第13話 行方不明

 

神渡 ヒビキがいなくなってすぐの地球にて。


『一週間前から行方がわかっていない神渡ヒビキさんですが、今朝本人のものとみられるスマートフォンが発見され、警察は何かしら事件に巻き込まれた可能性があるとして──』


彼…現彼女は行方不明者として全国的に報道されていた。


いつまでも家に帰ってこないヒビキを心配した両親が、警察に通報したのが事の発端だ。


これだけならニュースになることは無かっただろう。


では何故ニュースになっているのか。


それは──


『─同時に、現場と思われる地点に存在する『謎のプレート』が関係しているかどうか調査を続けている、とのことです』


『謎のプレート』があったからだ。


『この『謎のプレート』、というのが非常に気になるところなんですが……』

『はい。数ヶ月前から存在が確認されているこの物体は、長さは実に8メートルにもおよぶとのことです』


現在、プレートが存在する地点から半径20kmは緊急時避難準備区域に指定されている。


何故かというと、そのプレートから『未知の成分』が微小ながらも発生していることが判明したからだ。


この『未知の成分』は人体の細胞と遺伝子に影響を与える放射能に似た性質を持つ何か、ということが研究により解明された事が主な理由だ。


『──捜査も満足して行えない状況で、神渡ヒビキさんが見つかる可能性はかなり低いでしょうね……』


世間からの注目度合いでいえば、ヒビキよりもプレートへの方が高い。


当然といえば当然で、人体に害をもたらす可能性を持つ物体と行方不明の高校生では関心度が違う。


加えて、現場は海が見える位置にある。つまりはそういうことだ。


そして何より、このプレート自体が謎に包まれているからだろう。


いつ、何処で、誰が作ったのか……不明。


どうやってコンクリートと地盤を貫通し、何故そこに配置したのか……不明。


極めつけに、プレートの材質までもが不明。


何もかもが不明のプレート、というのはどうしても興味を持たせる。


世間では連日のようにその正体が考察され、また研究所では未知の物質を解明するために日夜奔走している。


そんなことがあって、ヒビキの行方よりプレートの解明が望まれることになった。


もちろん家族や親戚、友人なんかにとってはヒビキの方が重要だ。


しかし、人の噂も七十五日。情報が更新されるプレートとは違い、ヒビキの情報が更新されることは無い。


なぜならはもういないのだから。


7年間。


それが行方不明者が見つからなかった場合に、死亡認定されるまでの時間である。


長いようで短いタイムリミットは迫っている。


彼らがヒビキと再会する事になる日は──



「─『海渡みわたりプレート』と呼ぶことが会議で決まった。由来は此処、海渡市から。データは変更しておくように。以上」


午前9時。


海渡市の研究所には、何十人という数の研究者が集まっていた。


彼らは、有名大学教授であったり、若手の研究員であったりと様々だ。


立場も年齢もバラバラな彼らが集められた目的。それはもちろん謎に包まれたプレート、海渡プレートの解明ただ一つ。


「それじゃ皆さん、今日も始めましょうか」

「よろしくお願いします」

「はい。よろしくお願いします」


このプロジェクトは、国家が全面的に支援している。


未知の成分からは生物学と熱力学へ、プレートそのものからは新たな素材が。既に、それぞれが既存の技術を大きく上回る可能性がある事が分かっているからだ。


忙しなく動く研究員達は皆、やる気に満ちている。


この海渡プレートは、これからの科学に技術的ブレイクスルーをもたらす。そんな予感が、彼らにはあるのだ。



「ヒビキ、君はどこの国の生まれなんだ?」


午後のトレーニング終わりの休憩中、マサムネさんはそんなことを聞いてきた。


「…そういえば、今まで言ったことなかったですねェ」

「ああ。魔法について詳しく知らないのを見るに……『刀の国』、もしくは『砂漠の国』か?」


どこですかそれは??


「えェ、っとォ……に、日本」

「……どこだ、それは」

「どこって言われましても…オレそもそも、この星で生まれたわけじゃ」


あっ。


「いや、その…」

「ほう? 続けろ」


命令はズルい!


「オレそもそもこの星で生まれたわけじゃないので、生まれた場所はこの星にはないんですよ」

「なるほど…? いや、嘘は付けないから真実か。となると……異星生命体? しかし魔力の質は人間そのもの……」

「……あのご主人様ァ、まだ続けた方がいいですか?」


すんごい考え込んじゃった。大丈夫か?


「……ヒビキは別次元から来たのか?」

「いや、自分じゃわからねェですよそんなの。……まァ、少なくとも『悪魔』なんてのはオレの国にはいなかったですし、魔法もないですからねェ」

「…少なくとも、この国の人間ではないわけか。知識の偏りもそのせいか?」

「恐らく、いや十中八九」

「まぁそうか。ところで……帰りたいと思っているのか?」

「思ってますよ。出来れば早く。じゃないと死んだことにされちまうんで」

「そうか……。悪いが、大会まではいてもらうぞ」

「いますよ。帰り方もわかりませんし」


でもって謎の石板を見つけたとして、触れただけで元の世界に帰れる確率は……ってとこだなァ。

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