第5話 戦い?

 

ここ多分日本じゃねェ。アリシアと話しててそう思った。ちなみに、二度寝はしなかった。


なんか知らねェ名前の土地とかが当たり前のように出てくるし、他の子たちも疑問に思ってねェからなァ……。


『すわ異世界か!?』とツッコミたくなる気持ちを抑えながら……聞けば聞くほど案外そうなのかもしれねェ、と戦慄している。許さんぞ神隠しめ……!


ゲームでこういう展開は面白いし、プレイヤー目線で考えたらどうなるのか気になるところだろう。


けどなァ……現実でそうなる当事者になりたいなんて思ったこと……ないとは言えんが、少なくともここまでハードなのは望んでねェ。こういうのはゲームじゃないと許されんよ。


「ヒビキさんはなんであの森に…?」

「なんで、って言われてもなァ……。気付いたら森にいた、としか言えねェわ。なんでだろうな」

「『転移』の魔法で飛ばされたのかな…?」


て、転移の魔法? そういうのもあんの? てか魔法で確定か……? ならオレのも魔法か?


「あー…そうかも? 他の可能性としては、眠らせれている内にか。あとなんかある?」

「えっと…『記憶』の魔法とか?」


記憶……あ、道中を忘れるように細工したってことか。


「それはあるかもなァ。サンキュ」


知らない記憶もインストールされたし、それくらいは出来ると考えられる。


……ホントに8歳か? すげェ頭いい……というよりは知識がある、って言った方がいいのか? まァいいか。


これなら『奴隷の首輪』とやらについても聞きたいんだが……さっき泣かれた後だからなァ。迂闊に聞けん。


まァ、マジで命の危機が迫った場合の考えはあるからな。手錠も首輪も外す方法がな。


「……そういや、オレ服とかそのままだなァ」

「多分……その方が、価値が高いからだと思う。時間も無いし……」


時間が無い、ってのはわかるんだが……。


「価値……? この服が?」

「そうじゃなくて……」

「その格好のアンタだと価値が高いってことだよ」


会話に入ってきたのは、赤い髪の少年。名前は……アロイス君だっけ?


「どゆこと? セット売りで高く売れるとかそういう?」

「そうだよ。アンタただでさえ珍しい黒髪で、しかも女だろ?」


この世界では日本人女性のほとんどがレア物扱いだそうです。目もそうだけど、色彩の遺伝子どうなってんだこの世界。学者がこぞって騒ぎ出すぞ?


「三毛猫のオスみてェなもんか……」


あれって染色体がなんか変なことになってんだっけなァ…? 生物の授業中にチョロっと出てきたからなんとなーく覚えてる。


「それ以上だよ。人間は猫みたいに増えないから」

「……確かに、としか言えねェわ」



休憩を挟みつつ森の中を移動すること数時間。お昼ご飯の時間になりましたとさ。


メニュー! 乾燥しまくったパン人数分とちょっとの水! 以上! 終わってやがる。


ま、オレにはあのイチゴっぽいアレがあるから……パンは半分だけ貰って、あとはアリシアにやるか。


「やるよ。朝の情報代」

「え…? いいの…?」

「オレにとってはそれだけの情報を貰ったってことだよ。あ、水は勘弁な。喉乾いてんだ」

「うん…! ありがとう…!」


周りからの視線には睨みを効かせて応戦する。よく目付きが怖いって言われるからな。今の顔がどんなか確認出来てねェけど。


『収納』の存在は隠しておきたいから、イチゴっぽいフルーツはまた今度だな。


この首輪に魔法を制限する効果はないが、行動を強制できるみてェだからな。隠しておくに越したことはない。


それと、なんかビリビリさせて苦しめる効果もあるしな。人体に電気を流したら場合によっちゃ即死だぜ? 電気じゃない可能性の方が高ェけど。


……はァー……うッ…! よ、酔った…ッ! 寝るしかねェ…!



なぜ今になってオオカミの群れと相見えることになったのか。


オレがトイレ終わりに見つかったからですね。


「余計な事してくれやがって!」

「お仕置が必要だよなぁ?」

「あ、グッ……! すんませんねェマジで……!」


ビリビリやめェや! 普通に痛ェ! 仕方ねェだろォがァ!


「お前、これ使って何とかしろ」


そう言って渡されたのは剣だ。


もう一度言おう、剣である。こう、『剣Lv1』みたいな見た目してるやつ。ちょい重いが片手で持てる。ま、手錠あるから両手で持つんだけどな。


…戦えと?


『グルルル……バウッ!』

「うおォ!?」


─カキィン!


「あっぶ、ねェなァ!」


刃の部分を噛ませることでガードし、蹴る。


「戦闘もそこそこできるのか」

「いい拾いもんしたか?」

「違いねぇ」


正直言って、剣渡されても困るんだよなァ……。無益な殺生どうこう以前に、動物を切るとかキツいでしょ。蹴りながら言っても説得力皆無だろォけど。


他のオオカミも同じように、狙ってきたところをガードして蹴ろうとする。


「何やってんだ。とっととそいつら殺せ」

「ッ!?」


蹴ろうとしたところでその言葉が命令となり、意思とは関係なく体が動く。


剣をオオカミ目掛けて振り下ろし……頭蓋骨が割れる嫌な音がした。


「うわァ……」


クッソ気持ち悪ィ……。なんで勝手に体が動くんだよ。あと、今のオオカミの見た目も。


こうなったらせめて、ちゃんと斬ってあげねェと……! 頭が潰れた死体は見たくねェ。


『ウォーン!』

『ボウボウッ!』


よく狙え……最も綺麗な状態で残せる場所を一撃で。


……そこッ!


─ビチャッ!


オオカミの頭を斬った。


……まァ、捉え方の問題だよなァ。生きてるタコとかイカを殺して捌くのとなんら変わりない、って思えばねェ? 目と目の間にナイフぶっ刺すのとやってる事は同じだから……。育てた牛だって斬首じゃん?


ただ、こっちの方が何倍もグロいとは思うが。


「……次ッ! ……そいッ! んー、ラストッ!」


今ならマグロも捌ける気がする。


「……終わりましたよー」


血でべったりの剣を返す。ニオイきっつ。


「あ、あぁそうか。…なら、早く檻に戻れ」

「なんですかァ、それ。こっちは命令通りに動いたんですよ? 感謝の一言でも─」

「ご、ごちゃごちゃ言ってねぇで戻りやがれ!」

「いッ……たいですねェ…!」



檻に戻ったら、心配したのかアリシアが話しかけてきた。


「ヒビキさん、平気…?」

「問題無し。かすり傷ひとつ、返り血一滴負ってねェよ」


やっててよかった、リアル系暗殺シミュレーション。それと現実の料理。


「すごい…! もしかして、冒険者の人?」


冒険者! そういうのもあるのかァ……。


「いや、違う。運が良かっただけさ。…あー、オレのとこはそうでもなかったんだけど、冒険者ってそんなどこにでもいるもんなの?」

「結構多いと思う…」

「俺のいた国だと、20人に1人は冒険者だった」

「マジ? 国によって違うんかなァ」


適当なこと言って話合わせるのも慣れてきたな。


魔法の実物でも見れたら、別世界に来たって実感も湧くんだがなァ……。

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