第48話 5度目のクリスマス・イヴ⑩

「どうして、そう思ったんですか?」


 雪が顔に触れても尚、彼女の笑顔は崩れなかった。


 真っ白な雪は、彼女の肌に触れると、瞬く間に溶けていく。


 肌に馴染むとかそんなんでなく、患部に触れるとすぐ溶ける。それが何とも不気味に見えた。


「いやぁ……。勘ってわけでもないんですけどね」


 勿体ぶる訳ではない。ただ、彼女の狐みたいに細い目が怖かった。


「へぇ――勘ではないって?」


 おしるこを両手で持ちつつ、彼女は缶に目を落とす。


「不可解だったんですよ。いろいろと……」


 僕は、これまでを振り返る。


 白い雪、死、少女、狂気。不自然に連なる語句を連珠のように繋げる。すると、まるで結晶が雪を形作るみたいに、くっきり一人の少女の存在が浮かび上がった。


「竜胆じゃないなら、は誰だったんだろうって――」


 頻りに「許さない」と呪詛を唱えていた人物。それが天津叶だと気付いたのは、つい先ほどのことだ。


「そうですか。辿り着けましたか」


 彼女は尚も笑顔を崩さない。


 その笑みはどこか、「待望」を孕んでいるようにもうかがえた。


「辿り着いたって? どういう意味です?」

「いえいえ、そのままの意味ですよ。私を攻略するためには、そのが必要なんです」

「答え?」

「えぇ。この公園に来たのは、何も突拍子もない提案ではないんです。春一さん、私言いましたよね? 『あなたに私を攻略してもらう』って」


 街灯からは白銀の光が彼女と僕の顔を照らし、また、雪はしんしんと降り続けている。


 ただ、変わりゆくこともあった。


「あ……」


 驚いたことに、彼女の衣服に雪が触れると、それが徐々にしていったのだ。


「見覚えがありますか? 春一さん?」


 彼女の衣服が様変わりする。


 ピンク色のフリルの付いたブラウス、黒のプリーツスカート、レースがひらひらした厚底パンプス――


「じ、地雷系女!」

「……ひどいですねぇ。というより、日常でその単語を聞くの初めてです。案外傷つくもんですねぇ」


 天津さんは、バツが悪いといった表情を浮かべた。


 すると、そこで選択肢が現れる。


 それは、僕にとって受け容れがたいものであった。


――――――――――――――――――――

※天津叶に刺されますか?

 はい

▶いいえ


 は?


※いいえ、を選択できません。


※天津叶に刺されますか?

 はい

 いいえ


 嘘だろ?


※いいえ、を選択できません。


※天津叶に刺されますか?

▶はい

 いいえ


 嘘だと言ってくれよ……。


※はい、を選択しました。


※オートセーブします。

――――――――――――――――――――


 選択肢にも驚愕したが、「いいえ」を選べないことに更に唖然とした。


「では、遠慮なく♡」


 天津さんは選択を見届けると、勢いよく僕の脇腹を突き刺した――



 

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