4-5 川沿いの森の中で 5

 彼は大量に水に浮いている鱗を見て、全てではないにしてもかなりの量の魚を倒していると考えていた。まだ残っているかもしれない魚を警戒しながら、湖に近づいていく。鱗が水面に揺れて、浜の方に近づいてきていた。湖に近づいていくと、鱗の数が異常な量になっていることはわかった。水の上から見ただけでは、その下にどれだけの魚が潜んでいたのかはわからない。そして、自分の放った魔法がどれくらい水の下に撃ち込まれたのかはわからない。ある程度、湖に近づいても魚影は見えなかった。鱗はあるが、水の中の影まで見えないというほどではないため、少しでも水の中で何かが動けば、すぐにわかるだろう。


 彼が湖に触れることができるくらいまで近づいていも、魚が水から出て襲い掛かってくることはなかった。彼は魚を倒せば、次の場所行くための扉か何かが出てくると考えていたのだが、そういうものは現れない。魚を倒す以外の方法で何かを達成しなければいけないのだろうか。しかし、湖と森しかないこの場所のどこを調べればいいのかなんてわかるわけもない。ヒントもないのだ。当然、悩むことになる。


 彼が水の近くで、悩んでいると、彼は水が波打っているのが視界に入った。明らかに、湖に何か起きているというわけだ。湖に浮かぶ波が大きくなり、湖の中心の方を見れば、そこには何かがいた。影だけが見えるわけだが、先ほど前の魚とはわけが違う。大きさが全く違い、先ほどの魚の魚影が小さすぎるものだと思えるほどだ。その大きさを見て、彼は湖から離れる。森の中には入らないが、水の近くにいれば、波に足を取られそうだったのだ。そして、彼は湖の方をずっと見ていると、湖の中央の辺りがぼっこりと大きく盛り上がる。そこにいる生物が水を持ち上げているのだろう。大きな水の流れ落ちる音を共に、その姿、彼の前に出てきた。長い体に、鱗のないつるつるとした体表面。口は大きく開いていて、そこには鋭い牙が付いている。その大きな口元には髭が伸びていて、その生物の胴体と同じくらいの長さを持っているようだった。その体表は紺色で、水に濡れた体が光を反射していた。


 その化け物は明らかに彼を捕捉していた。目がどこにあるかはわからないが、口のついている体の先端が彼の方に向いているのだ。彼も相手に自分を認識されていることは理解していた。しかし、最初に戦ったあの人間のような四足歩行の化け物と比べれば、大したものではない。彼と化け物はどちらも動かなかった。彼は相手の出方を伺っていたし、化け物は何かを警戒しているようだった。彼は全く考えていないが、そもそも目の前で大量の生物を殺した相手を警戒しないはずがない。先ほどの魔法が自分に撃ち込まれれば、死にはしなくともかなりのダメージを受けることは誰だって気が付くだろう。相手はそれ以外にも強力な魔法を彼が持っているかもしれないと本能で感づいて動けないのだ。しかし、それは彼も同じこと、自分の数倍の大きさの化け物を相手に、何の考えもなく突っ込むのはただの阿呆だ。相手の動きを観察して、どう動くのかを理解して、その動きの隙に攻撃を挟み込む。相手の巨体で、体当たりでもされれば、確実に大怪我を負うだろう。そうなってしまえば、戦えずに殺される。その未来だけは回避したいと常々考えているのだ。そうなれば、簡単に動くことができるわけがないだろう。


 二人の見合いの中で先に我慢ができなくなったのは、相手の方だった。長い体を水の中に引っ込めて、彼のいる浅瀬に近づいていく。彼はさらに湖から離れて、様子を見ようとした。しかし、相手は水面から勢いよく顔を出した。その勢いはすぐには止まらず、彼に一直線に向かってくる。先ほどの魚よりは遅いが、その巨体からは想像できないくらいには速かった。彼は思考が遅れながらも、回避を選択する。体を相手の動きと垂直方向に動かして、何とか相手の体当たりを回避した。それでも、相手の体が自分の近くを通ったため、その風圧が自身の体に降りかかる。ダメージも負担もないが、その巨体で攻撃されれば、無事では済まないだろう。土の壁も簡単に壊されるだろう。だが、彼は魚と戦っていたせいで、水面から飛び出てきた生物は水の中に戻るのだろうと想像していた。しかし、長い化け物は水の中には戻らなかった。体を地面に這わせて、うねりながら、彼に近づいていく。地面に体を着いたせいで、勢いを失ってはいるが、近くにいるせいで、相手の動きがかなり素早く見える。地面で反転して、明途に突撃をかます。相手の攻撃を回避したせいで、彼は湖を背にしていたのだ。

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