第57話 いい感じ?
「あ、マキも魔法使えるんだ」
「少し水を出せる程度ですよ。攻撃も防御も出来ません」
「でも飲めるんだろ? 砂漠地帯なら英雄になれそうだぜ」
「……『氷塊』を使える貴方の方がよっぽど英雄になれますよ」
「確かに」
夕方の町を宿まで2人で歩く。
運動したこともあり、汗のすごいことすごいこと。
この服装、高温多湿な気候にはやっぱ適してねェよなァ。
『海の国』では風が涼しかったから平気だったんだが、ここじゃ風もそこまで吹かねェし……。
オレのファッションセンスで半袖短パンを選ぶのは…ちょっとキツイ。いや別に店員に頼めばいいんだけどね?
マキは太ももが美しいカジュアルファッションだし、聞いてみるのもありか。
……でもなァ! オレこの服装かーなーり気に入ってんだよなァ! ワイシャツと黒長ズボンの学生服スタイル!
……そろそろ『うわキツ』っていわれる年齢だって? 22まではいけるって。あとオレ今18だし、まだ余裕。もう7月だからあと2ヶ月も無ェけど。
『にゃーん』
後ろからいつの間にか猫が来ていた。
「あ、オマエさっきの猫じゃねェか」
いつの間にかいなくなったと思ったら、また出てきやがったなァ。
「尻尾が2本なんて、珍しい猫ですね」
「いや珍しいで済ませていい問題じゃなくねェか? 生物としてなんかおかしいかんな?」
『にゃっ』
「にゃっ、じゃなくてだなァ……」
オマエ地球だったら専門の研究施設に回されるやつだろ。
「かわいいからいいじゃないですか」
「それはそう。でもコイツ宿までついてくる可能性あんだよ」
「……宿に猫入れますよ?」
「え、入れんの!?」
「当たり前じゃないですか。『動物の国』ですよ、ここは」
「メルヘンここに極まれり……!」
「はい?」
「すげェなこの国って言った」
「絶対違いますよね? ……まぁいいです」
若干呆れの含まれた声。
オレといても楽しくなかったりします? 同年代の女の子と話すのって難しいぜ。中高、男友達で集まってゲームしてたツケを今払わされてんなコレ。仕方ねェよ、バスケ部のヤツらとはなぜか気が合うんだもん。オレ部活入ってねェのに。
まァともかく、別にこれからも話す機会はあるだろうしそこまで気にしなくてもいいか。
最悪1人でも石板の情報は集められるし。
友達いた方が楽しいから頑張ってはみるけど。
◆
「中々にオシャレな外観じゃん」
「老舗ですから」
昔から続く旅館ってのはすげェなァ。植物で覆われてるこの絶妙な雰囲気めっちゃ好きだぜオレは。
和風……ではないが、和に近いのもグッド。
恐る恐るといった感じで入る。
「……おォー、ちゃんと旅館だ」
「どういう感想ですか……こっちです」
受付へと進むマキについていく。
……なんだか時間掛かる予感がする。
「! イトマキ様ですね。担当の方に代わりますので少々お待ちください」
「お願いします」
ほら、担当とか言ってるもん。
『にゃーん』
コイツの相手してるか。
◆
「……とりあえず一週間は泊まれるようになりましたよ」
猫と戯れていたら、手続きが終わったらしい。
「マジ? ありがと。でも、オレの財布大丈夫か……?」
「一週間で30万エルですね。ランク8なら余裕だと思いますが」
「……いや、たしかにね? 余裕ではあるけどさァ」
一般的にそのレベルは大金じゃねェの? いくらランク8の冒険者が1回でバカみたいに稼げるからといって、相談は一言あってもいいと思うぜ?
ちなみに所持金は500万越えてる。
『にゃー』
「まァいいか。部屋までの案内はァ……」
「私が致します。どうぞこちらへ」
「ありがとうございまァす」
『みゃー』
庭が見える廊下を歩く。
カラフルな鳥が鳴いている。
「あれ、マキもこっち?」
「そうです」
「実家暮らしかと思ったけど違うのね。なんか理由あんの?」
「……実家は私に合わないんです」
「ふーん?」
なんか複雑な事情がおありのようでェ。深く聞くのはやめとっか。
代わりに今後の予定でも考えよう。
まず、今日は疲れたからぐっすり寝る。ベッドが恋しいんだ。もう木の上で寝るのは飽きた。
石板の情報を探すのは明日だなァ。
過去の新聞がある場所っていったら……図書館か? オレって、冒険者ギルドよりも図書館にいる時間の方が長ェんじゃねェの?
あんのかなァ、新聞。いざこうして来てみると、不安がどんどんデカくなってくる。
何の成果も得られませんでした、とはならないだろうが……大した事が得られない可能性はある。
まだ焦る必要は無いと頭では分かっていても、心はそうじゃねェからなァ。難儀なもんだぜ全く。
あと、この首輪も後で浄化しとくか。定期的にやってるが、今日は特に汗が酷ェ。
◆
部屋へと案内された後、荷物の整理などをして暫く。
オレは食堂……旅館だから食事処? に来ていた。
「ヒビキ」
「ん? あァ、マキか。また会ったな」
「そりゃ会いますよ……」
同じ旅館だからなァ。
「どれが美味しいとかある? オレこういうとこに1人で来んの初めてなんだよォ」
「……初めてなんですか? てっきり、何度か経験したことがあるものかと」
「実は、旅始めてからそんなに経ってねェんだ。そんなに意外か?」
「はい、なんだか慣れているように見えたので」
マジで? そんな雰囲気あったのオレ。
「そうなのかァ。まァいいか、オススメを教えてくれねェ?」
「構いませんよ」
「ありがと『にゃーん』……コイツの分もいい?」
「ふふふっ、いいですよ」
あっ、笑顔めちゃかわじゃん。猫、よくやった。褒めて遣わす。
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