第2話 オオカミ?

 

無くなったと思ったカバンは『収納』とやらの中に入っていた。これどうなってんだよ。空間魔法的なアレか?


まァ、深く考えても答えは出なさそうだしなァ……。今はそういうもの、とだけ認識しておくか。


さて、スマホは……ないんだが? 何故……あっ。


写真撮ったときに落としたな、そういや。


「……スゥー」


連絡手段、喪失ッ…!


ヤベェ、いやマジでどーすっかな。割と詰んでんぞコレ。


今の状況がよく分からん以上、動くべきか待つべきかもわからん。


わからんが、少なくともこの森の中にいてもレスキュー隊のヘリじゃ見つけらんねェだろォしなァ……。


動くしかねェか。幸い、さっき『回復』を使ったおかげで体の傷は治った。


心配があるとするなら、その行為でこう……精神力だか魔力だかが減ったような感覚があることだけだな。


……精神力ってのはなんだかしっくりこねェな。正式名称が判明するまでは『魔力(仮)』と呼ぶことにするか。体力とはまた違う感覚なのがなァ……。


ま、とりあえず移動開始といこうかァ!



無計画の極み、まさに後悔先に立たずだなァ……。


童謡っぽく言うなら…ある日森の中、オオカミ達に囲まれた。


簡単に言えば命の危機。


多分5匹くらいか? 見たことねェオオカミだが……これアレだな? さてはオレ、獲物として見られてるな?


『グルルル……』


あばばばばばば…!


昔カバンに入れておいたカッターを『収納』から取り出す。


─カチカチカチッ!


かっ、かかかかかってこいやァ!!


オレはお前らみてェなケモノには決して屈しな─


『グルルァ!』

「うひぃっ!? 危な、いたァい!?」


左腕噛むなァァ!! 痛、てか重ッ…!!


正面のオオカミが飛びかかってきたのを皮切りに、他のオオカミも向かってきた。


仕方ねェ! 動物愛護法違反しまァす!


「おらァ!」


カッターを噛み付いているオオカミの左目に突き刺す。


いいの入った! ひるんでいる今! 左腕を振り回す!


『キャンッ…!』

『グルルル!』


他のオオカミを巻き込んで地面に転がって……てか結構ぶっ飛んだなァ!?


『グルルァ!』

「な、なんだよまだやるかァ?」


2匹のオオカミがこちらの出方をうかがっている。


こ、こねェの? なら……今のうちに走って逃げるとすっか! 他の動物も来たら目も当てられねェからな。


あと『回復』して、と!


汚ェから『浄化』もしておくか。カッターもな。……これでよし。魔力(仮)がそこそこ無くなったな……。



息が苦しくなるほどの全力ダッシュをすること3分、ナワバリから逃げきれたのかわからないがオオカミは追ってきていない。


ゆっくり歩いて体力を回復させる。


……怖かったァァ!!


オオカミってあんな殺意高ェもんなの? おかしくね? 血に寄ってくるサメじゃねェんだから……。


しっかし、今回はカッターがあって助かった。MVPだわ。オオカミが小さめだったのも幸運。


ワイシャツは…噛まれたとこがボロボロになってら。……腕大丈夫かな?


袖をまくって確認する。傷はない。


ない…んだけど、なんか……細くね? おっかしいなァ、流石にもうちょい筋肉あったと思うんだがなァ……。


……実は何日か経ってて、その影響で筋肉が減っているとか? だが、それにしてはめっちゃ走れたしな……。腕だけってのは有り得るのか?


はァ、マジでこんな所にオレを移動させたヤツ誰だよ。恨むぜ。



深刻な問題発覚。


どうやらオレの体はいつの間にか女になっていたらしい。


トイレをどうしようかと考えていたら発覚した。


まァ、いろいろ辻褄は合うんだけどさ……そんなことある???


だがしかし、これは紛れもない現実である。


意味がわからんから考えるのをやめたいが、そうもいかねェよなァ……。なんせ自分の体だぜ?


いつの間に……いや、あの激痛しか考えられねェか。


こう、いろいろ触ったりなんだりして確かめてわかったんだが……臓器ごと作り変えられてたんだからそりゃ痛ェよなって。


でもどうするよ? 自分の顔を見てないからなんとも言えんが、帰ったらどうなんだろォなオレ。研究対象か?


声だけなら声優なれ…演技力がねェから無理か。


……ま、未来のことよりも今に集中するかァ! 女になったからってなんだってんだよな!


人を見つけて、警察を呼んでもらうとするかね。


「うぅ……」


とりあえず『浄化』があって助かったわ。誰もいないとはいえ、二度とこんな無様は晒さん。徐々に慣れていかねェと、だなァ……。



目が覚めてから大体5時間くらいか? 誰とも会わないどころか、道にすら辿り着かねェままお月様とご対面しちまった。


『グルルル…!』

「寝ろよ…」


ついでに別のオオカミともご対面。現在大きめの木の上に避難中。猫とは違って登って来られないから少し安心した。


安心したっつっても、流石に寝られねェけど。今夜はオールナイトってか? 勘弁してくれ……。


そのまま膠着状態が何分か続き、先に折れたのはオオカミの方だった。


まァそうだよな。オレは木の上で座っていたいだけだが、オオカミは狩りをしなきゃいけないわけだからな。


さて……ここで寝たら地面に落ちるか? いい感じにバランスを取って……お、いけそう。んじゃ、おやすみ。

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