幸せと幸せの花

蒼下日和

第一章 冒険の始まり

第1話

「リム、早く早く!」


「わかったからちょっと待っててよ」


 私たちは双子の姉妹だ。

 元気でおてんば、いつも笑顔なお姉ちゃんのラム。そんなお姉ちゃんとは正反対の冷静で表情を顔に出さない妹の私、リム。


 自分でいうのもあれだけれど、私たちは仲がいいと思う。喧嘩なんて片手で数えられるほどしかしたことがないし、ご飯も遊びもお風呂も寝るのも全部一緒。しまいには村一番の仲良し姉妹だって言われるくらい。


「リームー! 早くしないと魔法使いさんが見れなくなっちゃう!」


「わかってるってば、急かさないでよ」


 魔法。

 それは、全人口の二割程度が使えるもの。生まれながらのもので魔法使いや魔導士の強さは、才能がすべてといっても過言じゃない。

 奇妙なことに、魔法を生まれ持つ者は貴族や神職者などの上流階級の者が多い。

 だから、私たちのような平民にとって魔法使いや魔導士は、あこがれの存在なんだ。


 そんな魔法使いがこの村に来たという。もう村は大騒ぎ。魔法使いを迎える準備をする人、一目見ようと外に出てあたりを見回している人、そんな人たちに怯える人。


 てんやわんやとはまさにこのことだろう。


「お姉ちゃん、人が多すぎて全然見えないよ」


「いやぁ、さすがは魔法使い。おそるべし人気力だね!」


 大通りは人であふれかえっている。

 見渡せば、人人人。それも背の高い大人が多いので、まったく魔法使いの人が見えない。



「おや、ラムとリムじゃないか。あんたたちも魔法使いを見に来たのかい?」


「あ、ハルネおばさん」


 そんな私たちに声をかけてきたのは、ハルネおばさんという陽気なおばさん。

 私たちがよくおつかいに行くお店の店主さんだ。


「そう! そうなんだけどね、人が多すぎて見えないの。」


「まあそうだろうね。私もまったく見えやしないさ。このあと魔法使いは、村長の家の近くにある宿屋に泊まるらしいよ。そこに行ったら会えるんじゃないかい?」


「そうなの?」


 その言葉に体がふわりとし、わくわくした感情があふれてくる。


「ああ。そう言ってたさ」


「ありがとう、ハルネおばさん。リム、行こう?」


「うん」


「二人とも、気を付けるんだよ。」


「わかってる。ありがとう、ハルネおばさん!」


 教えてくれたハルネおばさんに感謝し、お姉ちゃんと手をつないで宿屋まで向かった。

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