第38話 【幕間】

 紙吹雪みたいな細かい雪が降っていた。


 パラパラと落ちてくるそれは、冷たくもなく、重くもない。


 好奇心に負けて、舞い落ちる雪片を掴む。すると、それは掌握した刹那、チリチリとどこかへ消えてしまった。


ですから」


 尋ねてもいないのに、相対する天津さんは、僕にそう答えた。


 データ。


 彼女の言葉には、零度の冷たさがあった。


 この世界には、なんてないんですよ、と。


 水杷楓に感じた熱さも、冷たさも、話し方も、所作すらも、すべてはであり、エクリチュールなんですよ。と、天津さんは言いたげだった。


 だからこそ、僕は改めて問うた。


「真夜中の公園。しかも、雪が降るなんて選んで、何か意図でもあるんですか?」


 この世界がシナリオ通りに進むゲームならば、天津さんが選んだこのシーンにもがあるんじゃないか。


 そう思うも、天津さんは僕に対し、蜘蛛の糸を垂らすことはなかった。


「ないですよ。意味なんて。敢えて言えば、合理的だったからです。こののデータが残っていた。ただ、それだけです」

「合理性ですか」

「はい。そうです」

「じゃあ、僕とこうして会うのも、何か合理的な理由があるんですか?」


 さらに問う。そうしたところ、天津さんはニコリと微笑を浮かべた。


「もちろん、ありますよ。私はゲームの進行係ですから。今回は、あなたにと言いにきました。水杷楓ルートの攻略おめでとうございます! ドンドン! パフパフ~」


 天津さんが話すと、どこからともなくファンファーレが鳴り響く。


 冗談だろう?


 絶望的なギャグセンスに苦笑していると、彼女は話を変えた。


「では、次の攻略に進みましょう」

「え?」


 本気で言ってんのか?


 呆れというか、怒りすら感じた。だが、天津さんはそれを許さない。


「冗談じゃありませんよー。ゲームをクリアしない限り、あなたはこの世界から出られないんですから」

「でも、修復作業をしてるんですよね? それはどうなってるんですか?」

「あー。それはですね、難航してますねー」

「難航って……。そんな簡単に……」


 クソゲーを作る会社らしい言い分だな。


 ただまぁ、こんなことを天津さんに言っても仕方ないか。


 何せ、彼女自身、データに過ぎないんだから。


「修正パッチを当てて、ようやく私が介入できるようになっただけ、ありがたいと思ってくださいよー」


 他人事のように話してるけど、自分の会社が作ったゲームじゃねえか。


 あぁ、いかん。


 これも無意味な感情か――


「ま、この世界に頼れる人がいるのは救いですかね」

「えぇ、もうそれはそれは、大きな救いですよ! 何せ、次のルートからは、できるんですから」

「天津さんが?」

「えぇ、そうですよー。前回言ったじゃないですか。私はに出てくるキャラクターだって」


 確かに、そんなこと言ってたような……。


 思い出そうとしたところで、雪がパタリと止んだ。


 チリ、チリチリチリチリチリッ――


「なんだ?」

「あー、無駄な話をしすぎたみたいですね。が終わるみたいです」

「オープニングって……」


 どこまでゲーム的なんだよ。


 心底うんざりするよ。


 視界の端から塗りつぶされていく公園の中、天津さんは言った。


「まぁ、仕方ありませんね。手短に待ち合わせをしましょう」

「待ち合わせ?」

「えぇ。まず落ち合う場所を決めておかないといけません。何せ、に先に会うのを避けないと、また水杷ルートに進むことになりますから」


 攻略情報なんだろうか。


 聞きたいような、聞きたくないような……。


 とはいえ、ここはゲーマー心情を捨てることにしよう。


「で、待ち合わせ場所は? それと、次の攻略相手は誰なんですか?」


 もうほぼ視界が真っ白な中、彼女の声だけが僕に届いた。


「12時に春一さんの家。攻略対象は、です」


――はぁ?


 飛び出た言葉が彼女に届いたかどうか。


 僕には分からない――


――――――――――――――――

※修正パッチによる修復が行われました。


※続きから始めますか?


▶はい

 いいえ


※はい、を選択しました。


※正常にプレイされました。


※引き続き、【エンドレス⇄スノウ】の世界をお楽しみください。

――――――――――――――――

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