第22話 未知の生命?

 

オレとレイイチさんは、『ボーリン採掘場』の1階から順番に見て回ることにした。


当然の事ながら、採掘場なので広い。


しかし、依頼内容曰く『新種の生物』はかなり大きいらしい。なので、大きめの通路だけを懐中電灯で照らしながら進んだ。


まずは1階から。


たまにコウモリがいるくらいで、生物の痕跡は少なかった。というか、大型生物の痕跡に至ってはゼロ。何も無かった。


「ていうか、採掘場ってあんな感じなんですねェ……。洞窟っていうか、崖を削った穴が繋がったみたいでしたよ」

「それは俺も思った」

「アレなんですかね? 浅く広く、って事なんですかね?」

「多分そうなんだろ。『探知』の効率を上げるためとか、他にもいろいろあるとは思うけどなー」


こういう所はファンタジーしてくるんだよなァ、この世界。


なのに懐中電灯で進むもんだから、違和感のすごいことすごいこと。


「さて、次は2階だな」

「崖以外にも上がれる場所造った方が良い、って考えるのはオレだけじゃねェと思うんです」

「予算の問題」

「世知辛ェ」


緩やかなスロープを上って2階層へ向かう。



コツコツ、と洞窟に足音を響かせながら奥へと進む。


大きい新種の生物ってどんなやつなんだろうか。


そいつのせいで作業が滞ってるっていう話だが、そんなに危険な生物なのか?


……いや、アレか。野生で大きいってことは、そのまま危険度に直結するって言っても過言じゃねェのか。


いつぞやのライメイグマしかり、カラスしかり。単純に、デカイやつは強い。


冒険者にとっても厳しいし、ましてや戦うことを想定していない作業員なら尚のこと。


警戒するに越したことはねェか。


「……寒ッ」

「わかる。洞窟って冷えるよな」

「作業する人にはこれくらいが丁度いいんですかねェ……」


オレとしてもこの寒さに『警戒を怠るな』って言われてるみたいで、気が引き締まるから丁度いいなァ。


新種の生物も動きが鈍るだろうし、タイミングとしては良かったな。


─……


今なんか音……したか? 気のせいか?


「どうかしたか?」

「あ、いやァ…音、しませんでした?」

「音? 俺は聞こえなかったが……」

「そうですかァ……」


念の為、聴力上げて確認─


─……


なんも…じゃねェが、ほとんど分かんねェわ。あからさまにデカイやつの音はしねェけど……動いてなきゃ音しねェからなァ。



2階層、3階層共に何も無かった。


「この調子じゃ、4階層にもいなそうだよなー」

「ですねェ」


3階層の洞窟を回り終え、崖沿いに設置されている金属製の足場の上で一息つく。


いつぞやのイチゴっぽいフルーツを食べる。


……やっぱ酸っぱい。てか時間経過が無ェのおかしいだろ。何? 量子変換でもしてんの?


「……ところでヒビキ、気づいたか?」

「え? 何にです?」

「2階と3階、どっちにも生物が何もいなかっただろ?」

「……そうでしたっけ?」

「うん」


崩落と落石を警戒しててそんなこと気にしてなかったわ。


「言われてみれば、コウモリは1階にしかいなかったような……? まァ、アレですか。強いのが上の方にいるから、ってヤツですねェ?」


あるあるのヤツ。


「そういうこと」

「とはいえですよ。まだ結構階層あるんですがァ……」

「…………」

「もういっその事、大きな音でも出して呼び寄せた方が早くねェですか? あ、でも足場が狭いから危険か」

「…そうだな、やめておこう。予想以上にデカかったら、足場がもつか分からねーし」


ここ、2メートルあるかないかの道だもんなァ。


手すりもちょっと錆びてるし。


「そんなら、地道に探しましょうかねェ!」

「うおっ、びっくりした」



5階層を探索している最中。


─……!


グラッ、とそこそこ大きめの揺れを感じた。


「…揺れた、今揺れましたよねェ!? あとなんか聞こえた!」

「分かったわかった。揺れたな。かなり近かった気がするが、6階か?」

「多分そうです。7階の可能性もありますけど、まァ多分6階でしょ─」


─ゴゴゴゴゴゴ!!


激しい揺れと、恐らく崩落。オレたちの近くでも、ちょっとした破片が落ちてきてる。


『……ぅゥゥ!!』


入り口の方から獣……のような何かの唸り声が聞こえてくる。


「ッ!」

「ヤバいか……?」

「別に入り口、あそこだけじゃないですよね?」

「それはそうなんだが…いや、そうだな、姿が見えればこれで……」

「結構暗いですけど、一瞬で写せます?」


レイイチさんは自分のフィルムカメラをチラッと見た。


「……無理かも」


……そっすか。


『ルルゥゥううろろあァァァァ…!』


「い、一旦外まで引きましょォか。足音? 的にこっち来てます」

「うん、逃げよう」


オレたちは走り出す。カーブと分岐が多い影響で速度が出せないのがもどかしい。


─ズン……ズン……!


『ぁぁぁぁァァァらららららら……!!』


まだ遠い。


というか、そもそもあっちはオレたちを認識してんのか? 目視されたわけでもねェわけだし、明確にオレたちを追ってるのかの判断が……。


『うぅうぅりりりりええるルルルルルああア゛ア゛!!』


でも確実に近くなっている。この世の生物とは思えない、聞くだけで恐怖を感じさせる不協和音のような鳴き声……いや、叫び声。


自分でも引くレベルで心拍数が上がっている。


「はっ……はっ……!」

「……ッ」


どうするどうするどうする!? 声だけで分かるヤバい奴じゃん! 絶対追っかけて来てるって!


氷塊で壁造るか!? いや難なく突破されたら魔力の消費にしかなんねェ!


熱線なら……近づきたくねェ! 伸びたけど射程2メートルしかねェし!


─ドォン! ドォン!


『ららららァァァえエレエレええ!!!』


チラッと後ろを振り返る。


「ッッ!!?」


何かが蠢きながら迫ってくる。


ムリムリムリムリ!! キモイキモイ!


もう10メートルないって!!


「もうすぐ出口だっ! 勢い余って落ちるなよ!?」

「りょうかいでェすッ!」


外の光が漏れている場所目掛けて走り続ける。


後ろの『何か』も光など気にしないのか、オレたちを追ってくる。


この状況でスピード落とさないといけないのやだァ! だからって落下死も嫌なんだよなァ!


『うるるるえええおおろお!!』


─ガラガラガラ!


「出たらすぐ右!」

「はァい!」


3…2…1ッ!


洞窟から外に出る。


すぐ右に曲が…れたッ!


鉄板の足場に倒れながらも曲がりきった。


─ガシャァァン!!


『ららららアアウウウええれれぇぇえ!』


勢いよく外に飛び出し、陽の光によって晒されたその姿は、既存の生物どれにも当てはまらない。


まさに異形。肌色の触手の塊。


「ヒビキ! 止まるな! アイツは落ちてない! 足場が崩れるぞ!」

「ッ!? 『氷塊』!」

「ナイス! こっちだ!」


もう写真を撮っている場合では無い。

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