1-5 少年は目を覚ます 5

 空飛ぶ豚は明途の突きを受けて、バランスを崩して地面に落ちた。相手はその短い四本の脚では、すぐに体勢を立て直すことができず、すぐに飛ぶことができない。相手がすぐに動かないのを認識して、彼は攻撃しようとしたのだが、彼が攻撃しようとしたときには相手は動き出してしまった。相手は飛び上がり、彼に攻撃を仕掛ける。今度はタックルしてくるわけではなく、口を開けた。彼は噛みついてくるのかを縦を構えたが、近づいてくる素振りが全くない。そう思った矢先に、相手の口から灰色のドロドロした何かが彼の向けて吐き出された。彼は反射的にそれを回避することができた。床にそれが広がっていたが、匂いなどは全くしない。豚はフゴフゴと鳴いて、彼との距離を詰める。その勢いで、彼にタックルしたのだが、もはや彼にその攻撃が当たることはないだろう。今度は回避ではなく、相手の体を縦で受け止めて、上に弾く。相手の持つ衝撃は上に跳ね上げられて、動きが鈍る。彼は棒を相手の脳天に叩きつけた。


 その瞬間にひと際大きな鳴き声を上げて、豚は地面に叩きつけられる。明途は地面に落ちた豚に棒を再び叩きつける。何度も何度も相手が起き上がろうする前に、攻撃をし続けていた。その度に豚が鳴いていたのだが、ついに豚が鳴かなくなった。彼が棒を叩きつけるのをやめると、豚は動かなくなっていた。彼が敵を倒したことを確認したところでドアがゆっくりと開く。


「倒したか」


 彼は心と腕に疲労を感じながら、ドアを出た。彼がドアを出て、次のドアに向かおうとしたところで、この大広間に来て一番最初に触れて開かなかった大きな扉が開いていた。扉の奥は暗闇で、その先に進むのは多少不安があった。扉を押して、大広間の明かりを扉の中に入れようとしても、先まで見ることはできなかった。


 彼が大広間で開けていないドアは後一つ。彼はこのまま進か、あと一つのドアを開くか迷っていた。最後の一つのドアの中が自分の助けになるものとは限らない。何もないかもしれないし、罠がある可能性も高い。しかし、このままこの暗闇に進むのは不安がある。


「どっちにしろ、ここは通らないといけないからな」


 結局、彼は最後の部屋に入るよりも、大きな扉の先に進むことにした。右手を壁に着けて、ゆっくりと進む。途中に何があるか全く見えないのだが、足を止める方が怖い。辺りを見回しても、先は全く見えない。扉から入ってくる大広間の光も小さくなっていき、それが彼の心に不安を募らせていた。


 彼が恐る恐る進んでいくと、いつの間にか薄暗い部屋に着いた。真っ暗だった通路に比べれば、薄暗くとも光があるだけで、安心感があった。薄暗い部屋の明かりの正体はろうそくで、部屋かと思えば、まだ廊下のようだった。石でできた通路で、木枠が途中にあり、その廊下を支えているように見える。先はまだ見えない。


 彼は警戒しながら、廊下を歩く。その廊下を歩いていると、足の裏に何もなくなっていた。戻ろうとしても、自身の後ろにあったはずの廊下が消失していた。いや、床だけではない。壁もなくなっている。体に感じていた浮遊感は一瞬で、次の瞬間には、草原のど真ん中に立っていた。


「は?」


 その現象を理解できるはずもなく、真上から照らす光に目を細めてしまう。


「迷宮城から脱出した、わけじゃないよな」


 城の中と思えないほどの草原だ。広く広く、地平線まで見えている。彼は未だに、目の前で起きたことを理解できず、その場に立ち尽くすしかない。辺りを見ても、状況は一切変わらないのだ。周りには生物もおらず、何もできない。ようやく、その現象を受け入れ始めて、彼は歩くことにした。どちらにしろ、動かなければ、この迷宮城を出ることはできないのだ。


 彼が歩き始めて数十分。草原ばかりの世界だったはずなのに、そこには森があった。彼はそこに進むしかなく、その森に入ろうとした。その瞬間、彼に何かが飛びかかる。彼は反射的にそれを盾で受け止めて、吹っ飛ばした。そこには四足歩行の人間といえるような奇妙な何かがいた。人間のような肌で、顔は無理に顔を上げているような角度で突いていて、足が極端に短く、そのせいで、四足歩行になっているのだろうか。


「カラカタカラカタ、ぎゅぎゃかかか」


 それはおかしな音を立てながら、体を揺らしている。まるで笑っているようにも見えるが、それから出ている音を考えれば、かなり嫌悪感を感じていた。見た目の一部が人間のように見えるというだけで、おそらくそれは人間とは関係のない生物なのかもしれない。しかし、理屈でそう思っても、目の前のそれに嫌悪感を感じずにはいられない。彼が気持ち悪さから、攻撃もできないでいると、敵が再び彼に飛びかかった。

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