第26話 カードキー?

 

「ダメだァ! 可食部がほっとんど無ェェェ!!!」


見るも無惨な肉塊に変わり果てた元触手の生物を前に、思わず悲痛の叫びを上げるオレ。


残ってんのは触手1本だけかァ……。まァ、あんだけ撃たれてたらそりゃァそうか。逆に残ってたことを喜ぶべきか?


とりあえずこれだkうわ触感キモッ。


えっ……なんか……すごく……ひ、人の腕? みてェでなんか……ヤダ。これで肩怪我したのかオレ……。


「『氷塊』」


持って帰るけど。右腰に刺しとくか。ベルトの隙間に…よいしょ。ちィと冷てェが、まァいける。


さて……結局のところ、謎の新種生物は銃器の前に死亡していた。


洞窟で遭遇した時の恐怖なんてもうどこにも無く、あったのはただのデカイ死体のみ。いやまァ、それはそれで恐怖ではあるが。どちらかといえば機関銃に対する恐怖だなこれは。


というか……魔法という存在がありつつも科学でこんだけの結果を出されると、魔法を使う人が少ないのも納得だわ。全部科学で解決出来るんじゃねェかな?


……あ、前言撤回。この首輪は魔法の産物だった。じゃァそうなると、科学と魔法は8:2くらいか? こればっかりは調べる方法が無いから、予想にしかならねェが。


結論。オレも魔法頼りにせず、銃を使えるようになろうと思った。


しっかし、この世界の生物はどういう進化ルートを辿ってるのか興味が尽きねェなァ。この触手、似てる生物なんて知らねェし。


……この角度ならバレないか?


血と砂まみれの死体を弄る。銃弾で空いた穴に指を入れたり、表面を爪でカリカリしたり。


そして中央の部分に手を突っ込む。


─ぐちゃ……ぐちゃ……


生暖かい。


手の感覚だけで内部を探る。


……お、骨はあるのか。どれどれ……。


─ぶちぶちっ!


ん? なんか肋骨の一部みてェだなァ……。理科室で見た…というか、オレが今も持ってる教科書に描いてあるやつだわ。


別にいらんな。ぽいッ。


他になんか……なんかある。


明らかに骨や内臓とは違う感覚を、血濡れの指先に覚える。


あとちょっとで掴…掴め……掴め、た! そいッ!


……え、何コレ。血まみれのカード? とりあえず浄「ヒビキ!」やっべバレたか!?


肩から先を全部浄化! カードは収納!


「焼く準備が出来た。離れてくれ」


違った、バレてなかった。


「はァい」


家で触手を料理する。


これだけ聞くとタコ足を料理するみたいな言い方だが、実際に料理するのは新種生物の触手である。


手順はちょっと狂ってしまうが、解凍してから血抜きすることになる。……多分料理としては失敗するが、焼いて塩を振ればなんとか食べられるレベルにはなるだろう。


まァ、とりあえずやってみっか。


目の前で焼かれていく死体を前にそんなことを考える。



「……めっちゃ不味いです」

「具体的には?」

「血抜きに失敗したイノシシの首ら辺の苦い肉の味がします……」

「食えなくはないのか?」

「一応は、ですねェ」


多分、1週間くらい水とサラダしか食べてなかったら美味しいと思えるんじゃねェの?


とはいえ、さすがにこれを今日の夕ご飯の一品にするのは無理がある。


「体調に異変が出たらすぐに言うんだぞ?」

「分かりました」


食べた直後で異変が起きるとも思えないけど、気にするに越したことはないか。


とりあえず全部食べきるとするか。いくら不味くても栄養栄養だからな。全てオレの明日となれ。


「ん……」


うーん、やっぱ塩っていいよね。



「ふぁ〜……おはようございまァす」


あくびをしながらいつもの練習場にエントリー。


「特に異変は無い、ん? ほう……?」

「あれ? おはようございまァす」

「ああ、おはよう」


珍しいな。考え事か? 


「何かありました?」

「ああ、面白い事が起こったみたいだ。……ヒビキの体にな」

「え゛」

「ふふふ、すごい顔をしているぞ? 何が起こったか自分では分からないか」


え、ちょ、なに!? こ、怖いんですけど? 朝鏡見た時には何もなかったぞ?


自分の髪や腕を確認するが、至って普通のすべすべ肌だ。うん、超綺麗。


「(自分の手を見て落ち着くのか……)」

「で、オレの体に何が起きてるんですか?」

「そうだな、簡単に言えば……一日で魔素の量が増えている」

「え、すげェ」


昨日のアイツを食ったおかげでレベルアップした、ってところか? 急にファンタジーしてくるんじゃねェよ。


「……いやでも、これで魔法が強くなるのかは別問題ですよねェ?」

「ああ。出力を上げられるかはヒビキの腕に掛かっている」

「ローマは一日にして成らず、ですかァ……。それならやっぱ銃の扱い方を覚えた方がいいのでは?」

「大会で銃は禁止だぞ」

「今日も走り込みから始めますかねェ!」

「ふふっ」


やはり筋肉……! 筋肉は全てを解決する……!


……にしても、こっち来てから今まで色々と食べてきたが、魔素が増えたなんてのは初めてだ。


あの触手生物、一体全体なんなんだ? アレの体内になんかヤバイ薬みてェなの入ってないよな? まァ、健康被害が出るようなら『回復』でなんとかすればいいか。



トレーニングが終わり、資料室に来た。


そういえば、アイツの体内から拾ったこのカード。放置したままだったな。浄化、と。


……は?


『201 IC CARD KEY』


なん、いや、え、これカードキー……?


じっとりとした汗が背を伝う。


形容できない恐怖が再びオレの前に現れる。


今日の眠りは浅かった。

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