第8話 体力作り?
「はァッ…! はァッ…!」
「はいあと5周! ペース落ちてるぞ!」
「ッ、はい!」
んな事言われてもキッついもんはキッついんだよォ! 1周が長ェ! 何メートルあんだコレ!?
何もかもが初めての中、大会のためのトレーニングはいきなり始まった。
今日はその2日目で、ひたすら走り込みである。マサムネさん曰く、基礎体力を上げる必要があるんだとよ。
理由はある。魔力(仮)で…もう(仮)いらねェか。どうせ魔力で身体能力を強化するんだから、元の数値は高いに限るらしい。強化って掛け算なのか……。
昨日はただの確認工程だったんだなァ……。今日から毎日これだと思うとしんどいぜ。
昨日のうちにあったことで驚いた事は多かった。風呂の大きさとか、食事。あとは今着てる体操着もそうだな。中でも特に驚いたのは、オレが使える魔法の希少性だった。
どうやら『回復』が使える人間は滅多におらず、悪魔でも使えるようになるには何十年も掛かるらしい。
オレとしては、むしろなんで努力で使えるようになるのか知りてェ。魔法って言ってる割には技術じゃねェか。……いやハリ○タでもそんな感じだからいいのか…?
まァそれは置いとくとして、『浄化』はそこそこ多いらしい。人間でも3年で覚えられるレベルだと。『収納』は伝えなかったから不明。
『回復』があれば多少無茶なトレーニングでもなんとかなると喜んでいるのを見て、どう反応していいのか非常に困った。
もしここが、『力でなんとかなる世界』だったら喜んでたと思う。でもなんか、ここは力よりも金の方が強ェ気がするんだよなァ。
「あと4周!」
うおォォ…! 息がァ! つゥかなんでマサムネさん自ら指示出してんだよヒマかッ!?
魔法禁止されてなかったら回復しながら走るのにィ! ……回復で痛みは治せても、疲れは治らねェから意味ねェのか。えっ、キツイな。
◆
「ラストだ! ダッシュでいこう!」
「はいッ…!!」
肺がちぎれ飛びそうだぜ! マラソンの選手ってすげェなァ!
「はッ…! はッ…!」
力を振り絞って走り抜け、ゴール。ギリギリで倒れるのを堪える。
「お疲れ様。正直に言うと、ここまでやるとは思っていなかった。やるじゃないかヒビキ!」
「はァ…! ありがとう、ございます…!」
キッつい……。
まァ、そのうち慣れるか。
◆
この屋敷に来てから二週間が経った。
走るのにもだいぶ慣れてきて、そろそろ走る距離を増やすと言っていた。いつか走る以外のトレーニングをするときが来るんだろォなァ……。
あとトレーニングをしていない間は何をしているかというと、大抵は勉強だ。
めちゃくちゃな数の本がある書斎…書斎? でこの世界のことについてお勉強中ってわけだ。文字はなんか読めた。なんでだろうね。
といっても、休憩時間で自主的にやってるだけなんだが。
働かされたりしていないのは、間に合ってるかららしい。あんだけ使用人とかメイドさんがいるってんなら、当然と言えば当然。
わざわざ今オレを見てる人が何人かいるくらいには使用人で溢れてるんじゃねェかなァ……。
……ヘェ、この世界って昔から地動説が有力だったんだなァ。魔法がある影響なのか?
えェ、っと……魔力関係の本はコレか。どれどれ……。
─パタン
1分が限界だった。
うん。魔法や魔力、『魔素』なんてのはまた今度だな。チラッと見ただけでも専門用語のオンパレードで、理解するのに一年掛かるやつだと思った。もうちょいわかりやすいのねェの?
やっぱ歴史の方が興味湧いてくるな。テストは好きじゃねェけど。
しっかし……どこにも石板がどうとか書いてないんだよなァ。一方通行で片道切符の転移装置だったのか? 噂程度でもいいから手がかりが欲しいところだ。
「……そろそろ寝るか」
「では部屋へお戻り下さい。片付けは我々がやっておきますので」
うおッ!? いつの間に……。
「あ、ありがとうございます」
お言葉に甘えて、部屋に戻る。
部屋といってもオレ個人に与えられた部屋とかではなく、マサムネさんの寝室だ。
……仕方ねェだろそういう命令なんだから。都合いい猫になったんだよオレは。抱かれて寝るだけ(物理)だ。
◆
おはようございます。そして、いつものように着替えてトレーニング場を10周。
運動した後に美味いもん食ってよく寝てるからか、筋肉が増えたらしい。鏡を見ても『この子めっちゃ美人だな…あ、オレかァ!』くらいしか思わなかったが、最初来たときからかなり成長しているって言われた。…ご主人様に。
「ふふっ…やはり俺の目は正しかったようだな! 素晴らしい成長スピードだ!」
「ありがとうございます」
自分じゃ実感湧かねェけど、そんだけ言われて悪い気はしねェなァ。
「これならそろそろ次のステップにいけそうだ」
お、やっとか。ひと月近く走ってたからな、体力は付いたと思う。
「今日からは魔力を鍛えるトレーニングも行おうじゃないか! 出来るな?」
「出来ます」
「いい子だ…!」
魔力……魔力かァ。
頑張って勉強した甲斐あって、体内を巡る『魔素』という物質が体に及ぼす力が『魔力』と呼ばれている、ということが分かった。
磁石から磁力が、質量から重力が発生するような感覚なのだと書いてあった。
それってさァ……SF作品における、体内を巡るナノマシンみたいな物質ってコト?
でも実際そう考えた方が分かりやすくね? ひとつの物質が炎とか雷に変化してんだぜ? 4次元に干渉してるとかナノマシンで出来てるとか言われた方が、まだ理解の範疇よ。
……まァ、そんなこと言ってても仕方がないのでトレーニングしましょうかねェ。何をやるんですかー、と。
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