第27話 【修復完了】
「……なん……だ?」
天津さんと会話していると、部屋の模様が徐々に変わり始めた。
チリチリッ――チリチリチリチチチ
部屋がポリゴン化するに合わせ、備えられていた家具類が消失していく。
「始まっちゃいましたか」
「……始まるって、何がです?」
「【修正パッチ】ですよ。
先ほどから、天津さんはやけに訳知りだ。
見慣れた部屋が消えゆく中、僕は彼女に尋ねた。
「天津さん……あなたは一体?」
「申し遅れました。私、この世界で進行役を務めている、NPC《ノンプレイヤーキャラクター》の【天津叶】です。設計上は、進行役と【隠し攻略キャラクター】といったところでしょうか」
「なる……ほど?」
納得まではいかないまでも、理解はした。
ただ、ショックだ。恋をしていたのが、ゲームのキャラクターだったとは……。
――あれだけ喜んでいたのが恥ずかしい。
顔を覆っていると、天津さんが微笑をくれた。
「本来なら、2週目に登場するキャラクターなんですよ、私。だから、本当はこんなところに出てきちゃいけないんですけどね」
白色に変わる背景と相俟って、笑顔を浮かべる天津さんが「天使」に見えた。
「そうだったんですね。じゃあ、他のキャラクターも? 例えば、水杷や椎堂さんなんかも……」
「はい。攻略キャラクターですよ」
「やっぱりか。じゃあ、この記憶は全部……嘘?」
「嘘というか、シナリオですねー。先ほどもお話しましたが、この世界はゲームです。タイトルは【エンドレス⇄スノウ】――株式会社ミズハコーポレーションが送る、ヤンデレ攻略を主とした恋愛シミュレーションゲームです」
そこで、彼女の言葉に違和感を覚えた。
恋愛シミュレーションゲーム……?
「はは……。てっきり、ホラーゲームかと思ってた」
「まさか。ちゃーんと全員攻略できますよ?」
「いや、だってさ。確か始まり方が、知らないキャラクターに殺されるところからなんだぜ? それに、監禁めいたことする竜胆だろ? 流石にホラーかと――」
思うじゃん?
と、途中まで述べたところで、僕は気付いた。
天津さんは、眉をひそめていることに。
「あの、聞き間違いでしょうか? 始まり方の後、なんと仰られましたか?」
「へ? 知らないキャラクターに殺されたりだとか、監禁されたりだとか……」
「あの、すみません。知らないというのは、どういう意味でしょうか?」
「え? そのままの意味だけど?」
始まりのシーンに出てきたのは、見覚えのないキャラクターだった。
無論、水杷とも椎堂さんとも、竜胆とも違う――
あっけらかんとしていると、天津さんは何か考え事をしはじめた。
――どうしたんだ?
「あと、殺されてループするというのは、ゲーム上の仕様なんですが、少し気がかりなことが」
「え? どういう意味です?」
「いや、まずですね。このゲームの攻略キャラクターって、4人なんですよ」
「4人ですよね? 水杷、椎堂さん、竜胆――」
それから……あれ?
「そうなんです。私を含めて、4人なんです」
「え? じゃあ、最初に登場したキャラクターは?」
「いや、そもそもそれがおかしいといいますか。最初に殺されるなんておっかない仕様、このゲームにはないんです。それに――」
天津さんは、さらに不可解な言葉を発した。
「さっきから気になってたんですが、竜胆ってどなたでしょう?」
「え?」
背筋がゾクリとする言葉だった。
天津さんは、首を傾げながら話を続ける。
「正規キャラクターは、ゲーム上のバランスをとって、私、水杷楓さん、椎堂茅夏さん、それと結城櫻さんの4人のはずなんですけどね」
だから、竜胆なんてキャラクターいませんよ?
彼女の言葉に、僕は強烈な恐怖を覚えた。
膝から崩れ落ちるってのは、このことなんだろう。
「まじかよ……。嘘だろ、じゃああれは? あいつは一体、何者なんだ?」
「分かりません。ただ言えることは、とにかくその竜胆さんとやらが、致命的なエラーを起こした可能性はありますね。ただ――」
彼女の話が突然とまる。
よくみると、天津さんもまた、ポリゴン化していた。
「ダメですね。私ももう、消えてしまうようです。私から春一さんに言えることは、二つです。早急に、水杷さんと椎堂さんを攻略してください。二人は、ジャコモモールで正しい選択を行えば、必ず攻略できることになっています。それと――」
竜胆という輩からは、逃げ切ってください。
天津さんが「忠告」を残したと同時、この場は完全な白銀の世界と化した――
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※セーブデータの修正が終わりました。
※「続きから」はじめますか?
はい
▶いいえ
※その選択肢は選べません。
※「続きから」はじめますか?
▶はい
いいえ
※正常にプレイされました。
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