第7話 育成?

 

「オレみたいな黒髪ってやっぱ珍しいんですか?」


会場へと向かう廊下でスーツの男と話しながら歩く。


「ええ、それはもう。こちらとしてもぼろ儲けできるほどに」

「具体的にオレっておいくらで?」

「アナタ変わってますね……。オークションですから値段は上がりますが、スタートは1億エルです」


1億エル……日本円に直してくれねェかな?


まァ低くはねェだろうが。


「1億ねェ……」

「とは言いましても、恐らく20億は堅いでしょうね。先程一目見て思いましたが、ウチの商品奴隷でなければ是非ともお近づきになりたいと思いましたし」

「お上手なことで」


褒められてる、ってよりも事実を淡々と述べてるだけって感じだ。


意外と見た目は良いのかもしれねェな。だが、20倍まで跳ね上がるのか? 


うむむ……。よく分からんが、いい感じに死なないように頑張るしかねェか!


─バチッ!



なんかいつの間にか終わってたんですが?


気絶させられてた…ってことでいいんだよなァ!?


「……いッ…!」


床にある木のささくれが手に刺さった。


いってェ…! 回復回復ゥ…って手錠外されてるのか。首輪は付いてるけど。


それよりも、ここどこだよ…? 揺れてるから移動してるんだろォが、木でできた箱の中にいるからなァ……。


……いや重要なのは、どんなヤツに買われてどこに行くのかだな。


キモいジジイとかじゃなきゃいィんだが。


……服がボロボロになってら。まァ、こんだけの消耗はおかしくはねェな。学生服の耐久性なんてそんなだろうし。あと安かったしな。


「───」

「──、──!」

「──!」


前の方から話し声が聞こえる。何かに怒っている? よく聞こえん。


しっかし、買われたってのはホントみてェだ。なら、これからの身の振り方は考えた方がいいよなァ……。


魔法や冒険者なんてのがある世界で、奴隷なんてろくな事にならねェ。なるはずがねェ。


そういうファンタジーがない世界でさえ、教科書に悪しき歴史として載ってんだぜ?


マジでヤバいことになったがァ……死なずに家へ帰るために頑張らねェとな!



「降りろ」

「はい」


どうやら乗っていたのは馬車だったようだ。でもって、着いたのは豪邸。19世紀にしてはデカいから、ファンタジー要素入ってんな。


生垣とかも綺麗だし、息苦しくもない。いい場所に建てたなァ。


オレを買えるくらいの金があるヤツは、こんくらいの家と土地は持てるわけか。当主が買ったのかは知らん。


「付いてこい」

「はい」


さっきからオレに命令を出している男は、この家の使用人か? それとも普通に家の人間か。


まだコイツがなんなのかわからねェが、あくまでもオレの方が下の立場であることを意識しておかねェとな。ビリビリは勘弁。


くそデカ正面玄関ドアへ並べられた石畳の上を歩く。


変に緊張してきたな……。



「俺のことは『ご主人様』と呼ぶように」


ある意味で最悪の買い手だったァ!!


「…はい、ご主人様」

「ふふふっ、いい子だ…!」


アァァァァァァ゛!!! 絶妙にキモいタイプの変態だァ! 残念なイケメンの『残念』部分が強めの!


……いや、マジで普通にしてれば金髪イケメン好青年って感じすんのになァ。これが悪魔っていう種族かァ……。


名前は、マサムネ・ミ……なんとか、だ。使用人的な人からも『マサムネ様』とか言われてたし、それだけ覚えてればいいでしょ。


場所は…あー、コイツの部屋? リビングじゃねェしな。インテリアが西洋の家具って感じで、雰囲気に慣れねェ……。


「まずは君に名前をあげよう。そうだな……『ヒビキ』なんていうのはどうかな?」


奇跡起きたわ。


「素敵な名前をありがとうございます」


こんなんでいいか?


……笑ってるしオーケーだろう! 多分!


「ふふふっ。では、君を買った目的について話しておこうかな」


目的……てかなんかコイツ、動きが芝居がかってんなァ……。歩きながら話すのとか舞台役者じゃん。そのうち『俺の脚本には─』みたいなこと言い出しそう。内容入ってこねェよ。


「その目的とはただひとつ! 自分の最高の奴隷を育て上げ戦わせる大会、『育成眷属大会』に優勝すること!」


なるほど、育成キャラを見た目重視で課金した買ったのか。


やってる事はちゃんと悪魔だったわ。


「はい拍手」

「……」


─パチパチパチパチ


「ありがとうありがとう」


なんだコイツ……。


「ま、そういうわけだから……ヒビキ、君には強くなってもらわないと困るわけだ」

「…質問いいですか?」

「許そう」

「戦う以外に競う項目はないんですか?」

「ふっ、さすがはヒビキ。いい質問だ」


お、池○彰。


「この『育成眷属大会』に戦闘以外の競技はない。しかし! 優勝には見た目も大いに影響してくる!」


つまり、単純に力だけの戦闘じゃないってことか。


「相応しい者が優勝として選ばれる以上は、美しければ美しいほど優勝に近づく! つまりは、泥臭い勝利よりも華麗に散る方が評価されるというわけだ」


ほーん。貴族の価値観ってやつか。


……散るって死ぬわけじゃねェよな? 比喩だよな? あくまで大会だもんな?


「開催は来年の5月31日!」

「あと……」

「7ヶ月と少し。最低でも俺と戦えるレベルになってもらう。出来るか?」


それ拒否権ねェやつだろ!?


「…わかりました、ご主人様」

「いい子だ。褒美に頭を撫でてやろう」


マサムネがオレの頭を雑に撫でる。髪は乱れた。


なんとも言えねェ……。てかコレ犬猫扱いでは……? まァ、捕まえて育てる系の育成ゲーム的に考えたらそうなるか……。


でもやっぱ『ご主人様』と呼ばせる変態っつゥ印象がなァ……。


「よし、ではまずは夕食に……いや風呂が先か? ……風呂だな。付いてこい」

「はい」


なんだ、意外となんとかなりそうだわ。それとも、20億くらいで買ったレア物を雑には扱えないってところか?


……まァ、これも家に帰るための寄り道だと思うことにするかァ!


ちなみに風呂では体を隅々まで洗われた。首輪のせいでマジの犬になった気分だった、とだけ言っとくよ……。

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