第13話 3度目のクリスマス・イヴ⑤

「なんか食べるか? チケット代の分、なんかおごるよ」


 プラネタリウムを見終わった後。


 僕たちは館内を出て、次に行く場所を相談していた。


「いいね~。ま~、ソフトクリームとかでいいよ~。そこの売店に売ってるやつ~」

「寒いのにソフトクリームなんか食うのかよ?」

「あはは。今日は温めてくれる人が横にいるからね~。寒くたって大丈夫だよ~」


 カップルシートに座って以降、水杷と僕はずっと手を握っていた。


――なんで離さないんだ、こいつ……。


 別段、男女の仲とかではないんだがな。


 水杷が握り続けるもんだから、惰性でそうしているだけだ。


 ただ、もうそろそろいいだろう。


「売店でソフトクリーム買ってくるよ。バニラでいいだろ?」

「あ、こら~! うりゃ♡」

「お前なぁ~」


 売店を口実に手を離すと、今度は腕にしがみついてきた。


 何だってんだ、まったく。


 ご満悦の水杷に、僕は注意を促した。


「付き合ってるわけでもないんだから、ベタベタするなって」


 水杷を払いのけようとする僕。


 抵抗する彼女は、突如、首をぐりんっと僕に向けた。


「なんで……?」

「は?」


 急に低い声を出され、あからさまに焦る。


 なんでって……。


 理由を言わなければならないほどのことなんだろうか。


「いいじゃん、別に。減るもんじゃないし」

「おいおい、何怒ってんだよ」

「そりゃ怒るよ! 春一くんは、私のなんだから! くっついたっていいでしょ!」

「は……?」


 今、何て言った?


 唐突な言葉に、耳を疑う。


 私の彼氏――水杷の発言は、聞き捨てならなかった。


「今日はデートなんだから! 甘えさせてよっ!」

「水杷。いつお前が僕の彼女になったんだ?」

「は? 何言ってんの? からずっと私たちたよね? 信じらんないっ!」


 いつもの、のほほんとした口調はどこかにいった様子だった。


 いや、しかし、衝撃を受けたのはそのことにではない。


――前世から付き合って……た?


 流石に聞き間違いではなさそうだった。


 水杷は言葉を継ぐ。


「私、ずっと寂しかったんだよ! 付き合ってるのに、大学いってから何も連絡もくれないしさ! 久しぶりに会ったら、急に変なこと言って!!!」

「でも、会ったときだって……」

「嫌味もわかんないの? 私たちは、前世から付き合ってたんだよ! ほら、思い出してよ! 昔、合宿でも話したでしょ!」

「え……」


 ちぐはぐな会話について行けなくなる。


 確かに、昔から「スピリチュアル系」のものとか好きだった気がするが、ここまで「電波」な奴だったか?


「ほら、合宿のとき、天の川銀河をみたでしょ? あの時、『私が織姫で、春一くんが彦星なんだよ』って、確かに話したじゃん! 覚えてないの?」


 そ、そんな話したかなぁ……。


 僕が困惑するも、彼女は淀みなく話しを続けた。


「私たちは、アンドロメダ星雲の星の陰りの影響で、離れ離れになっちゃったんだよ。その時、私はかに座星雲の導きで、ガニメデ星人に保護されて助かったの! それを知った春一くんは、はくちょう座なんだけど、ハレー彗星に乗って五万光年先にいた私を迎えに――」


 ペラペラと創作語りをする水杷に、僕は思わずドン引きしてしまう。


 どこのオカルト雑誌を読んで、そこまで妄想を広げたんだろうか。


「ガニメデ星人とイオ星人は木星系人なんだけど、元々は織姫派なの。それでもって、ベテルギウスの超新星爆発が引き金となって、私たちは最終的に地球に辿り着いたんだよ! 私も最初、びっくりしたんだけどね……。でも、これが運命なんだって思った。私と春一くんは、今生で永遠に結ばれるんだよ。だから、変なこと言わないで!」

「落ち着け、落ち着けって!」


 周囲の人の目が痛すぎるんだよ!


「私は落ち着いてるよ~? おかしいのは春一くんだよね~?」


 なんとか水杷をなだめるも、先ほどとは打って変わって、彼女の目は完全にってしまっていた。


 ここを打開するには、彼女に話を合わせるほかないだろう。


「……すまなかった」

「分かればいいんだよ~。大丈夫~。誰にでも間違いはあるからね~」


 水杷は、がっしりと僕の腕にしがみつく。


「いたっ……」

「星の導きが生んだ奇跡だよね♡ 私たちの関係って! 春一くん、あなたが二度と――」


――私から離れませんように


 プラネタリウムで見た唇の動きがリンクし、戦慄が走ったのは言うまでもないだろう――

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