第28話 最終調整?
あれから特に変わったことはなく、5月になった。変わった事っていうのは、あの触手生物みたいな異常事態ね。
そんなわけで、眷属なんちゃら大会も間近に迫ってきた。
とはいえやることは変わらず……と思いきや、最近はマサムネさんと実戦形式での模擬試合が増えた。
今のように。
「『氷塊』」
「『熱線』ッ!」
凍らされた足を靴が燃えないよう、一瞬だけ左手を向けて溶かす。続け様に鎖を振る。
飛刀をくらえッ!
「『電磁力』」
マサムネさんに向かっていった刀が突然方向を変え、オレの左手に突っ込んできた。
オレの腕輪が引っ張られ、て危なッ!?
鎖を縮めて刀の柄を掴む。
急に初見の魔法を使わないでほしいなァ! ……それ込みでの模擬戦なのは分かるけどォ!
遠距離がダメなら近距離とばかりに、氷を滑り距離を詰める。
原理は不明だが、刀はさっきの『電磁力』で封じられる。なら……直接蹴るッ!
マサムネさんが振る剣を氷塊で防ぎ、右脚のハイキック。
─ガシッ
脚を左手で掴まれる。痛ッ!? 握力ヤバ!? でもこの状態でも魔法は使えるんだよなァ!
「熱線ッ!」
右手から太めの熱線でどうだッ!
「『冷水』」
─バシャァァン!!
大量の冷水がオレたちを一瞬だけ覆い尽くす。熱線の反動と合わさり、急激に体温が下がる。
ッ、寒い……!
「氷─「『過電撃』」
─バチッ!
◆
「初見の魔法3つも使うのはズルくないですか?」
「大会でもそう言うのか?」
「それは……」
「そういうことだ」
……普通に対策を教えてくれたらよくね? それとも、初見の魔法への対応速度を上げるとか?
「負け続きで自信なくすんですがァ……?」
「安心しろ、ヒビキが初見の魔法に対する対応力はかなり高い」
「……いや、高かったですかねェ?」
『電磁力』は対応出来た……と言っていいのか分かんないが、『冷水』と『過電撃』はほとんどなんにも対応出来なかったぞ?
てか『過電撃』ってなんだよ。スタンガンか? 無法だろ。
「あの最後の『過電撃』でしたっけ? アレ、オレも使いたいです」
「そうだな……教える分には構わないが、大会までの間で使いこなせる時間があるとは思えない」
「そんなに難しいんですかアレ……」
氷塊や熱線とは原理が違うのか? それとも単純にめっちゃ燃費悪いとか。
まァ、ここは素直に従っとっか。
「とりあえず、今まで通り体を鍛え続けることにします。あとギルドで依頼も受けます」
「ああ、その方がいい」
◆
久々のソロ討伐。
相手は巨大な蜘蛛である。
何なの? この世界の生物は巨大じゃないといけないルールでもあんの? 人のサイズより大きい蜘蛛とか恐怖しかなくねェ?
糸でぐるぐる巻きにされたら、身動き取れずに死ぬヤツがほとんどだよなァ。
オレは熱線で焼けば……全身の火傷と引き換えに脱出できるな。あと服もか。
さて、今回はレールの建設現場の近くにいる蜘蛛を駆除するのが依頼だ。
なので大規模な魔法は使えないし、刀も鎖ごと振り回すのは無しだ。いや、そこまでレールに近くなかったら問題ねェか。
しっかし、この辺は乾燥しててヤダな。地面がパッサパサ。
元々岩場だったのか、そこかしこに大きめの岩がゴロゴロ転がっている。
「〜〜♪ 〜♬」
あァ〜、ゲームしてェ〜。もう半年になるのか? 新作も色々出てるだろうしなァ。帰った時の楽しみにしておくとすっか。
◆
お、蜘蛛いた。
岩に身を隠しながら様子を伺う。かなり距離が離れているのもあり、相手はこちらに気付いていない。
聞いてた通りデカイなァ……。何メートルある? 3メートルか4メートルはあるだろォがァ……。
まァ、頭に刀ぶっ刺せばなんとかなるか。あとは焼くっていう選択肢もあるなァ。凍らせるには……ちょいとサイズがデカ過ぎる。
しっかし……やっぱ不意討ちだよなァ。正々堂々なんてそんな野蛮な……ここは穏便に不意討ちで解決を、ってやつ。この手に限る。
というわけで抜刀。
─キンッ
高速で近づいてジャンプ。
「後ろから失礼しまァす!」
─ザシュッ!
脳天直撃ィ! でもまだ殺せてねェ! なら焼くかァ!
蜘蛛は長い脚で振り落とそうとしてくるが、余裕で回避する。
「熱線ッ!」
─ジィィィ……!!
首…首? を溶断しに掛かる。ニオイがやべェわ。ビニール焼いた時以上にキッツイ。
暴れていた蜘蛛の動きが段々と鈍くなり、完全に動かなくなった。
まァ、頭に刀が刺さった状態で首焼かれたらこうなるわなァ……。
─ズン……!
「おつかれさん」
さて、コイツはどんな味がすんのかなァ。
◆
大会開催の日まで1週間を切った。
いわゆる最終調整段階に入り、体調を崩したり無駄な怪我をしたりが無いように外出は禁止になった。
ちょっとしたトレーニングと読書くらいしかやることがねェが、まァ大人しくしとっか。オレも大会で勝ちたいし。
……あァ、そーだそーだ。ようやく分かった事だが、大会では殺し合いをするわけではないらしい。
「なんとかなりそォだなァ……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます