第35話 旅立ち!
「戦争、ですか?」
「最悪の場合、な」
朝食中に凄いことを聞いた。
「なんでまたそんなことに……?」
「簡単に言うと、伯爵の一人が独断でやらかしてな。天使の国の使者とトラブル……で済ませられないようなことになった」
聞いただけでやべェと分かるのやべェ(語彙力)
というか、マサムネさん若干キレてらっしゃる……?
いやまァ、でもそうだよなァ。自分の知らないところで大事件が起きて戦争になりかけてるとか、国の運営に関わってる身としたらブチ切れ案件だろォよ。
「そういうわけだから、旅に出るなら早い方がいいぞ。なんなら鉄道会社に口を効くことも出来る」
「それはありがたいですけど……」
元々そろそろ行こうと思ってたしな。でも、なんか逃げ出すみたいで悪いというか……。
「気にするな。戦争とは言うが、お互いそんなことを望みはしていない。やらかしたこちら側が謝罪と賠償をすることになるだけだろう。昔と違い、一触即発状態でも無いしな」
それはつまり、昔は一触即発状態だったってこと? 怖ェ。悪魔と天使でバチバチって……神話か?
「……だが、不測の事態に備えておくに越したことはない。さて、ケジメはどのように付けてもらおうか……!」
あ、結構キレてるわ。
◆
「てことがあったんで、今週中にもう出ようかと」
「それ俺聞いて大丈夫?」
「結構噂になってるっぽいんで大丈夫ですよ、多分」
「めっちゃ心配なんだけど? ……でもそうか、寂しくなるな」
「なんだかんだで半年近くの付き合いですもんねェオレたち」
そう考えると、マサムネさんの次に長ェのか。
2人で活動して色々あったが、やはりあの触手の異形は強烈なインパクトを残していったなァ。
単純に見た目がグロテスクで世界観間違ってるだろコレとか思ったってのもあるが、食べて魔素が増えたのも理由の内だ。
アレ結局なんだったんだろうねェ? 今でも謎だ。味もあんまり美味しくなかった、てか不味かったし。
「そういや、石板の情報なんか集まったのか?」
「それが全ッ然ですねェ。空いてる時間に本探して読みましたけど、どれも同じようなことしか書いてないですし」
大体が地下遺跡から発見された出土品みてェな扱いでしかなかったからなァ……。
『神隠し』なんて欠片も出てこなかった。
「……あ、でも全くゼロってわけでもなかったですよ」
「お、そうなの?」
「はい。素手で触った感触の記録があったんですよね」
「……えっと、それは重要な情報?」
「少なくともオレにとっては」
「マジか」
素手で触った記録があるってことは、転移の条件は『触れるだけではない』という事だ。触れるだけで強制的に飛ばされるなら、誰も触れられねェからなァ。
「てか、レイイチさんはなんかないんですか?」
「なんか、って言われてもなー……あ、この前誕生日だった」
「おォ、おめでとうございます。何歳になったんですか?」
「26歳。歳はとりたくねーな」
「なんか、おじさんみたいなこと言いますね」
「んなっ!? やめろやめろ、まだ20代だぞ!?」
なら『歳はとりたくない』なんて言わなきゃいいのに。後ろ向きになるのがちと早ェんじゃねェの?
「あーあ、俺一人でこれから依頼やんなきゃかよぉ」
「まァ、またどっかで会えたら一緒に組みましょォよ?」
「あぁ、そうだな。……またいつか、どこかで会おう」
「はい。またいつか、どこかで」
◆
『収納』があるとはいえ、手荷物がない状態で旅に出る訳にはいかない。めちゃくちゃ怪しまれるからなァ。
なので今、こうやって大きめのバックパックに服とか色々詰めているのだが……。
思ったより……銃が邪魔……! 形状的にリュックサックで持ち運ぶような物じゃねェけど、こん中に入れる以外に仕舞える場所もねェし……。
悪戦苦闘すること約10分。
結局、二丁の銃はバックパックの上部に取り付けることにした。中に入れとく意味がねェって事に途中で気付けてよかった。
そこそこの重さになったバックパックを背負う。
とんとん、と軽く揺らし調子を確かめる。
……よっし、こんなもんかなァ。
しっかし……こうやって鏡の前に立って改めて見ると、こっちに来た時からかなり成長してるわ。肉体的にも魔力的にも。
分かりやすいのは髪の長さか。肩甲骨辺りまで伸びた。黒髪ロングはよきかな。目つきの悪さのおかげでクールさも増しててグッド。
まな板は卒業…出来てんのかこれ? ちょっとは厚みがあるが、筋肉なのでは? 脚とかはそうだし。少なくとも体力は馬鹿みたいにあると思う。
魔力面は心配要らないだろう。今なら『熱線』の射程3メートルに加えて1分間連続で撃てるくらいには熟練度上げたし、『氷塊』も規模と精度頑張って上げたからなァ。
精神面は知らん。図太くはなっただろォが、それは元からな気もする。
まァ、とりあえずは準備完了!
部屋を出て玄関前まで移動する。
「お待たせしました、準備オーケーでェす」
「そうか。……早かったな、案外」
「え、そうですかねェ?」
「ああ、早かった。ヒビキ、写真を撮らないか?」
「写真?」
「この前、この最新型のカメラを買ったんだ。いいだろう?」
「おォー!」
すげェ時代を感じるカメラだ! もはや箱! ……最新式? レイイチさん、もうちょい小さいカメラ持ってなかった?
「なんと撮ってから2、3秒程で現像までしてくれる優れものだ!」
「マジですか!?」
それは最新式だわ!
……なんか時代と性能ズレてる気がするが、この際細かいことはいいか!
「撮りましょ撮りましょ!」
「ああ! そうと決まれば……ここだな。君は撮影してくれ」
オレとマサムネさんは、正門前で並んだ。
─パシャリ!
─ウィィィン
現像された写真には、とびきりの笑顔を浮かべる2人の姿が写っていた。
◆
『海の国行きの列車は一番線、2分後の出発となります』
人の少ない午後の駅のホームから、列車に乗る。
ドア付近で立ち止まり、振り向く。
「……ヒビキ」
「……はい」
「俺が君に出逢い、引き取り、育て、勝ったのは…運命だと思っている」
「オレも、マサムネさんに会えて本っ当に感謝しています。マサムネさんが選んでくれたおかげで、オレは幸せです」
しんみりとした雰囲気が漂う。
「そうか。……そう、か。そう言って貰えると、こっちも嬉しいよ。ありがとう」
「こちらこそ、ありがとうございました」
「……もしかしたら、今生の別れになるかもしれないのか」
「……そう、かもしれませんね」
目頭が、熱くなってきたなァ……。
どうやらそれは、マサムネさんも同じだったようで。
『間もなく一番線海の国行き、ドアが閉まります』
「なに、心配するな! 記憶力は自信がある! ヒビキのことを忘れるなんて事はないさ!」
「じゃあオレもマサムネさんのこと頑張って覚えておきます!」
「そうか! 渡した写真、失くすなよ?」
「失くしません! 絶対に!」
「ならよし! 元気でな!」
「はい!」
─バタン!
……こっからだ。こっから、オレの旅は始まるんだ。
きっと一筋縄ではいかないのだろう。
それでも、オレは……両親の元へ帰るんだ。
そんな日を夢見て…いや、違うな。ここは明確に、6年だ。
今から6年以内、2027年10月23日までに必ず帰る。
ここに宣言しよう。
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