第20話 プレートの転移

 

『─我々は、この海渡プレートから採取した未知の成分を『魔素』と呼ぶことに決定致しました。この魔素は、ウイルスのような性質を持つという事が研究によって判明し─』


テレビから流れているニュースの中継映像を見て、俺は眉をひそめる。


プレート関係が注目されるのは分かるが……少しは行方不明になっている友人の事も注目されて欲しい。


「ヒビキ君、まだ見つからないのね」

「うん……」


一体どこで何をしているのだろうか。


「まだ高校生なのに可哀想……でも絶対見つかるわよ。大丈夫」

「そう…だよね。アイツはそんな簡単に死ぬようなヤツじゃないし!」


ナイフ一本でイノシシを食肉に変える男だ。そう簡単に死ぬとは思えない。意外と早く帰ってくるだろう。


「そうよ! それに、まだ捜査が打ち切りになったわけでもないじゃない。諦めちゃダメよ」

「分かった! あ、そろそろ時間だから行くわ」


きっと、また会える。


『──また、この魔素は人間に感染する可能性があるとし、現在も解析を進めております。くれぐれも、興味本位で立ち入り禁止区域に侵入するなど──』



「おい! どうなっている!?」

「わ、わかりません! もう何が何だか…!」

「ええい! 監視カメラの映像は!?」

「しょ、少々お待ちください! おい! 君は映像の準備! そっちは関係各所に連絡! 急げ!」

「は、はいぃ!」


海渡市にある特設研究所。そこではある異常事態が発生し、慌ただしい様子だ。


上司が怒り、部下がそれに対応するというのは社会ではよくある事だ。しかし、ここではその上司にあたる人間も焦りが態度に顕著に現れている。


「一体どうすれば……! いや、まずは事態の把握からだ……!」


顔を青くし、分かりやすくパニック状態の男。


「繋ぎました! いつでも流せます!」

「よし、皆聞いてくれ。これから映像を確認する! 一旦手を止めてこっちに集合!」

「はい!」


暫くの後、数十名の研究員が一つの部屋に集まった。


海渡プレートを監視していたカメラの映像が流れる。


『2020-12-23 15:29』


画面の左下に日時が小さくある。


映像の中では、部屋の中央にあるプレートが存在感を主張している。


「……この時点では異常は無いのか」


『2020-12-23 15:30』


異常は起こる。


「!?」

「プレートが、消えた……?」

「あ、ありえない……」


映像の中のプレートが、なんの前触れもなく姿を消した。


研究員達がざわざわとどよめく。


「静かに! ……この映像に加工された跡はないのか?」

「それはまだですが、とてもそんな時間があったとは─」

「確認しろ」

「は、はい!」


現在時刻は午後3時37分。プレートがなくなった事を発見してから、たったの7分しか経っていない。


しかし、所長は映像に細工された跡が無いかを確認させた。


「この確認には意味がある。徹底的にやるように」

「りょ、了解しました」

「副所長、関係各所への連絡は私が行う。引き続き、映像の確認を」

「わ、わかりました!」



「キミ達、ちょっといいかな?」



「!? だ、誰だお前!? どこから入ってきた!?」

「フフっ……どこからだと思う? まぁいいや。キミ達全員、今日から僕の『奴隷』ね」


紫色のショートヘアでスーツに身を包んだ男が指を鳴らす。


「「「…………」」」


その研究所は、静かになった。



海渡プレートの消失は瞬く間に知れ渡った。


それは日本国内のみに留まらず、海を越えた国にまで伝わる。


魔素の解析が進んできたところでのこの出来事は、かなりの痛手となった。


ある程度のサンプルは確保しているものの、プレートそのものが転移するのは想定外である。


当然の事ながら、政府は対応に追われた。



最初はゆっくりと回し、そこから段々と速度を上げる。万が一に摩擦で皮膚が傷つかないように、魔力強化で右手を保護する。同時に脳を強化し、反応速度を上げる。


コレ髪の毛巻き込みそうで怖ェな……。そろそろ切るか? まァ、後で考えっか。


ヒュンヒュンと音を立てながら、体の周りで『飛刀・鎖』を高速で振り回す。


結構風吹くなコレ。


少し離れた位置にある氷の壁に向かって、薙ぎ払うように鎖を伸ばす。


─バキンッ!!


全てを破壊することは叶わなかったが、大きく崩す事は出来た。


残った勢いを殺さないよう、鎖を引っ張り短くしながら刀部分を手元に戻し、右手でキャッチ。


─パシッ


左腰にある鞘に納刀。


「なんか……意外としっくりくるのが驚きです」

「ああ、俺も正直驚いている。しかし! ヒビキが運命の武器に出会えたというのなら、それは喜ばしいことだ!」

「そォ…ですかね?」


運命、かァ……。


よく分かんねェけど、コイツは気に入った。普通に剣を振るよりも何倍も楽しいし、多分強い。あと刀はカッコイイから好き。


「あ、そういえば24日になりましたけど、脳の強化は合格ですか?」

「今のを見て不合格を出すやつはいないだろう。もちろん合格だ!」


やったッ。


「この調子で鎖の扱いも洗練させていこうじゃないか!」

「はい!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る