第61話 過去の狩り?

 

目にも留まらぬ速さでカザキリシカへと近づき、右手に持つ『三節棍・三首ミクビ』をその首へと振り抜いた。


─ドパァン!


『──!』

「ハッ、弱ェ弱ェ! 今ので首がイっちまったかァ!? まだまだいくぜ!」

「いやもう死にかけですけど!?」

「関係ねェなァ! オラッ!」


既に致命的なダメージを負ったカザキリシカに対し、三首を振るい続ける。


─ヴオン!


……そこそこ離れているこちらにまで、三首を振るった風がくるとは。まぁ、肉眼で見えない速度で動いて動かしていればそうもなるか。


ドゴン、バコン、という衝撃音を聞きながら周りを警戒する。


「終わりだァ!」


─グキャリ!


『──』


首と頭を執拗に狙われたカザキリシカが、ついに倒れ伏した。


この戦いの前に倒した熊や狐を合わせ、死屍累々の状態。全て、血は流れない撲殺である。


終わったようだ。


「いやァ、この武器マジで楽しいわァ。ゴウ!」

「大丈夫です。もう周りに敵はいません」

「オッケェ、帰る前に焼肉といこうかァ!」

「三首でボコボコにしたヤツを食べるの嫌なんですけど……」

「気にすんな、美味けりゃァいいんだよ」



─ジュー……!


「……美味しい」

「だろォ? 鹿も案外馬鹿に出来ねェんだよ」

「鹿だけに?」

「……別に狙って言ったわけじゃねェ」


そっぽを向かれてしまった。……それでも食べる手は止まらないらしい。


戦闘後に、近くの岩場で簡易的な焼肉を楽しむ俺たち。


日本でも河原でバーベキューなんかをすることは何度かあったが、森で狩った鹿を食べるのは初めてだ。


狐は流石に食べないが。


「それにしても、ヒビネさんって強いですよね。俺も『氷塊』以外に近接戦闘出来るようになりたいです」

「んー、オレのは種族特性もあっからなァ。魔力で体を強化するのは教えられるが、戦闘スタイルは厳しいぜ?」


ヒビネさんの戦闘スタイルは、よく使う近接武器『三節棍・三首』に自分の速度を乗せた速度特化のものだ。


反応速度なんかは猫のような特性のおかげでもあるため、俺にはきっと出来ない。


というか、ただの人間が肉眼で目視不可な速度で動いていたら人間かどうか疑わしい。それこそ、世紀末なあの漫画のような人間離れした人達みたいになってしまうだろう。


魔力で体の強化が出来るようになるだけでも、俺としてはありがたいのだ。


「それだけでも嬉しいので、今度教えてください」

「じゃァなんか奢ってくれ」

「ステーキはどうでしょう?」

「金貯めとけよ? 沢山食ってやる」

「ははは、お手柔らかに」



神歴791年12月10日。


寒くて外に一歩も出たくない程の気温に震えつつ、それでも稼ぐために外出をしなくては行けないことに別の意味で震える今日この頃の俺。


去年はそこまで寒く無かったと思うのだが……。


ちなみにヒビネさんは今年も布団から出られないようで、ベッドの上で大福になっている。


そして現在、死にものぐるいでユキギツネ狩りを終えた午後1時だ。


宿へ帰る道中にあるいつもの店へ立ち寄る。


この国の料理は日本とは違い、味付けが濃いものが多いから少し食べづらい。


最近はすこし慣れてきたが、それでもやはり和食が恋しい。


そんな中でたまたま立ち寄ったこの店は、俺の好みにドンピシャだった。


「いらっしゃい、ってオメェか」

「こんにちは、店長さん」

「おう、いつもんだな?」

「お願いします」


いつものを頼み、いつもの席へ座る。


このやり取りになるまでどのくらいの時間が経ったかはあまり覚えていない。しかし、自分がこんなやり取りを出来るようになっていた事に気がついたときは驚いた。


ググッ、と伸びをする。


はぁ……あれから一年経つが、一向に石板の情報は集まらない。


やはりもうこの国でこれ以上は無理か……。


かといって、ここ『天使の国』から他の国へ移動するのは難しい。


隣の『悪魔の国』と10年程前に戦争を起こした影響で、国外への出入りが制限されているからだ。


行けるとしても、かなり西にある『龍の国』になるが……ヒビネさんに散々言われたから、やめておこう。


制限が緩くなるまではここで稼ぐ、それが一番か。


「ところで」


思いを巡らせていたところで、店長に話しかけられた。


「ヒビネちゃんとは上手くいってんのか?」


料理を作りながらそんなことを聞いてくる。


「上手く、って……仲良くやってますけど」

「なんだ? あんだけ長いこと一緒にいて、色恋の一つもねぇのかよ」

「い、色恋って……! ヒビネさんとはそういうのじゃ……!」

「傍から見てたらそうにしか見えねぇってこったよ」


そ、そうなんですか!?


「な、あ、え……」

「初々しいことこの上ないが、それも若さか……」


俺は別にヒビネさんのことをそういう目で見てるわけじゃないし、ヒビネさんだってそんな事はないはず……!


「お節介かもしれんが、プロポーズは早いとこしといた方がいいぞ。他の男がほっとかねぇ」

「他の男!?」

「黒髪で猫耳だが、ありゃ却ってそれが美人を際立たせるやつだ。噂じゃ昔は引く手数多だったらしいぜ? (ま、これは嘘なんだが)」


うっ……! ヒビネさんが他の男と結婚してる所を想像しただけでダメージが……! でもヒビネさんは美人だからその可能性が…!


でもでも、もしフラれたら今後の関係がとても気まづいものになってしまう……!


一体どうすればいいんだ!?


「そろそろ出来るぞー……って、聞いちゃいねぇか」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る