第31話 √水杷楓④

 何を食べようか。


 レストランストリートへやってくると、僕は「選択肢」がいつきてもいいように、身構える。


 ま、どうせまた選択肢で決めるんだろ?


 昔の恋愛シミュレーションじゃあるあるだよなー。飯選ぶのってさ。


 そう高を括っていたのだが、以外にも選択肢が現れることはなかった。


 その代わり、店は水杷が決めた。


「中華料理にしようか〜」

「おお、いいぞ。だけど、以外だな。てっきり脂っこいのは苦手だと思ってた」

「そう? 中華料理は好きだよ〜。麻婆豆腐とか、辛いやつ〜」


 辛いやつは僕も好きだ。


 そんなことを話しつつ、店へ入り、注文をする。


「どれにしようかな〜。春一くんは?」

「そうだな……」

「何食べる〜?」


 油断していると、ことあるごとに選択肢が現れる。


――またか……。


―――――――――――――――――――――

※何を選びますか?

▶麻婆豆腐定食

 青椒肉絲定食

 天津飯セット

 餃子定食

 酢豚定食

 ラーメンセット

 角煮チャーハン

 エビチリ定食

 担々麺

 油淋鶏定食


――いやいやいやいや!


――多い、多い、多い!


――まじでギャグみたいな多さだな。昔のギャルゲーの悪いとこ真似すんなよ!


――でも、選ぶしか無いんだよな……。とりあえず、一番食いたいものを……。


※天津飯セットを選択しました。


※自動セーブします。

―――――――――――――――――――――


 天津飯セットを選ぶと、水杷の態度が一変した。


「は?」

「……え?」

「ありえないんだけど?」

「……え?」


 急に低い声を出す、水杷。


 すると、次の瞬間、どこから取り出したのか、彼女がアイスピックで僕の心臓を突き刺した――


 ……こんなんで終わるの?


 暗転しゆく世界の中、彼女のサイコパス具合に恐怖した――


―――――――――――――――――――――

※ロード中です。


※ロードが成功しました。


―――――――――――――――――――――


「何食べる〜?」


 水杷が僕の顔を覗き込んでいる。


 ……さて、どうしたもんか。


―――――――――――――――――――――

※何を選びますか?

▶麻婆豆腐定食

 青椒肉絲定食

 天津飯セット

 餃子定食

 酢豚定食

 ラーメンセット

 角煮チャーハン

 エビチリ定食

 担々麺

 油淋鶏定食


――ふぅ……。ここは、さっき話した麻婆豆腐が正解か。


※麻婆豆腐を選択しました。

―――――――――――――――――――――


「じゃあ、麻婆豆腐に……」

「は? それ、私が頼もうとしてたんだけど?」


 ぐさッ……。


 いや、これ……どうしろってんだよ……。


―――――――――――――――――――――

――気を取り直して、もう1回。


※何を選びますか?

▶麻婆豆腐定食

 青椒肉絲定食

 天津飯セット

 餃子定食

 酢豚定食

 ラーメンセット

 角煮チャーハン

 エビチリ定食

 担々麺

 油淋鶏定食


――あー、わかんねー……。


※酢豚定食を選択しました

―――――――――――――――――――――


「じゃ、酢豚に……」

「あ? 私、辛いのが好きって言ったよね?」


 ぷしゅッ――


 紅くきれいな鮮血が飛び散る。


 あ、なるほどな……。


 ブラックアウトする視界の中、僕は一つの「回答」を得た。


―――――――――――――――――――――

――なんとなくわかったわ。


――気を取り直して、もう1回チャレンジだ。


※何を選びますか?

▶麻婆豆腐定食

 青椒肉絲定食

 天津飯セット

 餃子定食

 酢豚定食

 ラーメンセット

 角煮チャーハン

 エビチリ定食

 担々麺

 油淋鶏定食


――天津飯と麻婆豆腐が駄目なことは分かった。


――となると、与えられたヒントから考えられるのは、あと一つ。


――担々麺だ!


※担々麺を選択しました。

―――――――――――――――――――――


「じゃあ、担々麺にしようかな」


 僕はこの中で、一番辛そうなものを選択した。


 すると、彼女の顔が一気にほころんだ。


「お、いいねー! センスあるじゃーん!」

「お、おお……」


 笑顔よりもまず、殺されなかったことに安堵する。


 このゲーム、めちゃくちゃ理不尽じゃね?


 改めて、難易度の難しさに、僕は辟易するのだった。

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