　大きな爪を持つ相手が、彼に攻撃を仕掛けた。彼は飛びかってくる相手の下にもぐり、作り出した刃部分の長い包丁で切りつける。致命傷には至らなかったが、それでもダメージをあ耐えることには成功していた。それを何度か繰り返せば、相手を倒せるかもしれないと希望を見出す。さらに、その包丁だけでなく、鉄を使った他の武器を出すことができるのだから、この時点で負ける未来は遠くなったと感じていた。だが、そういう油断が自身の敗北を呼ぶことは、空飛ぶ豚で学習していた。それをすぐに忘れるほどの鳥頭ではない。

　相手は彼に斬られた腹をなんとも思っていないかのように、彼に再び飛びかかる。彼は先ほどと同じように前に出て、相手の下にもぐる。しかし、先ほどとは同じようにはいなかなかった。相手の爪が体の下をくぐろうとしている彼の体めがけて爪を突き刺す。相手の爪は固いはずの洞窟の地面を掘り起こしたものだ。もし、それが体にあたれば、上下が真っ二つに分かれることだろう。彼の脳裏には自身のその姿があったが、その姿に恐怖すれば、脳裏にある姿が現実の物になってしまうことはわかっていた。彼は相手への攻撃をやめて、素早く相手の下をくぐる。相手の爪が下りるよりも先に、何とか相手の体の下をすり抜けて相手の背後に移動する。相手の着地と同時に彼は包丁を化け物の背中に突き刺した。しかし、奥までは入らず、またも致命傷にはならない。包丁を抜こうにも相手の筋肉なのか、包丁は引き抜けない。彼はすぐに手を離して、相手との距離を取る。彼が離れた瞬間に、相手が振り向きざまに、その大きな爪を振るう。彼の服に引っかかりそうな勢いだが、服も何とか爪がかからずに済んだ。

「ふぅ」

　一つ、呼吸を吐いて、体に入っていた力を軽く抜く。今のぎりぎりの回避のせいで、体に変にこわばっていることを自覚して、息を吐いたのだ。彼は超能力で武器を創造する。今度は全てが鉄でできた槍を創造した。しかし、全てが鉄ということは、木製とは比べ物にならないほど重いに決まっている。彼は槍の重みに驚いて、地面に取り落とした。

「全部、鉄じゃだめだ。振り切れない……」

　彼が槍を作った時点で相手は、彼に突っ込んできていた。彼は槍を落として、相手の突撃とは垂直方向に逃げる。少し屈んで回避する。彼の頭の上を相手の大きな爪が通り過ぎた。自身の頭の上に風を感じながら、彼は相手の攻撃を回避していた。相手の体に傷つけていこう、相手は地面に潜らなくなっていた。おそらく、地面に潜れば、傷が開くことがわかっているのだろう。地面に潜らなくなっただけでも、かなり戦いやすくなっていることは間違いない。土の潜らなければ、姿を見失うこともない。そして、姿が見えていれば、刃を通すこともできるだろう。彼は結局、再び先ほど同じように長い刃の包丁を創り出した。相手はその包丁に警戒してすることもなく、彼に攻撃を開始する。今度は、飛びかかるわけではなく、小さな歩幅で近づいて、大きな爪を振り回していた。彼は、何とか爪を回避していた。しかし、正面からは攻撃するのは難しい。相手の爪が大きいせいで、前面から近づけば、その爪の餌食になるのは間違いない。わざわざその爪に刻まれようとは思えないのだが、何とかして、相手の後ろに回り込む必要があるだろう。

　洞窟内はかなり狭く、相手の横を取って、後ろに回るには横幅が足りない。横を抜けるくらいの幅があるが、そこを通るということは相手の爪の餌食になるということでもある。先ほどまでは相手の下を潜って、背中側に移動することができた。相手がジャンプしなければ、後ろに回ることができないということだった。彼が思考している間にも、相手は近づいてきていた。逃げ場は後ろだけで、前に進むことはできない。しばらく、後ろに逃げることはできるだろうが、最終的には逃げ場などなくなってしまうだろう。どうにかして、この敵を倒さなければいけない。

　彼は適当に木の盾を作成する。丸い形のもので、彼はそれを相手に投げつけた。ものが飛んできた相手は、爪で盾を破壊した。それを確認する前に、彼は再び盾を作成して投げつける。相手のもう片方の爪がその盾を壊していた。それでも、彼は盾を作っては投げつける。何度も何度も飛んでくる盾が、相手の足を止めた。盾を壊すために爪を動かすと、体が引っ張られるのだ。その力に耐えるためには止まるしかない。何度も爪を振るなら、それなりに爪を振る方向に力がかかり、足を前に進むことができないのだ。彼はその間に、じりじりと相手との距離を縮めていく。