第6話 悪魔の国?

 

えェっと……今日で何日目だ? 来た日と、フルーツ見つけた次の日と、オオカミと戦った昨日…じゃあ4日目か。


はい、4日目の朝。ついに森を抜けてどこかの国へと辿り着きました、と。


話を聞く感じ、悪魔の貴族? がなんか沢山いるそこそこ大きめの国らしい。なんつゥか、マァジで別世界に来たんだなァって。


いや、もうあからさまにデカい壁と門番的な人達がいたら否が応でも理解させられたわ。


奴隷商人ってのはちゃんとした職業として成り立ってるのか知らねェが、門番と話したあとに入国。


ヘェー、意外と発展してるな。普通に18~19世紀くらいはあるのでは? 街灯とかの雰囲気そんなだし、時計塔とかあるし。普通にビル…ビル? みたいな建物めっちゃあるし。


……ちと寒ィな。日本とは気候が違う…よな、そりゃァ。


なんだかこの寒さで一気に現実に引き戻された感覚だわ。いわゆる中世ヨーロッパ風の国とは違って、歴史の教科書にある白黒写真っぽいんだよなァ。リアルだからカラー付きだけど。


冒険者とかあるくらいだし、てっきりそういうのを想像してたんだが……全くの大ハズレ。


産業革命はとっくに起きてるんだろうな、こんくらいなら。


地面の土と石畳の段差で生まれる揺れとか、呼吸するのも嫌になる煙突から降下してくる煙のニオイ。建物の汚れたレンガに、街を行き交う人々の服装とかからそう感じる。


特に服なんかは同じデザインのをそこそこ見かけるから、機織り機? でいいのかな? 車とかは蒸気機関の産物だろうし。てか電気の機械あんじゃね?


じゃああの森なんなんだ、って言われたら未開拓地なんだろと予想を立てるねオレは。


でも規模が大きい国を囲う壁とかは、申し訳程度のファンタジー感ある。


ファンタジーがリアルに足されているのは、ある意味でこの上ないリアリティ。


……で、だ。


「めっちゃ見られてんなァ……」


そんな珍しいか? ……こっち見てんじゃねェ。


「……ひっ…! う、ぁぁ……!」


…ッ、なんて声掛けりゃいいんだ……? これから売られるっつゥ女の子に。


売られるのはオレもなんだが、メンタルの強度が18と8じゃ全然違う。自分と同じ尺度で測っちゃいけねェよなァ……。


無責任なことは言えんわな。かといって現実を突きつけるとかは論外。バッドコミュニケーション、好感度メーターがマイナスまで振り切れちまう。


出来ることっつったら……。


「……」


無言で撫でるくらいだな。


「う、ぁ、ヒビキさん…」

「悪いな、今はこれくらいしか出来ねェわ」

「ううん……ありがとう……!」



気を取り直して、とはいかないんだが、移動は終了した。


室内で硬い。印象としてはそんな感じ。たーぶん奴隷を置いておくところなんだろォな。埃っぽい。


檻から出されて命令でここまで連れてこられた。強制力高過ぎるわコレ。原理が知りたくなってくるレベルだぞ最早。


「オークションは明日だ。逃げ出そうとなんてするなよ?」

「うーい」


オッサン2人は部屋に1つしかないドアから出ていき、鍵を閉めた。


「アンタ、悪魔に売られるのによく余裕でいられるな……」

「いや、どうにも実感湧かなくてなァ……。これでも結構焦ってんだぜ?」

「…やっぱ黒髪って変な奴多いんだな」

「髪色関係あるかそれ?」


髪をクルクルしながら……ってこの髪めっちゃサラサラなんだけど!? 『浄化』ぱねェ…! 一生シャンプーとリンスいらねェじゃん!


ふと、周りを見回す。


話しかけてきたアロイス君含め、皆この世の終わりに絶望したみたいな表情になっている。


……なんかオレだけテンション上がってんの恥ずいわ。疲れたし寝よ。部屋の隅っこで寒さに耐えつつな。



今日は待ちに待っていないが、もしかしたら街の人は待っていたのかもしれないオークションの日だ。


一日通してやんのかな? それとも午前中で終わり?


オレら以外にもいるんだったら一日掛かる…のかァ? 普通のオークションも兼ねてたら掛かる……いや、オークションをよく知らねェからなんとも言えねェけど……。


よくよく今の状況考えたら大変なことになってるよな、オレ。


一週間と経たずに奴隷になって悪魔とやらに売られるわけだろ? 怒涛の展開。ジョ○ョ5部程じゃねェが、学校行って帰るだけの一週間とは比べ物にならんよ。


そんなことを考えていたら、昨日のオッサン2人とは違う人が部屋に入ってきた。


スーツを着てはいるが、変な仮面のせいで不審者かマジシャンに見える。


このオークション運営側のスタッフさん、ってところかなァ。顔隠してるのはリスク下げるため、とかだろォし。


「えぇーっとー、赤い髪のキミ。こちらへ」

「…っ!」


赤い髪…アロイス君か。


今の言葉は命令として機能しているようで、アロイス君はキビキビとスーツの男へと向かっていく。


「他の方は待機するようにお願いします」


それも命令か。



何人かいたこの部屋も、今はオレとアリシアの2人しか残っていない。


レア物は最後の方か……。


─ギィ……


「水色の髪のキミ、こちらへ」

「…はい」


─バタン


……嫌だなァ、この時間。


例えるなら……この後怒られるのが確定している小学生が、1人教室で待たされているようなアレ。


あとは、全校集会のときに体育館のステージ上でやらなきゃいけないスピーチを待っている時間とかなァ。無理やりやらされてるってんだからキツい。


…………無理。怖い。死にたくない。


でも、ここから逃げてひとりで生きていける自信はないし……。


「……帰りてェ」

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