第26話 【修復中】

「春一さーん。春一さんってばっ!」


 身体を揺すられ、目が覚めた。


「ん~……」


 だが、睡眠欲というのは厄介なものだ。眠気に抗えず、僕は再び眠りの世界へと引っ張られる。


「こら~っ! 起きてくださ~い!」

「あと、5分だけ……5分でいいから……」


 春眠暁を覚えず、だ。


 母親とのやりとりのように、詩を微吟すると、今度はを取り上げられた。


――さっむ!


「だめですよ~っ! ようやくにたどり着いたんですから~!」

「……え?」


 女性の言葉で「ハッ」となると、僕は急いで身を起こした。


「春一さん。また会いましたね」

「天津……さん?」


 眼前にいたのは、僕のバイト先の先輩、天津叶さんだった。


――なんで、天津さんが僕のに?


 四方や、気を失っている間に、連れ込んだとかか?


 いや、それはない。


 僕のようなチェリーボーイに、そんな勇気はない。


 それは僕自身が一番よく知っている。


「あんまり起きないもんだから、心配しましたよー」

「な、なんで天津さんが、僕の部屋に?」


 ブロンドの髪を梳くと、彼女の胸も連動して、たゆん、たゆんっと揺れる。


 目の毒の塊みたいな存在だ。


 次第に収束しゆく上下運動を眺め見ていると、天津さんが質問に答えた。


「何言ってるんですかー。ここはなんかじゃないですよー」

「……はい?」


 思わぬ言葉に、困惑した。


 僕の部屋じゃないって、何を言ってんだ?


 から使っている、布団、机、椅子、クローゼットなんかを見て、やっぱり僕の部屋で合ってるじゃん。と、確信する。


 しかし、天津さんは、あくまで「そうじゃないはずですよ」と否定した。


「いやいや、現に僕が使ってるものばかりで――」

「春一さんは今、ですよね?」

「……あ」


 そうか。


 天津さんの言葉に、ようやく得心する。


 中学校から使ってる、布団、机、椅子、それから――


「春一さんは、一人暮らしをしているんですよね?」

「そうでした。でも、じゃあ、ここは僕の実家――」

「それも違うはずですよ。春一さん。よく思い出してください。、そしてを」


 僕のこと。


 そして、――


 うーん。なんだか頭が痛くなってきた……。


「いやぁ。この世界のこと……って言われてもねぇ」

「難しそうですね。じゃあ、質問を変えましょうか」


 天津さんはそう言うと、カレンダーを指さした。そして、「今日は何日ですか?」と僕に尋ねた。


「何日って、それくらい分かりますよ。今日はです」

「そうですよね。じゃあ、明日はですか?」

「明日? えーっと……」


 今日が、12月24日で、明日が25日だから――あ、そうか。


 明日は、クリスマスか!


「クリスマスですよね。僕と天津さんがデートする日」


 僕の答えに、彼女は複雑な表情を浮かべた。


 え? あれ?


 もしかして……違う?


ならば、それが正解でした。しかし、今は違います。春一さん、もう少しだけ記憶を思い出してみてください。それが答えです」


 天津さんは、何を伝えようとしているんだろうか。


 通常時なら正解? 旧い記憶ってのは、何だ?


 頭の中で、ぐるぐると彼女の言葉が回る。


「春一さん、あなたはですか?」

「僕は……」

「春一さん、あなたはなぜ、にいるんですか?」

「この世界に……」

「春一さん、あなたがしているのは、なぜですか?」

「僕がこの世界でループしているのは――」


 誘導された言葉をつなげていくと、ガチャンッ。と、脳内のパズルがほどけた。


 あ、そうか。


 


「この世界はの中なんだ」


 僕は、ハッとした。


 タイトルは、【エンドレス⇄スノウ】――新世代型ゲーム機「イヴ」でプレイできる、フル没入型「恋愛シミュレーションゲーム」、それがこの「世界」の正体だ。


 すべてを悟る。


「大正解です。そして、ここで『重要なお知らせ』があります」


 天津さんは、神妙な面持ちで言った。


 致命的なエラーにより、現在、状態です。修正をお待ちく出ださい、と――


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▶平素よりご愛顧いただき、誠にありがとうございます。株式会社【ミズハコーポレーション】です。現在、弊社製品に一部不具合が生じております。修復をお待ちください。


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