第21話 ループ⇄【???】

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※予期せぬエラーによりセーブデータが破損しました。


※正常にコンティニューできませんでした。


※ロード中……。ロード中……。


※セーブデータ【???】が見つかりました。


※コンティニューしますか?

▶はい

 いいえ


※コンティニューしました。


――――――――――――――――――――


「起きてくださーい。春一さーん」


――誰かが僕を呼んでいる。


「春一さーん。生きてますかー?」

「……ん」


 瞼を開くと、ぼやけた視界が広がっていた。


 影……?


 判然とはしないが、何かが僕を見てる気がする。


 うまく視認できずにいると、眼前の影がゆらめき、再度僕の名を呼んだ。


「春一さーん! 生きてますかー?」


 声の主は女性だった。


 彼女の声に応答しようとすると、ぼやぼやした視界が次第にクリアになっていく。


 輪郭がくっきりすると、影の正体が明らかとなる。


 眼前にいたのは、ブロンド髪の女性だった。


「んあっ……? 天津さん……?」

「あ! 良かった! 生きてたんですね! 心配しましたよ、春一さん!」


 心底安堵したというような表情をしたのは、僕のバイト先の先輩、天津叶あまつかなえさんだった。

「なんで、天津さんが?」

「それを説明するのは、非常に難しいですねー。春一さん。ひとまず、起き上がれるかチェックしましょうか」


 天津さんは、たゆんっと胸を揺らしつつ、僕にそう言った。


 起き上がれるかチェックする?


――天津さんがそう言うなら、まぁ、それに答えるのはやぶさかではないけど――


 癒し系ふわふわ女子の天津さんの頼みとあっては、不肖、如月春一19歳。断る道理はない。


「よっこいせ」

「わー! 偉いですね―! 春一さん! よく立ち上がれました!」

「はっはっは! こんなもの、朝飯前ですよ!」


 人類の最大の特徴、直立二足歩行を天津さんに披露すると、彼女は僕の頭を「よしよし」した。


「えらい、えらい!」


 たゆん、たゆん。


 上下に動くおっぱいの移動も、人類の進化あってのもの。


 大先輩、アウストラロピテクスに感謝だ。


――よくぞ進化してくれた! そして、こんなにも豊満ボディに育ってくれた!


 類人猿と天津さんの恵体に心の内で五体投地していると、天津さんがもう一つ、僕に頼み事をした。


「では、春一さん。もう一つチェックさせてくださいねー。って、何を食べましたか?」

「お昼ですか? なんですそんな簡単なことを聞いて?」

「まぁまぁ、わたしを助けると思って、思い出してみてください」


――天津さんを助ける? そうとなれば、脳みそをフル回転させて思い出さなければなるまい。


 えーっと、たしか……。


 あれだよ、あれ。


 えーっと、うん、ここまで出てるんだよ。喉元まで。


 あー、えー……。


 なんとかして、のことを思い出そうとする。


 しかし、いつまで経っても、「昨日の昼飯」は思い出せなかった。


「あー、えーっと……。はい、すみません。ちょっと、記憶が……。あれぇ?」

「大丈夫ですよー。チェックすることができましたから! ご協力、ありがとうございました!」

「あ、そうすか。思い出せなくてもいいんすね」

「はい! もちろん、大丈夫です!」

「なら、よかった」


 この若さで昨日のことすら思い出せないとは……。将来が思いやられる。


 ただ、天津さんが、いつも以上のアルカイックスマイルを浮かべているのを見て、そんなことどうでもよくなった。


「ではですね、最後のチェック事項です。春一さん、

「明日……ですか?」

「はい! 明日です!」


 明日、明日……。


 思考を張り巡らせ、「明日の予定」を必死になって思い出す。


――


 ということは、答えは一つだ。


「天津さんとデート……ですかね?」


 人生で一番大事な予定。


 それを忘れるほど、僕は耄碌もうろくしていない。


 僕が答えると、天津さんはパァッと、顔を明るくさせた。


「結構です! 100点満点の答えです!」

「いやはや、さすがに忘れるわけがありませんよ」


 はっはっは!


 高笑いすると、天津さんはまた、ニコリと微笑んだ。


「では、春一さん。明日を楽しみにしています」

「ええ! 僕もです!」


 自信満々に答えると、彼女が最後に言った。


「じゃあ、春一さん。25日に会いましょう。?」

「え? どういう意味です?」


 そう尋ねたところで、天津さんは「では、また」と言い残し、スーッと、幽霊のように消えてしまった――


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※セーブデータを復旧しました。


※【√結城竜胆】をロードします。


※コンティニューしますか?

▶はい

 いいえ


※コンティニューしました


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