「 罪の意識 」— episode 11 —
葬儀は滞りなく終わった。
空は晴れ渡り、山から心地いい風がおりてくる。
多くの村人が参列していた。
棺の中に順に花を捧げていく。みな、最期の別れを惜しんでいた。
老婆に手を引かれたマハルが、花を持って棺に歩み寄る。ウダが抱き上げると、マハルは母親の顔の方を指さした。近づくと顔の横に、そっと花を添えた。
火葬が終わっても誰一人、涙を見せなかった。幼い少女が必死に涙を堪えているのだ。大人が涙を見せるわけにはいかない。
澄み渡る青空。登ってゆく灰色の煙が、風に吹かれてゆく。誰もがその行方を見送るように、皆じっと見つめていた。少し離れたところで、ナカシロは誰かと何やら話し込んでいる。おそらくチャンの亡骸の、その後の処置についてだろう。空を見つめる老婆とマハル。その少し後ろから、ウダはそっと見守っていた。
• •
——「ミサは……彼女はウダの姉だ」
ナカシロは暖炉に薪を投げ入れながらつづけた。
「下の食卓にある花は、あれは彼女が生けたものだ」
呼吸が止まっていた 。息ができない。
「チャンも幼くして紛争で両親を亡くし、この村に来た。それ以来、ウダは実の弟のように可愛がっとった。チャンもウダを兄のように慕っておった。今年ようやく、自警団に入隊した矢先だった」
「あいつは…」
声が震えていた。手も。足も 。
「あいつは……そんなこと、ひと言も…」
「おぬしに罪の意識を背負わせたくなかったのであろう。あれはそういう男だ」
——なんてことだ。
「わたしはな…」
ナカシロがパイプを置きながら言った。
「綺麗事を言うつもりはない。おぬし一人だけを責めるつもりもない。ウダがどうおもっておるのかはしらん。ただ少しでも罪の意識を感じてくれるなら今しばらく、あれの力になってやってはくれんか?」
「どういうことだ?」
顔をあげてナカシロを見た。複雑な表情だった。
—— なにかある……。
「この村は今、危機的状況にある」
「くわしく、きかせてくれ」
ナカシロはこの村の現在置かれている状況。それに関連した、この辺一帯の情勢を話しはじめた。大体のところは理解できた。だが事はそう単純ではない。細かい情報が必要だった。
「おれに自警団に加入しろと。そういうことか?」
「事がここまで切迫してきた以上、もはや自警団では無理だ。今後は戦闘部隊として訓練し、動かなければならん」
なにも言えなかった。
「無理にとは言わん。ひとつ間違えれば、命はない状況になってくる。銃を、扱ったことはあるのか?」
「むかし……自衛隊にいたときに、少しだけだ」
「ほう、陸上か?」
「そうだ。だがおれは戦闘向きじゃない。どちらかといえば、斥候のほうだ」
ナカシロの目がより一層、厳しいものへと変わった。
「それならば尚更、おぬしの力が必要だ。だがさっきも言ったように、無理にとは言わん。しばらく考えてみてはくれんか?」
「ああ。ただ、ひとつだけわからんことがある。反政府軍に加担してるその武装勢力。樹海を越える危険を犯してまで、なんだってこの土地が必要なんだ?」
内戦が続いている国。樹海を越えた山の、その更にむこう側だ。
「ウダは何も言っとらんかったか?奴等の目的は、土地そのものではない」
——— まさか……。
「コカの葉……か?」
ナカシロは黙ったまま、ゆっくりと頷いた。
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