第56話 薬?

 

宿どうすっか。


現在時刻は7月13日の午後1時頃。早く時計が欲しいところだぜ。


町全体を木が覆っていることもあり、直射日光は少ない。


しかし! めっちゃ蒸し暑いのである!


『海の国』とはまた違った暑さで苦しいぜ。熱帯雨林ってこんな感じなのかァ。ゲームの主人公はこんな所で剣振ったり弓撃ったり、汗でベチャベチャになんねェの?


汗は嫌いだが…………今のオレ、自分の汗のニオイはそこまで嫌いじゃなかったりするんだよなァ。


『にゃー』

「……いつまで付いてくるんですかねェ? キミは」


しゃがんで猫(?)に目を合わせる。


『みゃー』


首をこてん、と傾げられる。


かわいい。


じゃなくて! コイツ連れて宿入るのは多分無理だろ? そうなんと、コイツが勝手に離れてくれるのが一番なんだが……。


『にゃーん』


離、れ、られん!


─なでなでなでなで


やっぱ生物なんてのは美味しくなくても、かわいければ生きてられんだなァ。やっぱ愛嬌よ。


…………愛嬌、か。


俺も女として生まれてたら、捨てられる事なかったのかなぁ。


……今は女だからもう気にしてねェけど!


『にゃっ』


撫で続ける手から猫が離れた。


っと、いつまでも猫に構ってるわけにはいかねェ。


オレも猫や犬みたいにそこら辺で寝られる自信はあるが、町中でやる勇気は無ェわ。


それに、今回は宿に泊まってみてェ。


オレだって異世界あるあるの一つ、『なんかいい感じの宿に泊まる』の実績解除してェんだ!


『みゃー』


無理そう。



さてさて、海の国のときの経験を活かして来たのは冒険者ギルドである。


てかこの町高床式の建物そこそこあるなァ。熱帯特有なのか? アレだ、米を保管しておく建物もこんな感じじゃなかったか?


とりあえず行くか。


階段を上がり、ドアの無いギルドの中に入る。


オレを労うように優しい風が体を冷やす。


涼しい。うちわの風みてェだ。


空いてる席はァー、と周りを見渡し探す。


お、あそこ空いてんじゃん。


「キミ、ここいいかな?」

「……どうぞ」

「サンキュー」


赤い髪のポニテ女子のいるテーブル席に座る。別に下心とかじゃねェから。


ポニテ女子は机でナイフの手入れをしている。


女の子が物騒なモン持っちゃってェー。仕留めた獲物の解体用かァ? オレも銃と刀持ってるけど。


「……それ、オイルストーン?」

「…だったらなんですか?」

「水砥石でやった方がいいんじゃねェの? 解体用に必要なのは頑丈さじゃなくて、切れ味だろ?」

「……外の国から来た方ですか? 水砥石なんて、この国には入ってきませんよ」

「あァそうなの?」


こっちを見もせずに返されたが、会話をしてくれるだけオーケーだ。


「てか、その言い方的に出身はここか? オレ宿探してんだけど、いい場所ねェ?」

「……あります、が」

「……何? 金? それとも別の条件?」

「後者ですね。私の依頼を手伝ってください」


やっとこっち見た。


「なるほど、分かりやすくていいなァ。いいぜ、行こうか」

「……ランクは?」

「ほれ、ここ見てみ」


ランク8と書かれたカードを見せる。


「……意外です。私より上なんて」


オレ下に見られてたのか……。


「そういうキミは?」

「ランク6です」

「いえーい、オレの方が上ー」

「……」

「そんな顔しないでよ。てかなんか言って? 滑ったみてェじゃん」


そんな顔で見られて興奮する趣味ねェからオレ。


「ま、改めて…ヒビキだ。よろしく」

「イトマキです。マキ、と呼んでください。よろしくお願いします」

「マキちゃんね、よろしく」

「ちゃん付けはやめてください」


あれま、お気に召さなかったようで。



森にやってきた。


「見て見てマキ、ネプチューンオオカブト」

「……真面目にやってくれませんか?」

「はァい」

「というか、そのカブトムシってそんな名前で呼ばれているんですか?」

「オレのいたとこでは、だなァ。こっちでなんて呼ばれてんのかは知らん」

「……そうですか」


虫とかの名前もあっちとこっちとじゃ全然ちがうよなァ、そりゃ。……オオクワガタはオオクワガタのまんまで呼ばれてそうだが。


さて、ちゃんと依頼のサソリを探すとしますかねェ。名前はなんて言ったっけ?


なんでサソリかっていうと、ソイツから薬に転用できる毒が手に入るんだと。手術の時に使うっつってたから、麻酔? それともそれ以外? どっちでもいいか。


「アレだ。将来的に今探してるサソリ、養殖されそうじゃねェ?」

「既に計画はあるらしいですよ」

「道理だなァ」


便利な生物の宿命。きっと蚕もビックリな生産工場が出来上がるに違いねェ。なんたって、医療で使えるヤツだもん。


虫だから『狭いところに閉じ込めて動物が可哀想だ』みてェなこと言ってくるやつも出てこんだろォし。


「何匹だっけ?」

「10ですよ。私言いましたよね?」

「言ったぞ。オレが忘れてただけだから心配すんな」

「してませんし、一回で覚えてください」

「そりゃァキツイでしょ」



「はい、ラストゲットォ!」

「うるさいです」


布の袋にラスト10匹目のサソリを入れる。


バカデカいサソリじゃなくてよかったよマジで。まァ、大会で戦ったあのサイズを10匹は依頼として出るとかないだろうし、そこまで考えてなかったけど。


これで後は、コイツらを持っていけば依頼は達成だ。森の中探索すんのってやっぱ楽しいぜ。この国に来るまでも散々やったが、それでも楽しい。


「町に戻ったら、いい感じの宿まで案内してくんねェ?」

「……仕方ないですね、約束ですし」

「ありがとう。助かる」

「……別に。ついでです」


お? ツンデレか? ……女同士でもツンデレって発生すんの?

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