5-3 湖の主 3
彼が投げた包丁が相手につけた傷は大きく開くことはなく、人間でいえば、皮膚の部分が着れただけに過ぎない。ただ、相手が回転する包丁に全く気が付かなかったことが気になった。相手の見た目にはどこに目が付いているのかもわからなかったが、そもそも目が付いていない生物だっているだろう。そして、目の前の敵がそうであるなら、回転する包丁に気が付かないのも頷ける。おまけに、包丁に全く気が付かないということは、おそらく、耳もよくないのだろう。明途は自分の位置だけは正確にわかっていることを踏まえて考える。
そして、彼はおそらく、温度には反応していることに気が付いた。それも、おそらく生物の熱を感知するのだろう。しかし、自分の熱には敏感に反応しているということは、自分への攻撃をだまして他の場所に打たせるということはできないだろう。ならば、相手が感じ取れない包丁を投げるというような攻撃が効果的になるだろう。幸いにも、彼は金属で武器を作ることができる。簡単な構造の物だけではあるが、それでも、化け物には効果があるものを作成できるだろう。
彼は手の中で、ナイフを作り出した。それも一本だけでなく、十本ほどだ。彼がナイフを生成している間にも、敵は突進の準備をしている。この化け物の攻撃はそこまで多くないのだろう。体の構造からみても、できることが多いようには見えない。真だ見ていない行動があるのだとすれば、水の魔気を使った魔法だろうか。しかし、それは見た目からは判断がつきにくい。さらに水の魔法だけというわけでない可能性もあるのだ。つまりは、魔法に関しては見た目からだけでは判断が付かないわけである。
相手の体が湖から飛び出してきて、彼に突進する何度も突進を受けていれば、相手の素早い動きにも目が慣れる。目が慣れることを許さないほどの速度ではないのだ。彼は既に手元にあった十本のナイフの内、一本をその場に残した。刃を突進してくる相手の方に向けて空中に放置する。他のナイフは地面にばらまくようにして散らばった。本来、ナイフを空中に置いていれば、地面に落ちるだけだが、相手の速度は速いとなれば、話は変わる。地面にナイフが落ちる前に、相手がその場所に突撃してきた。彼は既にその場にはおらず、回避済みだ。内部が相手の顔の辺りを切りつけたが、相手の勢いに負けて、ナイフは森の中へと弾かれた。相手が突進で地面に激突したところで相手の動きが止まる。彼が化け物の顔を見れば、その顔には明らかに切り傷が付いているのが見えた。しかし、そこから何か液体が出てきているというわけではなく、その傷すらも相手にはダメージにはなっていないようだった。
「痛みを感じない、ということなのか?」
痛みを感じなければ、どれだけ攻撃されても怯む必要がなくなる。その代わりに、自分が死に近づいていることに気が付くことはできなくなるだろうし、そのまま死んでしまうことになるだろう。それでも、死への恐怖が痛みで出てこないとなれば、それは中々勢いをそぐことができないことを意味している。だが、そのままダメージを与え続けていれば、いずれ、相手の方がいつの間にか蓄積していたダメージで倒れることになるだろう。このまま、突撃に合わせてナイフで傷つけ続えければ、いずれ倒すことができるだろう。しかし、その前に自分の体力が尽きる可能性も大いにある。そう考えると、体力が先に着きそうなのは自分だろうか。もっと、手数があれば、より効率的にダメージを与えられるかもしれない。彼は手の中に再びナイフを生成する。今度は三本ほどだ。
彼がナイフを生成している間に、化け物は彼に地面をくねくねと動きながら彼に近づいていく。地面を這いながら彼に突進を仕掛ける。その口は大きく開けられていて、彼を口の中に居れようとしていた。彼は生成したナイフを持ったまま、大きく横に飛ぶ。口を開けているせいか、その速度は先ほどよりも遅い。彼の横を通り抜けて、相手は湖の方へ。何度も何度も同じ行動ばかりで、いい加減、彼も飽きてきていた。
「風よ。ウィンドブロウ!」
彼の周りから風の魔気が流れて、強風が起こる。強風とは行っても、人間を吹き飛ばすだけの力はなく、正面から受ければ、顔を覆う程度の強風だ。その風が彼の背中を押すように吹いているだけなのだが、彼はその強風の中でナイフを適当に投げた。ナイフは強風に乗り、加速していく。そのまま、湖の方に戻った化け物へと向かっていった。化け物が彼の方に振り向いた時には、彼の放ったナイフは、初速よりもかなり速くなっていた。
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