第34話 √水杷楓⑦

 おかしい。あれが「最善」の選択ではなかったのか。


 再び、選択が巻き戻る。


 水杷を前にした僕は、またも2択を迫られた。


――――――――――――――――――――

※これからどこへ行きますか?


 自宅

▶水杷の家


――残された選択肢はこちらしかない。


※水杷の家を選択しました。


※自動セーブします。

――――――――――――――――――――


「水杷の家……にいきたいな」

「え……? 急だね」


 僕の選択に、水杷は顔を曇らせた。


「いや、もし……よければでいいんだけどさ」


 やっぱりこの選択じゃないよな。


 そう思いつつも、一度言った手前、簡単に引き下がることはできない。


「うーん……」

「水杷の両親にご挨拶だけでもって感じなんだけど」

「……挨拶かぁ」

「いや、まぁ、あれか。に急に行くことはないよな」

「ううん、それはいいんだけどね。私の家、いま親がいなくてさ。挨拶なら来てもどうなのかなって思っただけ〜」

「あ、なるほど、なるほど」


 どうやら、水杷の両親は不在らしい。


――理由付けに失敗したかな。


 やっぱり、この選択は間違いだった――


 そう思っていた矢先、水杷は以外な言葉を発した。


「あ、でもそうか……。親がいないからこそ、はできたりするね〜」

「……お、おう」

「それが狙いなのかな?」


 あはは。と、いたずらっぽく笑う水杷。


 深くにも、どきりとしてしまった。


「ん〜。ま、雪も降ってきたし、とりあえず私の家にいこっか」

「行っていいのか?」

「もちろん! 断わる理由はないからね〜」


 どうやら、渋っていたわけではないようだ。


 てか、水杷の家に行くのは初めてだな。


「じゃ、お言葉に甘えて」

「わかった〜。ここからバスと電車を使うんだけど、いいかな?」

「バスでも船でもどんな方法でも構わんさ」

「あはは。船は使わないかな〜」


 冗談を言いつつ、僕たちはバス、それから電車を使い、水杷の家へと赴いた。


「着いたよ〜。ここがマイホームです。どや!」


 乗り継ぎの時間もあり、ジャコモから40分ほどの場所に、水杷の家は位置していた。


 一軒家なのか。


 都市部からはやや離れていたが、近隣には住居がいくつか建てられていて、閑散とはしていない。


「高校の時、こんなところから通ってたのか」

「ちょっと遠いよね。まぁ、それでも1時間以内には着くからね〜」


 水杷の家に入ると、そこは何の変哲もない一般的なリビングが広がっていた。


 なんかこう、和風だったり洋風だったりするもんだけどな。


 ギャルゲーって。


 ゲーム基準で考えると、工夫のない設計だと思ったものの、それを口にするのは「メタ発言」だろう。


「あ、私の部屋、2階なんだ〜。案内するからそこで待っててくれる?」

「おー、分かった」


 階段を登ると、突き当りの部屋が彼女の自室だという。


 とんでもねぇ部屋じゃありませんように……。


 期待と不安が入り交じる中、水杷が扉を開ける。


「あ、あんまりジロジロ見るのは無しだからっ!」

「おー。お手本みたいな部屋だな」


 彼女の部屋は、サンプル画像みたいに、お手本通りの「女の子」の部屋だった。


 ぬいぐるみ、学習机、ベッド、ドレッサー――


 過不足のない家具類に、なぜかホッとする。


 ただ、ポスターがなぜか、「宇宙人」なのは、せめてものオリジナリティなんだろう。あと、棚の本も「占星術」やら「超能力」やら、妖しげな本が並んでいたが、それは見なかったことにしよう。


「面白くないって、思ったでしょ?」

「いや、女の子の部屋だなって思った」

「なにそれ〜。れっきとした女の子なんだから、当たり前でしょ?」

「ま、それはというかさ」

「……どういう意味?」

「あ、いや、こっちのセリフ!」


 Eカップの胸に目が行き過ぎた。


 水杷は胸を抑えながら「もうっ」と、僕を叱った。


「お茶入れてくるからねっ! そういうのは、また後で!」


 ビシッと指をさし、水杷は部屋を出た。


 ひとりになり、部屋をぐるりと一周見渡す。


 きっちり物が整頓されてるのが、あいつらしい。


 んー……てか、やばいな。お手洗いの場所聞くの忘れてた。


 麻婆豆腐食ったとき、ばかほど水飲んだからなぁ。


 水杷には悪いが、ちょっと探させてもらうか。


――2階にもあるのかね?


 部屋を出て、それっぽい扉を見つけた。


「ここか?」


 上部が長方形の硝子窓になってる扉を開ける。


――――――――――――――――――――

※扉を開ける?

▶はい

 いいえ


※はい、を選択しました。


※自動セーブします。

――――――――――――――――――――


 すると、そこには「首を吊った何か」がぶら下がっていた。


「ぬぁっ!?」


 慌てて扉を閉め、呼吸を整える。


――な、なんだあれ?


 扉の前でへたり込むと、ガチャンッ! と、物の落ちる音がした。


「見た……?」


 音のした方向にいたのは、水杷だった。


 盆ごと落下したプラスチック製のマグカップ。床がびしょ濡れになっているのにも構わず、水杷は僕に言葉を投げた。


「見たんだね?」


 彼女の瞳が濁ってい。


「……水杷。これ――」


 トイレの扉を手の甲で叩くと、彼女がアイスピックで僕を刺した。


――アッ……。


「やっぱり、宇宙警察の斥候だったのね。私の家に来たいなんて怪しいと思った。私の平穏と宇宙平和のために、好きにはさせない。殺す。殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す――」


 何度も何度も胸を刺され、僕は絶命した――


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※セーブポイントに戻ります。

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