第55話 動物の国?

 

……あれクジラじゃね!?


誰もおらず、半分以上植物に侵食されている浜辺を歩く。


海の国を出発してから『動物の国』までの方角を、わざわざコンパス使って確かめながら歩くこと3日。


木の根に座っての昼食中に海をボーッと眺めていたら、クジラがめっちゃ高くジャンプしてるのを見た。


クジラってマジであんな高くジャンプするんだ!? 跳んでるっていうか飛んでるじゃん!


うわァ……! いいもん見たァ……!


それはそれとして、ブリトーが美味い。


─もぐもぐ……


「……ごちそうさまでした」


ハンカチで手を拭き、大きく伸びをする。


んんー! さて、と! 行くかァ!


靴底に氷を作る。スケートのように滑って走る。


なんだかんだで、砂の上ならこの移動方法が一番早ェんだよなァ。


日差しで肌が焼けるが、多少は諦めて割り切った。後からいくらでも治せるしなァ。


にしても、波が打ち寄せる砂の上でスケート(モドキ)か。一年前のオレどころか、一週間前でも信じられないようなことをしてるぜ。


……さて……いつまで掛かんのコレ?


景色が変わるから飽きることはなさそうだが、疲れるものは疲れる。寝るときに場所の確保したり、水浴びをしたりとかなァ。


食料と飲み水の心配はしてない。たんまり買い込んだから、1ヶ月は余裕で持つ。なんなら、見つけた鳥とかを狩りながら移動してるからもっといける。


こう考えると、『収納』ってチート性能してるよなァ……。いかにぶっ壊れ魔法かがよく分かるぜ。日常生活においてこれほど便利なモノはあんまりねェ。


運が良い……ことには良いか。石板に触れてこっち飛ばされたのと釣り合いは取れ……うーん、『回復』と『浄化』合わせても見知らぬ土地に飛ばされんのはどうなんだ……?


まァ、帰れればそれでいいから深くは考えねェようにしよ。



蒸し暑い熱帯雨林! そびえ立つ山脈! そして初めて見る野生動物の数々!


ここはもう『動物の国』の領土だなァ!


移動を続けてさらに4日経った7月1日の朝。


砂浜からコンパスと太陽と勘を頼りについにここまで来れた、という感じで歓喜に震えている。


マジで、自分の足だけでこんなに移動したのオレくらいじゃねェの? 直線距離で何キロになんのか分かんねェのが惜しいぜ。


寝込みを襲われることも、虫に刺されるなんかのトラブルも無しによくやったと我ながら褒めてやりたいねェ。いや褒める。よくやったオレ。


さて、このまま南東に進めば国に着くはずだ。


悪魔の国ほどではないが、明確に森と町とが分けられてるらしいからなァ。この木々で視界は悪いが、近づけば分かるだろォよ。


……てかあの鳥めっちゃカラフルだなァ。なんて鳥? どんな味? 小さいから食べんのには向いてねェかな?


─バサバサ!


あ、飛んでった。狙ってんのがバレたか? やっぱ野生の勘ってすげェよなァ。


大きなシダ植物を掻き分けながら進む。たまに小さな虫が手と顔に付くのが面倒だ。ほら、また何かが髪に引っかかった。


今度のはデカいと思う。さてさて、どんなやつですかァーと。


髪に引っかかっている虫を取……お、思ったより絡まってる。


触った感じ、甲虫類だ。硬いし、剥き出しの羽じゃねェもん。んで、このサイズ感……厚みがあるからカブトか?


……お、取れた。


左手に掴んだその虫は、大きな角が二本あるカブトムシだった。


どう見てもヘラクレスオオカブトじゃん!? いるの!? この森に!?


マジか、めっちゃツいてんぜ今日!


うわァ……! 日本に持って帰りてェなァ……! こんなデカくてかっこいいカブトムシ、そうそういねェぞ? 写真撮っておけりゃァなァ!


その後、暫くヘラクレスオオカブトを手に歩いたとさ。



勝手にどこかへ飛んで行ったヘラクレスオオカブトを泣く泣く諦め、歩みを進めること12日。


7月13日の今日、ついに町へとたどり着いた。


いやァ、マジで長かったぜ!


町全体が超デカい木でグルっと囲われてるから、遠目からじゃ全然気づけなかったんよなァ。


入り口と思われる場所に近づく。


─ガサガサ


ん?


『にゃーん』


近くの茂みから猫が出てきた。


「……ね、こ?」


え、こいつ尻尾2本あんだけど。ホントに猫か? 猫又じゃねェの?


『にゃー』


おォ、こっち来た。なんだなんだ?


『みゃー』


足の周りをぐるぐる回っている。……もしかしてマーキングされてる? なんじゃオヌシ。


まァいいか、とりあえず町に入っちまえばコイツも離れんだろ。


『にゃーん』


……かわいい。


焦げ茶と黒のキジトラ? ってやつだと思う。そこら辺にいる野良猫って感じがすごい。尻尾が2本な事を除き。


『にゃー』


……餌になりそうなもん持ってたかなァ?


『にゃー!』

「わ、ちょ……」


脚にスリスリしてきた。


野生とは思えないほど人懐っこいぜコイツゥ! でも残念なことに、ウチ猫も犬も飼えねェんだ。両親がアレルギーってのもあるが、オレがペットの世話とかする気がないってのが一番の理由だ。犬も猫も不味いし。


……かといって追い払いはしねェけどなァ!


「……よしよしよしよし」

『にゃーん』



「─では、どうぞー」

「ありがとうございまァす」


ゲートを抜け町に入る。


木造はもちろんレンガや石の建物もあるが、どれもが植物で覆われている。


かなりファンタジー……というより、『植物に侵食されてる昔の町』の方が合ってるか。


『動物の国』っていうか『植物の国』じゃね? まァそこかしこに動物がいるからあながち間違ってもねェけど。


『にゃーん』


……着いてきやがった。


ま、まァ、こういう出会いもありか。…ノミとか平気?

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