第59話 誰の日記?
猫に先導され、道無き道を行く。
あ、今回の道無き道ってのは、人が通ることを想定されていない道の事ね。
─トトンッ
つる植物が壁を覆う複雑で薄暗い路地裏の中で、室外機の上、ダクト、塀の上など猫の道を進む。
気分はまるで忍者だが……大丈夫か、コレ? 見られた瞬間に通報されねェか心配でならん。
バランスを崩しながらも塀の上を歩き、猫が跳んだベランダの屋根の波板にオレも乗る。
─ミシッ…!
悪いが、普段の生活でこれ以上のダイエットは無理なんだ。だから壊れるなよ? 頼むからな!?
壊れかけのアスレチックをやっているみたいでヒヤヒヤする。
落ちた程度で怪我はしねェだろォが、音を立てるのはマズイからなァ。
猫を見失わないよう、タタッと素早く進む。
なんだかどんどん高い場所に行ってるんだが、目的地はどこなんだ? でもって、そこには何があるんだ?
ああ! ワクワクする!
未知を知るのは何時でも楽しいなァ!
◆
何分か進み続け、ある1つの建物のバルコニーに跳び乗った。
─スタッ!
『にゃーん』
「よっ、と。到着か?」
『にゃっ』
中々にスリリングな道だったが、到着しちまえば意外と早かったって感じるなァ。
空いている窓を通り、少しだけ光に照らされている部屋に入る。木造建築ならではのニオイを感じるぜ。
中には丸いテーブルと座椅子や、クローゼットなどの生活跡があった。
どれもがホコリを被っており、暫く人の出入りが無かったことを伝えてくる。
「……これは……ッ!?」
『みゃー』
しかし、オレの目に真っ先に飛び込んできた物。それは本棚。
「『792年 石板の記事』……!」
背表紙にそう書かれているファイルを1つ、手に取り閲覧。
こんな、20年以上前の記事が……!?
『謎の石板 海の国フウロ岬で発見』『砂漠の国シタール遺跡に謎の石板』『砂漠の国に謎の石板? ヴィーナー巨岩地帯の謎に迫る』
かなりの数の出版社から、見つかった日付順に切り取られているようだ。
ページをめくる。
目を通す。
ページをめくる。
目を通す。
時間にして10分程。座りもせずに読み切った。
……ふゥ、一旦落ち着くか。『砂漠の国』が一番、次いで『刀の国』が多かったなァ。
「コレ…一体誰が?」
『にゃーん』
猫が部屋にあるクローゼットを開ける。
なんだ? そこにもなんか……。
「日記か? ……日本語!?」
『日本で生まれた者へ 日本へ帰ろうとした者より』
アンティークな日記帳の表紙に、そう日本語で書かれた紙がくっ付いている。
いたのか……! オレ以外にも……! 帰ろうと願った者が……!
『にゃーん』
「……ありがとう」
何故分かったのだろう。気にはなるが、今は感謝の気持ちが強い。
日記帳、読ませてもらいます。
◇
日記帳を手に入れたので、これから毎日書こうと思う
今日は1990年8月23日
こちらの暦だと、神歴790年8月23日だ
この世界に来てから今日で丁度1ヶ月になる
最初は過去にタイムトラベルをしたのかと思ったが違った
魔法。妖術や呪術、後は忍術だろうか。そのようなファンタジー作品に出てくるものが実在したことにはとても驚いた
それを使って最近は国から依頼された事をこなす冒険者として働いている
今日は魔法の練習をした
とても疲れた
◇
1990年って、オレが生まれるより前の人じゃねェか。
そんな昔から石板は地球にあったってことか? だったらもっと早く見つかってもいいと……石板とはどこにも書いてねェわ。
とはいえ、多分石板だとは思うが。
◇
8月24日
今日は大きな百足と戦った
人の体長を優に超える百足だったが、氷の魔法で凍らせ勝利した
練習しておいて良かったと思っている
冒険者ランクも5に上がった
こちらの生活にも慣れてきたようだ
◇
8月25日
今日は図書館で調べ物をした
別の世界から人を連れてくる魔法や、テレポーテーションの魔法を調べてみたが、一つも無かった
友人曰く、魔法で何でもかんでも出来るわけではないとのこと
なら俺はどうやってこの星に来たのだろうか
◇
8月26日
三日坊主にならず、四日目の日記だ
今日はものすごい雨で、依頼を受けることも図書館へ行くこともしなかった
そのおかげか、ヒビネさんと普段より長く話すことができた
俺が元の世界へ帰る方法も知りたいが、ヒビネさんと年の離れた妹のコトネちゃんの行方も知れたらと思う
□
「えぇっと、今日は……」
「9月2日だ」
「ああ、そうでしたそうでした。ありがとうございますヒビネさん」
「別にィ? 感謝される程のことでもねェよ」
古びた旅館のロビーでヒビネさんはそう言う。
教えてくれたのだがら、感謝するのは普通だと思うのだけれど。
「つゥか、日記なんて書いて楽しいかァ?」
「楽しいから書いてるわけじゃありませんよ。毎日の記録として書くんです」
「記録ねェ……」
「ヒビネさんは無いんですか? そういうの」
「無ェ。皆無だ」
「コトネちゃんの情報纏めたりは……?」
ギロっとこちらを睨んでくるヒビネさん。
瞬間、蛇に睨まれた蛙のように俺の体は動かなくなった。
「っと、いけねェ。悪ィな、今のは完全に八つ当たりだった」
「あ、いえ、俺も軽く口に出してしまってすみません……」
「あァー、じゃあお互い様ってことで。んでだ、コトネの事か。記録をしなかったわけじゃねェんだよなァ」
今の流れで話続けるんですね……。
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