第10話 3度目のクリスマス・イヴ②

 強烈な既視感は、ジャコモモールへ着いてからも続いた。


「なんか……足りない気がするんだよな」


 ミズナ銀行で5万円を卸そうとしたところ、ふと「少ない」ように感じた。


 服と靴を買うだけに、そんな遣うか?


 いや、でもな……。になりそうな気がするんだよな。


 自分自身、何故そう思ったのか分からない。


 理由は不明だが、その場の気分ってのはある。だから、余計目に8万円を卸すことで妥協した。


「こんだけありゃ、十分だろ」

「何が十分なの~?」

「え?」


 2階へと向かう道すがら、僕は懐かしい顔と再会した。


だね~。春一く~ん。卒業以来かな~?」

「なんだ、水杷か……。驚かすなよ」

「なんだとは失敬だな~。それに、久しぶりに会う同窓生だよ~? もっと感動しなよ~」

「いや、まぁ……。


 確かに、水杷と会うのは久しぶりだった。


 彼女が言うとおり、再会したのは高校以来だ。


 だが、何故かは分からないが、彼女と会うのにも既視感があった。


――おかしい。


 口元に手を当て思考していると、水杷が僕の顔を覗き込んだ。


「お~い、春一く~ん?」

「あ、わりぃ。考え事してた」

「だと思ったよ~。高校の時から、その癖なおってないんだね~」

「あれ、そうだっけか?」


 当時から、水杷は周りをよく見る子だった。


 天文部として一緒に活動していた時も、先輩後輩問わず気配りをしていたのを思い出す。


「そうだよ~。しっかりしてよね~、~」

「なんだよ。やけに懐かしい呼び方だな」


 水杷の雰囲気に当てられたおかげか、気分が少し晴れた。


「てか、こんなとこで会うなんて奇遇だな。水杷は、確か……中央学芸大だろ? 県外にいるとばっかり思ってたよ」

「よく覚えてるね~。流石、医学部に現役合格しただけはあるね~」

「私立だよ。たいしたことないさ」

「嫌味に聞こえるからやめなよ~。私なんてせいぜい、国立だけが取り柄の理系女子ですよ~」


 水杷は、ほわほわしたしゃべり方で謙遜した。


 ところどころニヒルというか、卑屈というか……。良く言えば、決して驕らないのが水杷の長所だ。


「ま、元気そうでよかったよ。今日は、何か買いにきたのか?」

「ん~。まぁ、春服とか見に来たんだよね~」

「あ、なるほどな」


 春服は、前シーズンから出るもんな。


 どこで覚えた知識かは思い出せないが、なんとなく覚えていた。


「お~。ついに、春一部長もファッションに目覚めたのか~。女でも出来たのかな~?」


 このこの。と、肘で僕をつつく水杷。


 しかし、彼女はまだいないので、そこは訂正することにした。


「彼女なんていないよ。でも、明日人と約束してるんだ。だから、服を買いにきたんだよ」

「なるほどね~。じゃあ、私が見繕ってあげようか~? 春一部長の壊滅的センスは、私が一番よく知ってるからね~」

「やけに上からじゃないか。そういう水杷は、彼氏の一人や二人できたんだろうな?」


 揶揄われたお返しに、水杷に仕返しをする。


 すると、彼女はからから笑いながら、僕に体当たりをした。


「うるさいな~。独り身だよ~。でも~、久しぶりに会ったのも何かの縁だよね~。今日は一日付き合えよな~」

「なんだよ急に……」


 水杷って、そんなこと言う奴だったか?


 訝しんでいると、彼女はまたからからと笑った。


「部長のサポートをするのが、副部長の役目だろ~。それに、! なんだろ~?」


 懐かしい言葉に、思わず「ふっ」と息を漏らす。


 そういや天文部じゃ、その言葉が合言葉だったっけ。


「それもそうだな。久しぶりに、高校時代を懐かしみながら、二人でジャコモ回るのも悪かないか」

「お~!」


 水杷はまた、からからと笑う。


 そうして、僕と水杷は腕を組みながら、ジャコモ内を二人で回ることになった――

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