第12話 3度目のクリスマス・イヴ④

 本屋を巡ろうとしたところで、水杷がそれにストップをかけた。


「せっかく久しぶりに会ったし~、天文部っぽいことしない~?」

「天文部っぽいことって?」

「例えばさ、あれだよ~」


 水杷が指さしたのは、「青少年科学技術センター」のポスターだった。


 銀河が描かれたそれには、白地で「プラネタリウム・クリスマス特設展」と書かれていた。


「プラネタリウムか」


 なるほどな。


 確かに、天文部らしい内容だ。


「時間があるならでいいよ~」


 水杷が僕の腕をとった。


 しかも、がっちりと……。


 こうなった水杷は梃子でも動かないことを、僕はよく知っていた。


「時間はある……けどな」


 美容院には最悪、明日行けばいいか。予約といっても、田舎だ。電話一本で事足りる。


「なら、バス乗っていこ~」

「そうだな。久しぶりに天文部活動ってのも悪くないか」


 ジャコモから出た時、僕は少しだけ心が軽くなった。


 多分、昨夜見た夢のせいだろう。


 バスに揺られている間、水杷が懐かしい話をいくつかした。


「バスに乗って、県外の天文台に行ったよね~」

「合宿の話か? あれは、いい思い出だな」

「そうそう~。夏の大三角形がキレイだった」

「デネブ、アルタイル、ベガってか? 素人好みだな」

「あ、春一くん。といっしょのこと言ってる~」


 水杷はまた、からからと笑う。


 どこから出ているのか分からない声に、ふと愛おしさを覚えた。


――あの時……か。


 そういえば、合宿の最終日の夜に、水杷と二人で望遠鏡を覗いたっけか。


 その時、何か他にも言われたような気がするんだが……。


 今となっては、あまり覚えていない。


「あ、着いたよ~」

「お、高校以来だな」


 青少年科学技術センター前に着き、いざ中へ。


 ひんやりとした館内では、有史以来の人類の科学の歩みが展示されていたりと、今学んでも見応えのあるものばかりだ。


「春一くん。一番早いのがすぐみたいだよ~」

「まじか。急がないとだな」

「ほら、チケット~」

「悪いな。僕が出すよ」

「あはは~。お金まとめて払うのは、副部長の役目なのだよ~」


 なんと、奢られてしまった。


 なんだか悪いので、後で甘いものでもごちそうしようか。


 特設展が始まると、シートが妙なことに気付いた。


「おい、水杷……これ」

「あはは~」


 席に着こうとしたところ、そこで初めてシートが「カップル仕様」であることに気付いた。


「カップルシートって……」

「こうした方が、あったかいでしょ~♡」


 ぎゅっと、腕にしがみつく水杷。


 なんだか、やけに甘えてくるのは何でだろう。


 ともかく、それは脇に置いといて、プラネタリウムを楽しもう。


 館内では、職員さんが冬の大三角形についての豆知識や、同日に南半球で見られる星について解説してくれた。


「キレイだね~」

「あぁ」


 自然の星々に勝るとも劣らない展示を、三十分間堪能する。


『では、最後に。明日、クリスマスをお祝いして、流星群の展示を行います――』


 場内アナウンスが流れると、会場から「わーっ」との声が上がる。 


 CGでできた流星群の投影か――


 迫力ある星の動きに、隣にいた水杷が何かを呟いた。


「――ませんように」

「なんか言ったか?」

「ううん、なんでも~」


 水杷と目が合う。


 すると、彼女は唇をキュッと閉め、目をそっとそらした。


 こいつって、案外いじらしいとこあるよな。


『なにお願いする?』

『すご~い!』

『流星群、みてみたいなぁ~』


 流れゆく星たちに願いを込める参加者ら。


 ふむ……。


 とはいえ、クリスマスと流星群に何の関係があるんだろう。


「素人好みだな」

「また言ってる~。今は楽しみなよ~。ほら」


 水杷はそう言うと、指を絡めた。


 恋人つなぎ。


 彼女の体温が少しだけ高かったのは、多分、僕の体温が相対的に低かったからだろう――

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