だった……?
てかこの店ゴウお父さんの行きつけだと思われる。
注文は生姜焼き。懐かしいね。
てかさっきのアレ聞いていいやつか? どう考えても、地雷? ってやつだよなァ……。
「先程は、その……父親がすみません」
あっちから言ってきたわ。
「いや、オレは全然大丈夫。それより、マキの方こそだ」
「……私も大丈夫です。もう慣れたものですよ」
嘘だな。声の調子で分かる。
「マキの家って、なんか立場高い系のアレなの?」
「……そう、ですね。本当は隠しておきたいのですが、その方が面倒なことになりそうなので言っておきますね」
そうなの?
「実は、私の家系は昔からこの国にある財閥グループの分家なんです」
…………?
「つまり、お嬢様ってこと?」
「……まぁ、そうです」
「何だァ? 『な、何だってー!?』みたいな反応ほしかったのかァ? だとしたら悪ィな、オレそういうの関心薄いんだ」
「いえ、寧ろその方が……やっぱり何でもないです」
にしても、財閥グループの分家ねェ……。貴族……とはちょっと違うか。領地とかそういうの無いし。
「そうなんと……家族仲が悪いのは将来を勝手に決められてるから、とかその辺か?」
「……まさにその通りです」
ほへェー、やりたいことやらせてくんねェから家出したってわけかァ。
オレはどっちの両親にも恵まれた幸せ者、か。
「私の両親は私より優秀な妹を後継に選ぶらしく、その補佐を私にさせるつもりでいます」
「うわァ、キッツ」
「はい、それはもう」
オレは一人っ子だから実感したことはねェが、姉妹や兄弟は比べられがちっていうしなァ。それがマキみてェな所となれば尚更。
「ちなみに妹のウズマキは、両親の前だと私の事が好きな妹を演じています」
「……聞くの怖ェけど、後ろ向きは?」
「自分以外を見下しているカスです」
いや口悪ィなァ!?
「え、何? 姉妹ってそんな仲悪くなるもんなの?」
「……どうでしょう? 私の家が特殊なだけかもしれません」
いんや、案外どこの家庭でもそうなのかもよ? ……普通の家庭でも起こりうるって怖。
と、話していたら料理が完成したようだ。
「はい、お待ちどうさま」
そこそこ歳いったオジサマ店主が料理を持ってきてくれた。
「おォ! めっちゃ美味そうですねェ!」
「これは……!」
「気に入ったかマキ?」
「はい…!」
この定食スタイルがたまらんのよ。もう夜だけど。
「ところで、そっちの黒髪の嬢ちゃんよぉ」
「? なんですかァ?」
「名前、『ヒビキ』か?」
「うえッ!? なんで知ってんですか? …あ、ゴウお父さんから?」
「おう。これ、渡しとくぜ」
写真を手渡される。
「これ、若い頃の……」
「そっくりだからすぐ分かったぜ」
「ありがとうございます!」
「はははっ、どういたしまして」
ゴウお父さんとヒビネお母さんの、白黒のツーショット写真だ。
わァ……! めっちゃオレだァ……! 猫耳カチューシャ付けたらヒビネお母さんになれるぜオレ。
「あぁ、もう会えないのが悲しいよ」
「……え」
「さて、冷めねェうちに食べようぜ?」
「え、あ、食べましょうか」
「いただきまァす」
「……いただきます」
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