第16話 不意打ち?
門を通り、オレたちは壁の外へ出た。
「で、ライメイグマでしたっけ? ドコにいんですか?」
「あー、詳しい場所までは分からない。けど、近くの林の中にいると思うぞ」
森じゃねェのな。てかマジこの国全体木に囲まれてんじゃんウケる。
ここらのが杉の木だったら、花粉症の人はきっと地獄を見んだろォなァ……。
形的に杉とかヒノキとかの細長いやつじゃねェから可能性は低いが。どちらかっつゥと、桜とかリンゴの木だし。
とまァ、んな事はどうでもいいんだよ。問題はクマとどうやって戦うかだ。
「流石にこの近くで戦うとマズイですかねェ……」
「あぁ、マズい。……というか、本気でやる気?」
「本気も本気ですよ」
格上との戦いは避けて通れぬ道、この世のルールみてェなもんだからなァ。ゲームでもそうだし。
「まァ、無理そうなら逃げればいィんですよ」
「逃げられない状況まで追い込まれるかも知れねーよ?」
そのための『回復』、と言いたいのを我慢する。
「そうですねェ……」
マサムネさんから、あんまり回復のことは誰かに言わない方がいいって聞かされたからなァ。たーぶん、無闇に情報を晒すなって感じだろォよ。
「……そんときは、『爆裂』で林ごと焼きますかねェ」
「最終手段が過ぎるわ! 環境破壊は駄目だろ……」
知らん。オレとしては『火傷も一酸化炭素中毒も、回復で治せるもの』だから、『爆裂』も強めの反動技でしかねェからなァ。
魔力が尽きたら間違いなくアウトだが、そこの管理はしっかりやる。
……そもそも苦しいからやりたくはねェけど、ミスから生まれたものにしては強すぎた。
◇
『爆裂』
この魔法は一言で言うなら、欠陥技だ。
この魔法を欠陥技たらしめる理由はいくつかあるが、最大の理由は『
まァ、まずは生まれた経緯からだなァ。
『熱線』を詠唱無しでやろうとしたら、右手の手のひらが爆発した…ってところか。
そう、『手のひらが爆発』した。
熱線は体の一部を起点、魔素を冷媒としヒーターのように常に熱を放出する魔法だ。温度は約1000℃にも及ぶ。
そんな放出し続けて1000℃になる魔法で、間違えて熱を溜め込んだらどうなるか。
そう……
─☆爆☆散☆─
である。
つまるところ、『じばく』である。
ちなみに右手が吹き飛ぶ以外にも、服が燃えたり体温が下がったりする。具体的には、冬場に冷たいシャワーを浴びたみたいになる。
痛みと寒さで死ぬかと思ったよね。
◇
はい、回想終了。
「あァそれで、クマどこにおびき寄せるんですか?」
「どうせやるならこっちが有利な場所がいーな。例えば、クマが動きづらいような狭い場所とか」
「…それオレらも動きづれェと思うんですけど?」
「そこまで狭い場所にはしねーよ。せいぜい、周りの木がそこそこあれば充分」
そんなもんか。
「……?」
「どォかしまし─」
『─ガァァァ……!』
絶対今のじゃん。
「あっちからですねェ」
「あぁ」
「…そんじゃ、クマ狩りと行きますかァ!」
「急にテンション高」
◆
暫く歩いて林の中。
視線の先にはこちらに気づかず何かを食べているクマがいる。
大きさは……多分、余裕で2メートル超えてる。
背ェ向けてっからよく分かんねェけど、多分野生動物かなんかだろォなァ。
微かに聞こえる『ゴリッ! ベキッ!』という音が……なんか、明らかに骨を砕く音だわ。
クマに気づかれないよう、木に身を隠しながら小声で会話する。
「……どうする?」
「どう、とは?」
「いや不意打ちするかって聞いてんだよ」
不意打ちか。ダメージが上がりそう。
「そのショットガンここから当てられます?」
「……難しーな。50メートルまで近づけば確実に当たるんだが……というか、対人戦の練習台にするんじゃなかった?」
「え? あァ、なんか…正面切っていくのはやっぱ怖いなって……」
「女の子だな」
しょうがねェだろォ? 昔襲われたツキノワグマよりデカイんだもん。
美味しかったけど。
てか心は男だ。
「そんなわけで、ショットガンお願いしまァす。後はオレが魔法と剣で何とかするんで」
「分かった。まずは近づかねーとか」
クマはまだぐちゃぐちゃと音を立てながら食事中だ。あの様子じゃ余程近くまでいかなきゃ気付かれねェだろ。
オレたちは音を立てずに、しかし素早く移動を始めた。
……久しぶりだなァ。ここまで緊張すんのは。
まるで見つかったら終わりのステルスミッションをやってる感覚だぜ……!
段ボールでどうにかなったらよかったんだが……まァ、この林は風で揺れる葉の音が大きいからなんとかなってる。
クマが近くなってきた。多分50メートル圏内だろ。
「いけます?」
「いけるぞ。どこを狙う?」
「体の中心ぶち抜いてやりましょォか」
頭狙っても角度的にキツイっしょ。
レイイチさんはショットガンに弾を込めた。なんでショットガンの弾って赤いんだろ? まァいいか。
「……準備万端。いつでも撃てる。合図はどうする?」
「なら、321のカウントダウンするんでそれで」
「分かった」
「いきますよ…………3、2、1!」
─ダァン!!
同時にオレは駆け出した。
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