第23話 撤退?
─バンバン!!
『ルルルるルルらレららああリリあァァァ!』
いくつもの触手を伸ばして攻撃してくる。
「いッ…!」
その内の1本が右肩を刺し、コートと魔力強化をした肉体を貫いて傷を付ける。
─ザシュッ!
引き抜かれた肩から血が流れるのが分かる。
「ぐッ……!」
「っヒビキ!?」
「平気、ですよ……!」
魔力強化を貫通してくるのは予想外だけどなァ……!
すぐさま回復して止血、お返しに背中から熱線を撃つ。
『ギャアアアアらららァあらりらら!!』
「マジ!? 効いてる!」
「いや服燃えてんぞ!?」
「氷塊! はいオッケェ!!」
「あーまぁいい! 前の折り返しは途中で切り返すぞ!」
「りょ!」
─タタンッ!
緩いスロープの折り返しは、手すりを掴み反転。数秒のショートカット。
異形の生物はスロープを破壊しながらも、触手で近くの足場を掴む。落ちることはなく、オレたちを殺しに掛かる。
息付く間も無く4階層。
上で崩れた足場の残骸が素直に走らせることを邪魔する。
どうにかして足止めしてェが……いや、足止めより殺す方法について考えるべきか!? まァとにかくッ!
「どうにかッ、アイツだけ下にッ、落としたい、ですねェッ!」
「それはっ、かなりっ…! 厳しくねーか!?」
残骸に足が引っかからないよう、歩幅をずらしながら走る。
『るりれろりれらりええええ!!!』
「ッ! 触手が来ますッ!」
「俺も剣持ってくりゃよかったぜっ!」
持ってきた短刀。拾った鉄パイプ。
それぞれの武器で触手を防ぐ。後ろからの攻撃だから、やりづらいことこの上ないが、なァッ!!
─ギンッ! カンッ!
斬った触手から血が流れる。
……血、流れてんだ。なら生物ではある、のか?
なんていってる場合じゃねェ! 今は触手の射程ギリだから斬ったり弾いたり出来てるが、掴まれる距離まで近づかれたら…!?
「!? 掴まッ、熱線ッ!」
胴体を掴むように伸びてきた触手を焼き切る。
あっぶねェ…!!!? まだ伸びるじゃねェか! 死ぬかと思ったァ!
『るるるルルいイいいああァァアア!』
「コイツゥ! 意外と賢いのか!?」
「刺すかと思ってたら、普通に胴体掴みにきましたからねェ…! 知性の無いバカではねェわけですか……!」
掴むのを諦めたのか分からないが、また刺すか鞭のように攻撃してくる。
「魔力はっ! どんくらい残ってる!?」
「9割ィ! ですッ!」
「近づかれたらまた熱線頼んでいいか!?」
「もちろんでェす!」
─バキンッ!!
「うおっ!?」
「崩れるッ……!」
アイツ何キロあんの!? それともトンか!?
重みに耐えきれない足場が、崖から離れ地面に落ちていく。
それにぶつかった下の階層の足場は嫌な音を立て、ものすごく不安定な状態に陥っている。
これからそこ通らなきゃいけねェのマジ? 凍らせながらならなんとかいけるか? いやまずは足場を安定させるッ!
「氷塊ッ!」
「! ヒビキ! それで崖沿いに斜めに…こう、滑って降りられねーか?」
「滑り台造れって事ですか? 途中で攻撃されたら死にません!?」
「……熱線でいけない?」
「オレの負担がすごい!? あァもう! 死ぬよりはマシですけどォ! 最悪3メートルのジャンプは覚悟して下さいねェ!」
「それくらいならヒビキを抱えても降りられるぜ!」
「そりゃァ頼もしい限りですねェ!」
氷塊で造る地点は……危ねッ……次のスロープを延長するように、だなァ。
『ううウるるりりれれれれレレオオ!!』
「あのスロープ伸ばすように造るんでッ!」
「何秒掛かる!?」
「造りながら降りるんで0秒!」
「最高!」
最大出力でやらねェとなァ……!
タイミングを計れ……!
納刀後、大きく息を吸う。
「『solid:phase transition:ice block』『氷塊』ッ!」
─ビシビシッ!
とりあえず-30°で20メートル。つまりY軸マイナス10メートルってわけだ。
レイイチさんは手すりを跳び越え、オレはスライディングで下を通る。
たった今通った手すりの鉄パイプを触手が貫く。
「ギリギリッ!」
「うおっ、バランス取りづらっ!?」
「そっちは壁側だからなんとかなるでしょう!?」
オレなんてスライディングの体勢で外側だぞ!? 怖ェって!
まァとりあえず、魔力はまだ残ってる。てかむしろ、脚が熱いことに対して困ってるわ。
『るリりろらおオオおええあアああ!!』
「氷塊! 熱線!」
先に道を造りつつ、後ろを溶かしていく。
同時に使ってるからキツイ!
「危ねぇ!」
「!?」
─カンッ!
「ヘルメットありがとォ!」
「落石か……! マジでヘルメットがあって助かったな……」
『ああぁぁぁアァァァ…!』
異形の生物は触手を伸ばしてくるが、オレたちには届いていない。
「なんとか、なったか…!」
「はッ……はッ……あとは、地面に降り立つだけ、ですねェ……!」
とりあえずの安全は確保できた……。やべェ、めっちゃドキドキしたわ。主に恐怖で。
「ああ。……ちょっと待って」
え?
「氷塊は止めないですよね?」
「氷塊はそのまま頼む。違くてだ。アレあのままだと足場と一緒に落ちるよな……?」
「まァ、そうでしょうねェ。……あっ」
それってさァ……アイツも地面に降りてくる……ってコト!?
「……いや! アイツより先に降りて逃げましょう。逃げ切って町で色々整えてから反撃する方向でいきましょォよ」
「作業員は?」
「この惨状で逃げてない人いねェと思いますよ」
「確かに」
「てか、流石に調査依頼に対して油断しすぎでしたかねェ?」
「いやぁ……まさかあんなのがいるとは思わねーよ」
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