第22話 未知の生命?
オレとレイイチさんは、『ボーリン採掘場』の1階から順番に見て回ることにした。
当然の事ながら、採掘場なので広い。
しかし、依頼内容曰く『新種の生物』はかなり大きいらしい。なので、大きめの通路だけを懐中電灯で照らしながら進んだ。
まずは1階から。
たまにコウモリがいるくらいで、生物の痕跡は少なかった。というか、大型生物の痕跡に至ってはゼロ。何も無かった。
「ていうか、採掘場ってあんな感じなんですねェ……。洞窟っていうか、崖を削った穴が繋がったみたいでしたよ」
「それは俺も思った」
「アレなんですかね? 浅く広く、って事なんですかね?」
「多分そうなんだろ。『探知』の効率を上げるためとか、他にもいろいろあるとは思うけどなー」
こういう所はファンタジーしてくるんだよなァ、この世界。
なのに懐中電灯で進むもんだから、違和感のすごいことすごいこと。
「さて、次は2階だな」
「崖以外にも上がれる場所造った方が良い、って考えるのはオレだけじゃねェと思うんです」
「予算の問題」
「世知辛ェ」
緩やかなスロープを上って2階層へ向かう。
◆
コツコツ、と洞窟に足音を響かせながら奥へと進む。
大きい新種の生物ってどんなやつなんだろうか。
そいつのせいで作業が滞ってるっていう話だが、そんなに危険な生物なのか?
……いや、アレか。野生で大きいってことは、そのまま危険度に直結するって言っても過言じゃねェのか。
いつぞやのライメイグマしかり、カラスしかり。単純に、デカイやつは強い。
冒険者にとっても厳しいし、ましてや戦うことを想定していない作業員なら尚のこと。
警戒するに越したことはねェか。
「……寒ッ」
「わかる。洞窟って冷えるよな」
「作業する人にはこれくらいが丁度いいんですかねェ……」
オレとしてもこの寒さに『警戒を怠るな』って言われてるみたいで、気が引き締まるから丁度いいなァ。
新種の生物も動きが鈍るだろうし、タイミングとしては良かったな。
─……
今なんか音……したか? 気のせいか?
「どうかしたか?」
「あ、いやァ…音、しませんでした?」
「音? 俺は聞こえなかったが……」
「そうですかァ……」
念の為、聴力上げて確認─
─……
なんも…じゃねェが、ほとんど分かんねェわ。あからさまにデカイやつの音はしねェけど……動いてなきゃ音しねェからなァ。
◆
2階層、3階層共に何も無かった。
「この調子じゃ、4階層にもいなそうだよなー」
「ですねェ」
3階層の洞窟を回り終え、崖沿いに設置されている金属製の足場の上で一息つく。
いつぞやのイチゴっぽいフルーツを食べる。
……やっぱ酸っぱい。てか時間経過が無ェのおかしいだろ。何? 量子変換でもしてんの?
「……ところでヒビキ、気づいたか?」
「え? 何にです?」
「2階と3階、どっちにも生物が何もいなかっただろ?」
「……そうでしたっけ?」
「うん」
崩落と落石を警戒しててそんなこと気にしてなかったわ。
「言われてみれば、コウモリは1階にしかいなかったような……? まァ、アレですか。強いのが上の方にいるから、ってヤツですねェ?」
あるあるのヤツ。
「そういうこと」
「とはいえですよ。まだ結構階層あるんですがァ……」
「…………」
「もういっその事、大きな音でも出して呼び寄せた方が早くねェですか? あ、でも足場が狭いから危険か」
「…そうだな、やめておこう。予想以上にデカかったら、足場がもつか分からねーし」
ここ、2メートルあるかないかの道だもんなァ。
手すりもちょっと錆びてるし。
「そんなら、地道に探しましょうかねェ!」
「うおっ、びっくりした」
◆
5階層を探索している最中。
─……!
グラッ、とそこそこ大きめの揺れを感じた。
「…揺れた、今揺れましたよねェ!? あとなんか聞こえた!」
「分かったわかった。揺れたな。かなり近かった気がするが、6階か?」
「多分そうです。7階の可能性もありますけど、まァ多分6階でしょ─」
─ゴゴゴゴゴゴ!!
激しい揺れと、恐らく崩落。オレたちの近くでも、ちょっとした破片が落ちてきてる。
『……ぅゥゥ!!』
入り口の方から獣……のような何かの唸り声が聞こえてくる。
「ッ!」
「ヤバいか……?」
「別に入り口、あそこだけじゃないですよね?」
「それはそうなんだが…いや、そうだな、姿が見えればこれで……」
「結構暗いですけど、一瞬で写せます?」
レイイチさんは自分のフィルムカメラをチラッと見た。
「……無理かも」
……そっすか。
『ルルゥゥううろろあァァァァ…!』
「い、一旦外まで引きましょォか。足音? 的にこっち来てます」
「うん、逃げよう」
オレたちは走り出す。カーブと分岐が多い影響で速度が出せないのがもどかしい。
─ズン……ズン……!
『ぁぁぁぁァァァらららららら……!!』
まだ遠い。
というか、そもそもあっちはオレたちを認識してんのか? 目視されたわけでもねェわけだし、明確にオレたちを追ってるのかの判断が……。
『うぅうぅりりりりええるルルルルルああア゛ア゛!!』
でも確実に近くなっている。この世の生物とは思えない、聞くだけで恐怖を感じさせる不協和音のような鳴き声……いや、叫び声。
自分でも引くレベルで心拍数が上がっている。
「はっ……はっ……!」
「……ッ」
どうするどうするどうする!? 声だけで分かるヤバい奴じゃん! 絶対追っかけて来てるって!
氷塊で壁造るか!? いや難なく突破されたら魔力の消費にしかなんねェ!
熱線なら……近づきたくねェ! 伸びたけど射程2メートルしかねェし!
─ドォン! ドォン!
『ららららァァァえエレエレええ!!!』
チラッと後ろを振り返る。
「ッッ!!?」
何かが蠢きながら迫ってくる。
ムリムリムリムリ!! キモイキモイ!
もう10メートルないって!!
「もうすぐ出口だっ! 勢い余って落ちるなよ!?」
「りょうかいでェすッ!」
外の光が漏れている場所目掛けて走り続ける。
後ろの『何か』も光など気にしないのか、オレたちを追ってくる。
この状況でスピード落とさないといけないのやだァ! だからって落下死も嫌なんだよなァ!
『うるるるえええおおろお!!』
─ガラガラガラ!
「出たらすぐ右!」
「はァい!」
3…2…1ッ!
洞窟から外に出る。
すぐ右に曲が…れたッ!
鉄板の足場に倒れながらも曲がりきった。
─ガシャァァン!!
『ららららアアウウウええれれぇぇえ!』
勢いよく外に飛び出し、陽の光によって晒されたその姿は、既存の生物どれにも当てはまらない。
まさに異形。肌色の触手の塊。
「ヒビキ! 止まるな! アイツは落ちてない! 足場が崩れるぞ!」
「ッ!? 『氷塊』!」
「ナイス! こっちだ!」
もう写真を撮っている場合では無い。
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