第2話

「ねえ、お姉さん!」


「ん? どうしたのラムちゃん」


 先に宿屋に着いたお姉ちゃんが、さっそく受付の人に声をかける。

 宿屋に来た趣旨を伝えようとする前に、受付のお姉さんが口を開いた。


「二人して魔法使いのお兄さんに会いにきたんでしょ? ここの宿屋に泊まるってこと、まだそんなに知られてないはずなのにね。なんでわかったの?」


 まるで私たちの心を見透かしたような言葉に、目を丸くする。

 そんな私たちの顔を見てお姉さんは、いたずらっ子がいたずらに成功した時のような、無邪気な笑みを浮かべた。


「ハルネおばさんが教えてくれたの!」


「やっぱりハルネさんか。ハルネさんは耳がいいもんね」


「それで魔法使いさんに会わせてくれる? 会わせてくれるよね!」


 カウンターに身を乗り出し、目をキラキラと輝かせるお姉ちゃん。なんだか、お姉ちゃんの周りだけ、眩しくて明るい太陽のようなオーラがある気がする。


 お姉ちゃんほど気持ちを表に出さないものの、私だって少しは会ってみたいと思っている。

 お姉さんにねだるような視線を向け、首を傾ける。上目遣い、というやつだ。


 そんな私たちの視線に負けたのか、お姉さんはやれやれと、仕方がなさそうに微笑んだ。


「ふふ、ほかの人だったら断ってたかもだけど、ラムちゃんとリムちゃんがせっかく来てくれたんだしね。いいよ」


 その言葉にお姉ちゃんと私の顔が、ぱあっと明るくなる。


「やったあ! ありがとう、お姉ちゃん」


 二人で手を取り合って喜んだ。


「問いかけてみるだけだからね。魔法使いさんがだめって言ったら帰るのよ?」


「うん、でもほんとありがとう!」


「じゃ、そこのいすに座って待ってて」


「はーい!」


 びゅーんとお姉ちゃんは椅子に向かっていく。


「お姉さん、ありがとうございます」


 きちんと感謝が伝わるように、丁寧に頭を下げた。


「いいのよリムちゃん、座って待っててね」


 お姉さんは優しく微笑んでくれた。



 うながされた通り、いすに座って魔法使いの人を待っていた。


「ねえ、リム。魔法使いの人に会えるかな?」


「どうだろうね、魔法使いさんはきっと忙しいから。でも会えたらいいね」


 あれが楽しみだ、これを聞いてみたい、どんな話が聞けるだろうか。


 もう魔法使いさんに会える前提で話を進めていると、


「ラムちゃん、リムちゃん」


 電話を終えたお姉さんが声をかけてきた。


 魔法使いさんは会ってもいいと言ってくれたかな。

 期待が緊張と比例して、大きくなっていく。


 私は唾をごくりと呑んだ。


「会ってもいいって。今からこっちに来るみたいだから、別のお部屋に移ってくれる?」


 会ってもいい。

 その言葉に叫びたくなるほど嬉しくなった。


 だけど騒いでもいられない。

 ふう、と深呼吸をして自分を落ち着かせる。


「こっちよ、着いてきて」


 お姉さんに案内された場所は、客間や応接室という言葉がぴったりのおしゃれなお部屋。三つのティーカップがいすの前に、クッキーや小さなタルトが真ん中に置いてあった。


「じゃ、楽しんでねー」


 ニコリと楽しそうに笑ったお姉さんは、ひらりといなくなってしまった。

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