ループ⇄結城竜胆の場合
第15話 4度目のクリスマス・イヴ
「うぉぉぉっ!!!」
声を上げながら覚醒すると、前方に座っていた女性が、慌てて身を翻した。
「な、なんですか!? だ、大丈夫ですか?」
見知らぬ壮年の女性は、心配をしてくれたのだが、僕の身体に異変はなかった。
「あ、いや……。すみません」
平謝りすると、彼女は怪訝な目を向けつつも、体勢を元に戻す。
最初、動悸こそ酷かったものの、時間が経つにつれそれも治まり、段々と状況が飲み込めてきた。
ここは、ジャコモモールへ向かうバスの中だ。
一番後ろの席には僕がいて、前列にぽつぽつと壮年の女性や、老婆、老爺が座っている。
ひどい夢……を見たのか?
一瞬、そう思ったが、僕はスマホを見てすぐ、これまでの経験が夢でないことを悟る。
「ははっ……。まじかよ」
既視感のある天津さんからのメッセージを、24日付の17時37分に受信していたからだ。
『やっほー! 明日の待ち合わせを確認したくて、連絡しちゃった! 明日は、何時にどこ集合にする~? クリスマスデート、すっごく楽しみだ~!』
おかしい。
それは火を見るより明らかだった。
時刻は現在、10時20分――
しかも、今日はクリスマス・イヴだ。
「なんなんだよ……一体」
頭の中が、こんがらがりそうだ。
ただ、これだけは言える。
――僕は、ループしてる。しかも、何故だかわからないが、天津さんからのメッセージは受信した上で。
いや、待てよ?
これこそ悪い夢なんじゃないか?
古典的な対応だが、頬を抓ってみた。
しかし、夢から覚める気配もない。
頭を抱えていると、車内にアナウンスが入った。
『次は、ジャコモモール前。ジャコモモール前です。お乗りの方は停車まで立ち上がらず、お待ちください。降車される方がいらっしゃらない場合は、次の青少年科学技術センターまで向かいます』
あ。
慌てて降車ボタンを押すと、しばらくしてバスが停車した。
運賃を入れると、運転手が言う。
「ありがとうございました~」
僕は、上の空のまま、ジャコモモールを見上げた。
――どうなってんだ?
僕は、これから何が起こるのか把握している。
まず、銀行に行って、お金を卸す。ただ、この時、5万円を卸してしまうと、後々「足りなくなる」。だから、少し多めに卸すのだ。
それから、ジャコモに来た目的の一つ。服を買いに行く。だが、そこで同窓生の水杷に出会って――
「だめだ。流れのままいくと、多分死ぬ」
しかも、水杷と分かれた場合も、漏れなく死ぬ。
それも、大学の先輩・椎堂さんの手で。
だから、ここに来てはいけないのだ。
ジャコモに入ることが誤り。僕はそう判断した。
「じゃあ、どうするか――」
逡巡の後、僕は「順番」変えるという選択肢を選んだ。
服なんて買わなくていい。まずは、髪を切りにいこう。
予約していた美容院に無理をさせるかもしれない。
ただ、死ぬよりは断然ましだ。
急いで行きつけの美容院「さくら」に連絡すると、ツーコールで店主が出た。
『美容院さくらです』
「あ、もしもし。お世話になってます。今日予約してた、如月ですが」
『ああ、春くん? なに、そんなに畏まっちゃって? どうかしたの?』
幼稚園の時から通っているから、身内みたいなもの。そう言わんばかりの対応だった。
「すみません。予約の時間を変えたいんですが――」
『予約? あれ? 入ってたっけ? ごめん、ごめん。すっかり忘れてた』
――おいおい……。
まぁ、さくらのおばちゃんは、大体いつもこうだ。
美容師にしては、ずぼらすぎるんだよな。まったく。
「予約とれてないなら、今から行ってもいいかな?」
『今から? いいわよ? 今日、暇だし』
「あ、じゃあすぐ行くから! よろしくお願いします!」
『わかった』
母と子みたいな会話だが、これもいつものこと。
「これでよし……」
ジャコモから離れるという目標を達成し、僕は美容院さくらに急いで向かった。
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