第9話 魔法使い?

 

「まずは魔力で強化する感覚を覚えるところからだ」


なるほどー。


「魔力を使わずにこのトラックを1周ダッシュしたときのタイムは約25秒。ヒビキ、魔力で全身を強化したらタイムは何秒になると思う?」


どうやって測ったの? ストップウォッチ持ってたっけ? それとも腕時計で?


「…………20秒くらいだと思います」


てか普通に走ってもオレって結構速いな…? そんなスピード出せるのか。コケたら怪我…は治せるからいいのか。


「ではやってみようか。全身を強化しながら走れ」

「はい」


普通、初めて魔力で全身を強化する際に上手くいくことは少ない。しかし、何度も『浄化』を使っていること、『収納』を常に使用していることが影響し、首輪に送信された命令をヒビキの脳は『実行可能な事』と判断した。


「……スタート!」


─ダッ!


普段の2倍ほどの速度でスタートダッシュを決め、さらに加速していく。


お? おォ! すげェなァコレ! 自分でもわかるくらい速ェ! ……あ、でもこれ結構疲れる! マジか!?


カーブがキツい! 少し緩めないと遠心力で外側に…!


直線は駆け抜ける! 2回目のカーブは速度低めに戻して…、よしッ!


「ゴール!」

「ハァッ……!!」


くそォ…上手くいかなかったなァ。反省と改善が必要だなァこりゃ……。


「タイムは約15秒! ハハハッ! これで30億は安すぎるだろう! ハハハハハハハハッ!」


お、おォそうなんですか。え、てか何? そんなにオークション跳ね上がったの? 初マグロのセリかよ。


しかもそれでも安いって…さすがにプレッシャーすぎて不安になってきたんだがなァ……。


「魔法を覚えているからもしかしたらと思ったが……これは全くの想定外! しかもまだ成長の余地があるときた!」


18歳は肉体的にピークなんだが……まァ大会は来年だしあんま関係ねェのか。


「嗚呼、大会の開催があと二年遅ければ! このダイヤモンドの原石を磨きあげることが出来たというのに…!」


……もしかして、オレの肉体年齢下がってたりする? 『回復』で回復し過ぎた? いや使ったの両手で数えられる程しかねェからありえんよなァ……。老化した細胞を治して寿命を伸ばすくらいは出来るみたいだが。


「ああ、すまないな。1人で盛り上がってしまって」

「いえ、オレは別に平気です」


そういう人だってのはここ1ヶ月でなんとなく理解したから。


「つまりだ。ヒビキの魔力は鍛えれば鍛えるだけ、武器になる」


そんな筋トレみたいな感覚で魔力って鍛えられんだ。


「ま、そういうわけだから、今日からは魔力強化のトレーニングを追加するぞ!」

「はい!」



しかし、やることはあまり変わらず。


普通の走り込みにプラスで、魔力強化しながらの走り込みが増えた。一応、他の筋トレもやってるけどな。


時期的にはそろそろクリスマスなんだが、そもそもクリスマスの文化がなさそうな気がするんだよなァ……。新年のお祭りとかもなさそうだなァ、この調子じゃ。


お昼ご飯終わりのフルーツを食べながら考える。


さて、ごちそうさまでした、と。


午後のトレーニングではいつもと違うことをするらしいが、何をするんだろォな?


魔力強化はいつもやってる事だし、ついに魔法のトレーニングでもすんのかな。正直、魔法で攻撃するよりも殴った方が早ェと思うのはオレだけか?


…まァ、せっかく魔力をそこそこ持ってんだ。中遠距離の攻撃手段を覚えるのも、戦う上では悪くねェなァ。



「ヒビキ、君にはこれから一週間以内に『氷塊』の魔法をマスターしてもらう」


氷塊……本に書いてあったような気がしないでもねェ。まァ、名前通りなら魔力で氷を作る魔法だよなァ。


「なんで『氷塊』なんですか?」

「決まっているだろう? 美しいからだ!」

「……そですか」

「ついでに『熱線』の魔法もだ!」

「えっ」


真逆の魔法を覚えろと? 一週間で? 無理くね?


やるけどさ。


「まずはお手本だ。俺の華麗な『氷塊』をよく見ておけ」

「あ、はい」


マサムネが地面に右手をつける。


「『氷塊』」


瞬間、肌に刺す冷気を感じると同時に、手を中心に地面が氷に覆われていく。


これが、魔法か。えげつねェ……!


半径15メートル程を凍らせたところで手を離し、こちらに向き直る。


「どうだ?」

「すげェ、って思いました」

「ふふっ、そうだろうそうだろう? 悪魔の中でもここまで出来る者は少ないのだよ!」


いやマジですげェよ、これは。どんくらいあんだ?


凍ってる靴から大体厚さ5センチくらいと考えて、単純に225掛け0.05で……11.25。3.14倍して…35立方メートルくらい? 水に直したら32ちょいか。


……32立方メートル…………???


あれ? 1立方メートルって何リットルだ? 計算間違えたかオレ?


…………まァいいか。とにかくすげェってことで。


「─に極小数!」


やっべ途中聞いてなかった。


「まぁ一週間ではここまでとはいかないだろうが、これを目標にするように」

「わ、わかりました」

「とはいえ、まずは最初は氷塊の『詠唱』を覚えるところから始めよう」


『詠唱』! いかにもって感じだなァ。


「はい」


こうして魔法使いへの第一歩を歩くことになった。

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