第42話 5度目のクリスマス・イヴ④

 結晶が再構成していくように、ポリゴンが人型をかたどっていく。


 集積されたデータを注視すると、それらポリゴンはやがて、天津叶となった。


「やっぱり、ダメでしたか」

「え?」


 正午丁度のこと。


 チャプターが戻ったみたく、僕らはあのへと巻き戻された。


「致命的なバグですね。致し方ありません。しかし、やはりプレイヤーを春一さんにする必要がありそうです」


 天津さんが言う致命的なバグとは何か。それは、春一によって、すぐさま明らかにされた。


〇……俺が攻略しても意味がないようだな。


「は?」


 メッセージが書き連ねられる。


〇プログラムの問題じゃなさそうだ。天津ルートも水杷ルートも攻略できたわけだしな。となると考えられるのは、ハード側と搭載されているAIどちらかの問題なんだろう。


「難しすぎてさっぱり分からない……」


 春一の言葉に困惑していると、見かねた天津さんが補足してくれた。


「簡単に言うと、ゲーム機の問題かの問題かということです」

「僕たちの?」


〇あぁ。まぁ、大方竜胆の暴走を鑑みるに、AIの問題なんだろうがな。このゲームは最新の人工知能が搭載されている。仮説を立てるなら、キャラクターのが遠因で、プレイヤーの想定しているシナリオ自体を無効にしてるんだろう。如月――って呼ぶのが正確だよな? 如月、何か、水杷ルートでおかしなことはなかったか?


「おかしなこと……?」


 春一に問われ、思い当たる節を頭の中で探す。


 人殺してるわけだし、それがおかしなことっちゃそうなんだろうけど……。あれは、そもそもの設定の問題なわけなんだよな? だったら、分岐が問題なんだろうけど――


 考えに考え抜く。


〇どうだ? 明らかに分岐がになってたりしなかったか?


 分岐が異様な数……?


「あっ」


 春一の言葉で、はたと気付く。


〇何か思い出したか?


「うん。確か、ショッピングモールで昼ご飯食べた時、明らかにの数が変だった」


〇それだ! それが過学習の証拠だ。


「このゲームの選択肢は最大で四ですからね。それ以上だとしたら、その疑いが強いです」


 選択肢は明らかに四つ以上あった。


「え、でも答えておいてなんなんですけど、過学習ってどういう意味なんです?」

「過学習というのは、AIの学習機能のことです。【エンドレス⇄スノウ】では、プレイヤーの好みに合わせて、キャラクターが自分でを変えるんです」

「へぇ……」


 自分もキャラクターなんだけど、そんな機能が。


 てことは、僕の性格も?


 疑問に感じたことを、先回りするように、春一がメッセージを打つ。


〇如月、お前は学習機能はついていないぞ。


「あ、そうなんだ」

「学習機能がついているのは、攻略対象だけです。ですので、私にも学習機能はついています」


〇話をまとめると、過学習ってのは学習機能の暴走だ。とはいえ、本来竜胆が暴走していることへのアンサーにはなっていないが……。


 謎が謎を生む。


 追究してみても、答えが出ないことは明らかだった。


 となると、どうするか――


 僕と春一の議論が止むのを見て、天津さんがとあることを提案した。


「過学習が原因だというなら、とりあえずは、私で実験してみるのはいかがでしょうか?」

「えっ……」


 思ってもみない言葉に、声を漏らす。


〇まぁ、仕方ないな。ゆっくりプレイしていこう。


 春一が諦観するように、メッセージを打刻した。


「では、春一さん。まず、あなたが一番求めていることからしてみましょうか」


 合意を得たことで、天津さんは僕に語りかけた。


「僕の求めていること?」

「はい、そうです」


 天津さんは、真っ直ぐ僕を見つめる。


 今から何が始まろうとしているのか、ドギマギしていると、彼女は確かに言った。


「私のおっぱい触ってみませんか?」


 自身の胸を強調するように、彼女はたわわに実った乳房を服越しに持ち上げるのだった――

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