第20話 プレートの転移
『─我々は、この海渡プレートから採取した未知の成分を『魔素』と呼ぶことに決定致しました。この魔素は、ウイルスのような性質を持つという事が研究によって判明し─』
テレビから流れているニュースの中継映像を見て、俺は眉をひそめる。
プレート関係が注目されるのは分かるが……少しは行方不明になっている友人の事も注目されて欲しい。
「ヒビキ君、まだ見つからないのね」
「うん……」
一体どこで何をしているのだろうか。
「まだ高校生なのに可哀想……でも絶対見つかるわよ。大丈夫」
「そう…だよね。アイツはそんな簡単に死ぬようなヤツじゃないし!」
ナイフ一本でイノシシを食肉に変える男だ。そう簡単に死ぬとは思えない。意外と早く帰ってくるだろう。
「そうよ! それに、まだ捜査が打ち切りになったわけでもないじゃない。諦めちゃダメよ」
「分かった! あ、そろそろ時間だから行くわ」
きっと、また会える。
『──また、この魔素は人間に感染する可能性があるとし、現在も解析を進めております。くれぐれも、興味本位で立ち入り禁止区域に侵入するなど──』
◇
「おい! どうなっている!?」
「わ、わかりません! もう何が何だか…!」
「ええい! 監視カメラの映像は!?」
「しょ、少々お待ちください! おい! 君は映像の準備! そっちは関係各所に連絡! 急げ!」
「は、はいぃ!」
海渡市にある特設研究所。そこではある異常事態が発生し、慌ただしい様子だ。
上司が怒り、部下がそれに対応するというのは社会ではよくある事だ。しかし、ここではその上司にあたる人間も焦りが態度に顕著に現れている。
「一体どうすれば……! いや、まずは事態の把握からだ……!」
顔を青くし、分かりやすくパニック状態の男。
「繋ぎました! いつでも流せます!」
「よし、皆聞いてくれ。これから映像を確認する! 一旦手を止めてこっちに集合!」
「はい!」
暫くの後、数十名の研究員が一つの部屋に集まった。
海渡プレートを監視していたカメラの映像が流れる。
『2020-12-23 15:29』
画面の左下に日時が小さくある。
映像の中では、部屋の中央にあるプレートが存在感を主張している。
「……この時点では異常は無いのか」
『2020-12-23 15:30』
異常は起こる。
「!?」
「プレートが、消えた……?」
「あ、ありえない……」
映像の中のプレートが、なんの前触れもなく姿を消した。
研究員達がざわざわとどよめく。
「静かに! ……この映像に加工された跡はないのか?」
「それはまだですが、とてもそんな時間があったとは─」
「確認しろ」
「は、はい!」
現在時刻は午後3時37分。プレートがなくなった事を発見してから、たったの7分しか経っていない。
しかし、
「この確認には意味がある。徹底的にやるように」
「りょ、了解しました」
「副所長、関係各所への連絡は私が行う。引き続き、映像の確認を」
「わ、わかりました!」
「キミ達、ちょっといいかな?」
「!? だ、誰だお前!? どこから入ってきた!?」
「フフっ……どこからだと思う? まぁいいや。キミ達全員、今日から僕の『奴隷』ね」
紫色のショートヘアでスーツに身を包んだ男が指を鳴らす。
「「「…………」」」
その研究所は、静かになった。
◇
海渡プレートの消失は瞬く間に知れ渡った。
それは日本国内のみに留まらず、海を越えた国にまで伝わる。
魔素の解析が進んできたところでのこの出来事は、かなりの痛手となった。
ある程度のサンプルは確保しているものの、プレートそのものが転移するのは想定外である。
当然の事ながら、政府は対応に追われた。
◇
最初はゆっくりと回し、そこから段々と速度を上げる。万が一に摩擦で皮膚が傷つかないように、魔力強化で右手を保護する。同時に脳を強化し、反応速度を上げる。
コレ髪の毛巻き込みそうで怖ェな……。そろそろ切るか? まァ、後で考えっか。
ヒュンヒュンと音を立てながら、体の周りで『飛刀・鎖』を高速で振り回す。
結構風吹くなコレ。
少し離れた位置にある氷の壁に向かって、薙ぎ払うように鎖を伸ばす。
─バキンッ!!
全てを破壊することは叶わなかったが、大きく崩す事は出来た。
残った勢いを殺さないよう、鎖を引っ張り短くしながら刀部分を手元に戻し、右手でキャッチ。
─パシッ
左腰にある鞘に納刀。
「なんか……意外としっくりくるのが驚きです」
「ああ、俺も正直驚いている。しかし! ヒビキが運命の武器に出会えたというのなら、それは喜ばしいことだ!」
「そォ…ですかね?」
運命、かァ……。
よく分かんねェけど、コイツは気に入った。普通に剣を振るよりも何倍も楽しいし、多分強い。あと刀はカッコイイから好き。
「あ、そういえば24日になりましたけど、脳の強化は合格ですか?」
「今のを見て不合格を出すやつはいないだろう。もちろん合格だ!」
やったッ。
「この調子で鎖の扱いも洗練させていこうじゃないか!」
「はい!」
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