第43話 5度目のクリスマス・イヴ⑤

 乳――それはロマンだ。


 男だけじゃない。多くの人間がそれに憧れ、持つ者と持たざる者に別れる、無慈悲な肉体美。


 それこそが、巨峰であり、巨乳だ。


 かつて、有名な登山家ジョージ・マロリーは「なぜ、山に登るのか?」との質問にこう答えたという。


 そこに山があるから――


 ならば、僕の行動もたぶん、恐らく、あわよくば許されるだろう。


「も、揉んでいいんですか?」

「えぇ。試しに」


 憧れの先輩の乳を揉む時が来るとは……。


 ゴクリ。


 生唾を飲み込み、いざ出陣!


 まずは、天津さんの胸を真上から包み込むように巨峰を堪能する。


「は、ハリがありますねぇ~」

「変な解説はいらないですから」

「す、すみません……!」


 ぴしゃりと窘められ、慌てて謝罪する。


 機嫌を損ね、この機会を失うのが恐かった。


 例えるならそう、せっかく遊園地に行くと決まったその瞬間から、家事の手伝いをし始めるへりくだった子どものような――そんな、心情だ。


「下から言っていいすか?」

「確認はいりませんっ!」

「は、はいっ!」


 天津さんの服越しに、胸を下から掬いあげる。


 重量感抜群の最中、そこで奇妙な現象が起きた。


――選択肢?


――――――――――――――――――――

※カップ数を聞きますか?

▶はい

 いいえ


※はい、を選択しました。


※オートセーブします。

――――――――――――――――――――


「せ、選択肢が現れたんで訊ねますが……。天津さん、お胸のカップ数は?」

「……っ!」


 選択肢が出現したから聞いた。


 ただそれだけのことなのだが、えらく背徳感があった。


 天津さんは、僕の心情を悟ったのか、一瞬逡巡する。


 そして、深い溜め息をついてから、小さな声で答えた。


「……です」

「え?」

「Iカップですっ!」


 あ、あ、あ、アイ!?


「アイ……。アイ……」

「あんまり復唱しないでくださいっ! 、また大きくなったんですっ!」


 大きくなったんです、って……。


 いやいや、そんなこと有り得るのか。二重の意味で。


 国連は一度、この世界に生きとし生ける女性の平均カップ数を算出すべきではないか。


 人口比や人種比込みで。


「通りで大きいわけですね……」

「もう、あんまり声ださないで!」


 三国一だろ、もうこの胸。


 柔らかい胸を揉みしだいていると、不意に春一から連絡が入った。


〇おい、そろそろいいだろ。


「いや、まだやるべきことはあるだろ!」

「な、なんですか? 急に?」


 メッセージを見ていないのか、天津さんが飛び上がる。


 失敬、失敬。


 とはいえ、春一の言葉を聞き入れるには、まだ早すぎる。


 僕は、意を決して、天津さんの服の中に手を突っ込んだ。


「……こ、こらっ!」

「天津さん、これで選択肢が出てくるかもしれないんですよっ!」

「それはそうかもしれないけど……って、あひィ!」


 ブラジャーを強引にずらし、突起を見つける。


 そして、僕は優しくそれをつまみ上げた。


「ど、どうすか?」

「そんなこと聞くなぁ! ばかぁ!」


 とうとう我慢の限界に達したのか、天津さんは僕を思いきり蹴飛ばした。


「ぬぁっ!」


 尻餅をつくと、天津さんがひん剥かれた服を手でおさえながら、抗議する。


「最低です! 最低ッ!」

「いやいや! 天津さんが『揉みませんか?』って、提案したんじゃないですか!」

「そうですが、つまんで良いとは言ってません!」

「……まぁ、それはそうか」


 反省していると、そこでまた選択肢が現れる。


――――――――――――――――――――

※プレイを続けますか?

▶はい

 いいえ


〇いや、まじか。

――――――――――――――――――――


 魅惑的な選択肢に対し、取るべき行動はきまっいた――

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