第7話 パン屋改めよろず屋へ
錬金術で作った物をお店で売る。
そんな妹の提案にティルミオは一応は賛成をしてみせたが、難しい顔をしていた。錬金術で品物を作って売るにしても、上手くやらなければ儲けが出ないのだ。
「うん。それはやってみよう。けれども、バターも牛乳を買わないと出来ないから、利益率はそんなに高く無いかな。もっとこう……元手が殆ど掛からなくて、それでいて加工したらそれなりの高値で売れる商品があれば良いんだけど……」
「ふーむ。そんにゃ都合の良い物あるのかにゃ?」
この難題にミッケも一緒になって頭を捻った。しかし二人と一匹で知恵を出し合っても、なかなかこれといった案は浮かんでこなかったので、次第に楽観的だったティティルナやミッケの表情まで曇っていった。
このままでは良くないとティルミオが焦り思い悩んで居ると、すると彼の目に、部屋の片隅に放置された古いチラシが目に入ったのだった。
「そうだ……なぁティナ、ミッケ。この古紙を、さっきの
さっき見た
「確かに……理論的には可能かにゃ……?」
「分かった。とりあえずやってみるね。」
兄の提案に、早速ティティルナは家中の古紙をかき集めてそれを胸に抱くと、先ほどと同じように意識を集中させながらゆっくりと目を閉じて呪文を唱えた。
「
すると、ティルミオの目論見通り、ティティルナの胸の中の紙が眩く光って、何も描かれていない真っ新な紙に姿を変えたのだった。
歓喜の声がその場に上がった。
「どうやら、成功だにゃ!」
「やった!これなら元手がかからないね。古紙なら、捨ててるの拾ってくればタダだもんね!」
「そう……だな?」
無邪気に喜ぶ妹のその入手経路は果たして倫理的に大丈夫か気になったので、ティルミオは古紙入手の方法については、後で改めて考える事にした。
とにかく、これでパン以外の売り物についても目処が立った。元手がかかからない上にに、白紙は一般的に高い値段で売られている商品なのだ。新しい商品として申し分なかった。
「にゃるほど。つまりこうやって何でも良いから売れそうな物を錬金術で作って、それを店で売るんだにゃ?」
「そう。でもその為には店の業種をパン屋からよろず屋に変更する必要があるんだ。……ティナ、この店が、パン屋じゃなくなるけど……良いかな?」
ティルミオはどこか申し訳無さそうにティティルナに確認した。この窮地を切り抜けるにはよろず屋に業種変更するのは避けられないのだが、両親が大事にして来たパン屋である。家族の思い出も沢山詰まっている。それを自分たちの手で終わらせることに賛同できるかと、妹にその意志を確認したのだ。
「うん。パン屋じゃなくなるのは少し寂しいけど、でも、お店はお店だもの。お父さんとお母さんのお店は無くなる訳じゃない、それに最初に他の物も売ったらって提案したのは私なんだし、私たちが出来る事をしてお父さんとお母さんの残してくれたお店を守っていきたい。」
ティティルナはティルミオの問い掛けに対して、真っ直ぐにその目を見返して、力強い眼差しで答えた。彼女の意思に迷いは無かった。
「うん。そうだな。」
そんな妹の態度を見て、ティルミオも決心がついた。彼は妹に向かって優しく微笑むと、そして決意に満ちた声で宣言をしたのだった。
「よし、それじゃあカーステン商店は、パン屋からよろず屋に生まれ変わって再開するよ!!」
ティルミオのその宣言に、ティティルナは嬉しそうに手を叩いて賛同し、ミッケも「ニャー」と鳴いて、二人の決意を祝福した。
こうして、決意を新たに再スタートを誓ったのだったが、しかし、問題は残っていた。
「と、まぁ俺たちの方向性が定まったのは良いんだけど、問題は明日来る役人に、店を畳むのを止める事と、パン屋からよろず屋に業種変更をする件を、どうやって納得して貰うか何だよな。」
一周回って、再び議論が役人に対する言い訳をどうするかに戻ってきて、ティルミオは苦笑いを浮かべた。結局のところ、その問題は解決してないのだ。
「お店継続の件は、なんとか二人でパン焼いて行きますって言って、オーブンが無いのバレないようにしようよ。」
「そうだな。それはさっき決めたな。」
「でね、よろず屋の件は、家にある不用品集めて売りたいんですって事でどうかしら?」
「……少し苦しい言い訳だけど、他に思い付かないもんな……」
ティティルナの提案に、ティルミオは渋い顔をしながらも同意を示した。最善策とはとても思えないが、それくらいしか説明が思いつかないのだ。
「……明日来る役人が、純粋で素直に信じてくれる奴だといいにゃ。」
「本当、それだよな。」
「大丈夫だよ、きっと上手く行くわ!」
そう言うと二人と一匹は顔を見合わせて笑った。
楽天的なティティルナと、慎重派のティルミオ。そして呑気なミッケと、三者三様だけれども、この二人と一匹が一緒ならば、明日の役人面談も、その後の借金返済も、何とか乗り切れるだろうと、何の根拠も無かったが、きっと大丈夫だと、そんな気持ちになったのだった。
「ま、これで話し合いは終了かにゃ?」
「そうだな。とりあえず急ぎで話さなきゃいけない事は話し合えたかな。」
「ふみぁ~~っ。やれやれだにゃ。」
会議の終わりを確認すると、ミッケは大きく伸びをしながら欠伸をすると、実に猫らしく丸くなった。
「なんか話してたら喉乾いちゃったね。お茶でも淹れようか、お兄ちゃん?」
「あぁ、有難う。」
ティルミオもティティルナも、ミッケの寛ぐ姿を見たらとたんに自分たちも気が抜けたので、お茶でも飲んで一息入れることにした。
すると、お茶を淹れるために台所へ行こうと立ち上がったティティルナが、ぐらりと大きくよろけたのだ。
「ティナ?!」
「……あ……れ……?安心したからかな?何か力が抜けちゃった……」
ティティルナは急に体から力が抜けて、そのまま床へペタンと座り込んでしまった。
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