第46話 5度目のクリスマス・イヴ⑧

「半裸にするのもだめとか、もうどうしたらいいんだよっ!」


 セーブポイントに戻り、頭を抱える。


「クソ野郎の極みみたいな台詞ですね」


〇同感だ。


 天津さんと春一が僕を批判する。しかし、そんなことは気にしちゃいられない。


「次、下やりますから! 下!」

「宣言するのは構いませんが、攻略される方の身にもなってください。一度、を選択することをオススメします」


〇同感だ。


 春一はもう、返事をするのすら面倒になったのか、先ほどから同じ言葉を連打していた。


「いや、下脱がせます! もし、何もしないだった時のショックが計り知れません!」

「うわぁ……」


〇全裸にする時、見ただろ……。


 じとーっとした目で、僕を凝視する天津さん。


 な、なんだよ!


 そんなマルチーズみたいな目で、僕を見つめるなよ!


「もし、何もしない以外の選択をとれば、即刻刺す自信がありますけどね」

「……ッ!」


 天津さんは、突き刺すようなモーションを取りながら、そう宣言した。


 最早、ここまでか……。


 諦観の念を抱きながら、選択肢と向き合う。


――――――――――――――――――――――

※天津叶をどうしますか?

 全裸にする

 半裸にする(上)

▶半裸にする(下)

 何もしない


 とでも思ったか!


※半裸にする(下)、を選択しました。


※オートセーブします。

――――――――――――――――――――――


「あっ、まつ、さ~ん!」

「昭和後期のラブコメアニメみたいなテンションで来ても、ダメなもんはダメッ!」


 下着を脱がせるために飛びかかるも、あっけなく撃沈。


 飛びかかったところにアイスピックを刺され、速攻でセーブポイントまで戻されしまった。


――――――――――――――――――――――

※BADEND――


※ロード中です。


※ロード中です。


※ロード中です。


※セーブポイントに戻ります

――――――――――――――――――――――


「なんで、昔のラブコメだとバレたんだろ……」

「最近は、よくリメイクされてますからね。それに昭和レトロは今日日、常識ですよ」


 さいですか……。


 二人きりの部屋の中。


 僕らは、ただただ会話を重ねる。


 まったく……。


 死に損なんだよな。


――――――――――――――――――――――

※天津叶をどうしますか?

 全裸にする

 半裸にする(上)

 半裸にする(下)

▶何もしない


※何もしない、を選択しました。


※オートセーブします。

――――――――――――――――――――――


「諦めましたよ」

「諦めの悪い男でしたね」

「でも、こんな選択肢を選んだところで、状況は変わらないんじゃないですか?」

「いえ、そうでもありませんよ?」

「はい?」


 対話を続けていると、天津さんが唐突に提案した。


「外に行きましょうか。もう、こんな時間ですし」


 時刻はいつの間にか、午後四時を回っていた。


「外?」


 僕が再確認すると、彼女がコクリと頷く。


「そろそろ、が降ってくるタイミングですから」


 天津さんはそう言うと、僕の手を強く引っぱり、そして――満面の笑みを浮かべるのであった。


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