第33話 √水杷楓⑥
意識を取り戻すと、僕の目の前には、黄と緑のワンピースを持った水杷が立っていた。
「春一くん、どっちが似合うかなぁ?」
――ここから……?
疑問に感じつつも、選択肢が現れる。
――――――――――――――――――――
※どちらを選びますか?
黄色
▶緑色
――――――――――――――――――――
――同じ轍は踏むまい。
今度は無論、「緑」を選択する。すると、彼女はやや渋い顔になった。
「緑……?」
「そっちの方が似合うと思うんだがな」
「ふぅん」
納得がいってなさそうな顔だった。
だが、「黄色」を選べば、真のエンディングに行けないことは立証済みだ。
「うーん」
悩む水杷に対し、僕はもう一度言ってやった。
「黄色より、緑の方が似合うよ」
刺される恐怖に打ち勝ち、意見すると、水杷は悩みつつも試着室へと入った。
どうやら、「こちら」が正しい選択のようだ。
てか、「分岐」がありすぎなんだよな。
不満たらたらだが、一歩ずつ着実に「可能性」を消していくほかない。
彼女の着替えを待つ間、メモをとる。
ここまでの「エンディング」は、2通り。一つは、「日常エンド」、そしてもう一つは「バッドエンド」だ。
わかったことは、どちらも「間違った」選択をすると、セーブポイントまで戻るということだ。
しかも、そのセーブポイントは「選択肢」を選ぶ前に設定されている。
――わかっているのは、これだけか。
一応、これまでの正解を書き留めておくが、「セーブ地点」に正しく戻れるのであれば、これもどこまで必要な行為かわからない。
「春一……どう、かな?」
「おっ」
試着室のカーテンが開くと、彼女が現れた。
新芽のような色をしたワンピースに身を包んだ彼女は、少し恥ずかしそうだった。
「似合う……かな?」
「そりゃ、もう。めちゃくちゃ似合ってるよ」
「えへへ♡」
満足そうな水杷を見て、やはりこの選択が正解なんだと確信する。
微妙なニュアンスで大きな違いを生むのが、ギャルゲーの醍醐味だ。
「買ってやろうか?」
「え……いいの?」
先程とは異なる反応が続く。
「もちろん。僕が選んだも同然なんだし、プレゼントするよ」
「えへっ♡ ありがとう♡」
緑のワンピースを購入し、彼女に手渡す。
まるで、本当のカップルみたいなやりとりだ。
「大事にするね♡」
「ああ」
買い物を終えると、水杷が不意に時間を確認した。
「あ……。もう、こんな時間だね」
時刻は17時。
ジャコモを出ると、雪がしんしんと降っていた。
「どうする帰るか?」
提案するも、水杷は首を横に振った。
「ううん。もうちょっとだけ、一緒にいたい……かも」
いじらしい反応に、愛おしさを覚える。
と、そこでまた選択肢が現れた。
―――――――――――――――――
※これからどこへ行きますか?
▶自宅
水杷の家
――最後の2択になるような気がする。
※自宅を選択しました。
※自動セーブします。
―――――――――――――――――
「なら、うち……寄ってくか?」
「え……?」
僕の選択に、水杷は顔を背けた。
「いやなら、いいんだけど」
念押すようにそう尋ねると、彼女は「いく」と答えた。
――ふぅ……。
長い長い攻略の幕が降りる予感がした――
◆
「あっ♡ あっ……あっ♡」
自宅に戻り、まっ先に彼女の肢体に手を付けた。
「水杷――」
「春一……くんっ♡」
口を抑えながら、彼女の下腹部に触れる。
水杷は既に準備が整っているようだった。
ぬちゃぁ♡
糸ひく彼女が、とても愛おしく思えた。
「していいか? 水杷」
「……うんっ♡ 激しくして♡」
パンツを下ろし、彼女の望み通り、身体と身体を重ね合わせる。
「ん♡ ちゅっ♡」
水杷が舌を出し、僕を歓迎した。
「愛してるよ、水杷」
「わ、わたしも、春一くんのこと――あ、あぁぁぁぁぁっ♡」
クリスマス・イヴの夜、僕たちは結ばれた――
――――――――――――――――――――
※【√水杷楓:「ラブラブエンド」】
――あ?
※ロード中です。
※ロード中です。
※ロードが完了しました。
――なんで、終わらない?
※セーブポイントに戻ります。
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