†地獄系サイコパス女から逃げ切れ†

第52話 地雷系少女から逃げ切れ①

 12月24日、午前8時ちょうど。


 何度この光景を見ただろうか。


 やり直す度に「また、ここからか」という思いと、「一歩ずつでも進んでんだよな」という思いが交錯する。


 テレビをつけると、「モーニングビュー」が始まっていたが、同じ内容を聞くほど僕も馬鹿じゃない。


 聞き流しつつ、春一に向けメッセージを打つ。


――次はどうすればいいんだ?


 攻略サイト付きの恋愛シミュレーションゲームだなんて。と、今更ながらに思うが、僕らは一蓮托生だ。


◯竜胆さくらルートに進むためには、ジャコモモールへ行く前に、予約していた美容院へ行く必要がある。


 ルートの発生条件は、やはり美容院へ行くことのようだ。


「髪切りに、ねぇ……」


 耳にかかった髪を弄りつつ、不平を零す。


 天津さんのために、髪を切りに行くのはいいけど、自分のために散髪しに行くってのはどうも億劫だ。


 それに、さくらさんに会うのはいいが、竜胆に会う可能性が高いし……。


――どうしても行かないとだめなのかね?


◯じゃないといつまで経っても、ループからは抜けられないぞ。


 現実を突きつけられると弱い。


「仕方ない、か……」


 結局、諦めて僕は美容院に電話することに決めた。




『美容室さくらです』

「あ、もしもし。お世話になってます。今日予約していた如月ですが」

『ああ、春くん?』


 電話に出たのは、さくらさんだった。


「こんにちは。予約してた時間の変更したくって」

『あれ? 今日予約なんてしてた? ごめん、すっかり忘れてた!』


 さくらさんは昔からおっちょこちょいというか、天然なところがある。


「しっかりしてくださいよ」

『あはは、ごめんねー。で、何時に変更したいの?』

「十時とかいけますか?」

『えっとねー――うん! 大丈夫だよ!』

「じゃあ、その時間で」

『はいはーい。待ってるからねー』


 ふぅ……。


 ここまでは、前回とあまり変わらない。


「準備するか」


 服を着替えようとすると、春一からメッセージが打たれた。


〇奴が出てこなければいいけどな。


「……」


 不吉なメッセージを無視し、僕はたんたんと準備を済ませ、部屋を出た。



「ちょっと早いか?」


 時刻は午前九時半を少し過ぎたところだった。


 美容室さくらの目の前に来たものの、勇み足過ぎたか。


 とはいえ、時間を潰さなければならないほど早くもない。


 しゃーない。中で待たせてもらうか。


 鬼が出るか蛇が出るか――


 意を決し、美容室さくらへと入ると、そこには店主のさくらさんがいた。


「おー! 春くん! 待ってたよー!」

「あ、ども」


 黒髪ショート、そしてモデルみたいにスラッと伸びた背が特徴的なさくらさん。


「また、背伸びたかー?」

「やめてくださいよ。子どもじゃあるまいし!」


 ガキ扱いされるのは、幼いときから通っているせいだろう。


 小さい頃は興味すらなかったが、さくらさんが着る黒ニットは、いつもぷっくりと二つの山が強調されるため、目の毒だ。


 あと、ケツもでかい。安心安全の安産型だ。


「急に予約変更したいなんて、もしかして色気付いたかー?」

「いや、そんなんじゃないですよ」

「あはは。春くんは昔から奥手だもんねー」


 母というよりは、年上の姉みたいに接してくるさくらさん。


 思春期が過ぎた身とはいえ、そのノリは絡みづらいっす。


「じゃ、早速切っていこっか。かっこよくしてあげるよーん」

「よろしくお願いします」


 鏡の前に案内されると、美容室さくらへ来るまでの杞憂はどこへやら。


 すんなりとカットが始まった――


 




 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る