●27・小者編決着

●27・小者編決着


 やがて、学園勢は警備軍と合流し、ただ静かに先導の兵士たちの後ろをついてゆく。

「ここから班ごとに分かれていただきたい」

 言われて、学園勢はあらかじめ定められていた班ごとに分かれ、それぞれの持ち場へと行く。

 どうも上の人々は班分けの段階から連携の密度を考慮していたようで、アルトの班は、アルトと警備兵のほかに、ヘクター、ロナ、フレデリカといういつもの一団となった。

「なんかボク緊張するよ」

「うふふ、ロナ殿は胸に余分な脂を持っていますから、その肩こりを緊張と勘違いしているのではなくって?」

 そういえばロナは胸の大きなほうだった。あまりにポンコツぶりを発揮していたので、言われるまでアルトは思い出せなかった。

 しかしポンコツのロナは、しっかり反論する。

「えっ、フレデリカは負い目を持っているのかあ、ボクの大きなおっぱいに」

「何をおっしゃいます、アルト様はたかが脂の塊に興奮するような俗物ではなくってよ。そうでございましょう、硬派なアルト様」

「二人とも、静かに。たぶんもう敵の拠点は近いよ。警備兵さんたちも徐々に緊張が高まっているしさ」

「もう!」

 やむをえずといった調子で二人は黙った。

 警備兵とアルト、ヘクターはそれぞれの索敵用の道具を取り出す。

 アルトとヘクターにとっては、大森林で大助かりだったお馴染みの懐中時計型の索敵器、三六〇度の気配を波として表示する例の魔道具である。

 索敵器は、周囲の気配を表す。

「あっちか……!」

 警備兵の班の後を、アルトら学園勢はついてゆく。


 やがて、警備兵の班員が、ある建物、その裏口を監視できる場所で立ち止まる。

「貴殿らはここで待機していただきたい。気配はなるべく消すように」

「承知しました」

「じきに表の班が突入する。剛剣同盟は、主にこの道から逃げると思われる。我々が戦闘の主力となるので、貴殿らは援護をしていただきたい」

 班長らしき男性が説明をする。

「飛び道具でですか、それとも白兵戦もしますか?」

「相手次第の面もあるが、主に射撃や飛び道具でお願いする。ケガに気をつけるように」

 どうやらこの班長も分かっているようで、学園勢にケガをさせないことに気を配っているようだ。

 とはいえ、アルト個人としてはガシガシと本格的に戦いたいのも事実。勇者の剣の念動力も、実戦においてその有効性を確かめたいところだ。

「承知しました。ただ……」

「ただ?」

「おそらく、逃走に必死な敵は乱戦をいとわないはずです。そうなれば白兵戦の態勢に、こちらも入らざるをえません。……というより十中八九そうなるでしょう。そのときはガッチリ近接戦闘をさせていただきます」

「……了解した。そうならないように我々も奮戦する」

「承知しました。学園勢もただの甘ったれ集団ではないことを、その必要があれば、ではありますが証明してみせます」

 戦意あふれるやり取り。班長は熱意が通じたのか、ただ、短くうなずいた。


 やがて、動きがあった。

 監視している裏口から、少しずつガラの悪そうな男女が入っていったのだ。

 警備兵たちの話を漏れ聞くに、表口も同様であるらしい。

 突入が近いか?

 アルトが目線で警備兵と会話すると、警備兵も沈黙のうちに「まだ焦るな」と伝える。

 おそらくだが、決定的な何かを押さえてから突入し掃討するつもりであろう。

 というより、掃討するのは表口の包囲戦力のみで、裏口のアルトたちは、逃げてくる犯罪者たちを倒す役だろう。

 急襲に対して逃走する敵は、意外と馬鹿にならないものである。指揮統率系統こそ滅茶苦茶であろうが、必死に退路を切り拓くべく、猛然と突っ込んでくるに違いない。

 実戦経験が、同級生に比しては豊富であり、主に長期実習などで成果も出しているアルトの班がここに配置されたのは、決していい加減な采配ではないことがうかがえる。

 警備軍の中にも、軍学、というか戦術をわきまえた者がいるようだ。

 アルトが若干上から目線で考えていると。


「突撃! 投降せよ、さもなくば掃討する!」


 喚声と恐怖の声がこだまする。

 表口で始まったようだ。

「総員、逃走する敵に備えよ、討ち漏らすなよ!」

 言うと同時に、裏口から出てきた敵を立て続けに、二、三名、弩の魔道具で撃ち倒す。

 アルトも飛び出てくる敵を閃光の指輪で撃ち抜きつつ、勇者の剣の念動力を起動し、飛び道具の射出を試みる。

 予想以上に軽快に、かつ敵に突き刺さるかのように、路傍の石が弾丸となって敵を打つ!

「ぎゃあぁ!」

「がっ……!」

 しかし、倒れていく犯罪者たちをものともせず、一人の筋骨隆々の男性が前へ躍り出る。

「念動力……貴様があのアルトか、世間の広さを教えてやる、勝負だ!」

「上等だ、いくぞ!」

 念動力を用いたもう一つの戦術、小型の武器を展開して多刀流を形成する。

 いくつもの、念動力なしには不可能な同時攻撃が偉丈夫を襲う!

「これしき……これしき!」

 男は必死に弾き、受け流し、なんとかいなすが、さすがに勇者の剣、アルト相手には徐々に追い詰められていく。

「クソが!」

 そして、隙を突いて一筋の投げ針が男を貫く。

「かは……! いやいや、なんの!」

 だが、一度ほころびた防御は、加速度的に崩れていく。

 投擲剣、短剣、飛爪、そしてついでに閃光の指輪が、男を滅多打ちにする。

「くう……」

「そこまででいい。伍長、確保しろ」

 指示を飛ばす警備軍将校。

「確保ぉ!」

 あっという間に男は縄に巻かれる。男のほうも息も絶え絶えの様子。

「次の相手は誰だ、この僕が相手だ!」

 アルトは言いつつ、閃光の指輪を四方八方に撃つ。


 結局、大捕物は、アルトだけでなく全員の活躍によって、成功に終わった。

 剛剣同盟の幹部や重要な構成員は、ほぼ全員が捕縛され、司法留置部隊に身柄を引き渡された。

 レオンの一族の黒い動きも、今回の捜索及び証拠等の採取で嫌疑が固まり、司法留置部隊により、近々王都へ送致されるとのこと。

 レオン自身も、一族や当主である父の裁判が終わるまでは、司法院へ留置される……らしい。もはや学園だけの問題ではないので、ここからは名実ともに、事件が学園から切り離される。

 一方、アルト自身は、勇者の剣が充分以上に戦いに使えることを確認し、また魔道具の使用技術も以前より向上していることに満足だった。

 なお、警備軍からはわずかな謝礼が出た。

「よかったねフレデリカ嬢、お金だよ」

「わたくし、お金に動じる淑女ではありませんの」

「僕の分も分けるって言ったら?」

「ぜひ、ぜひいただきますわ!」

 現金な淑女だった。

「ほら出た」

「いえいえ、違いますわ、アルト様からいただくことに意味がありますの」

「えぇ……僕、フレデリカ嬢に何か貸しとかあったっけ?」

「アルト、お前……いや、もう言うまい。フレデリカ嬢、前途多難だな」

「前途は洋々ですわ、アルト様と二人でなら!」

「あぁ、もう駄目だ」

「アルトが欲しいのはお金よりボクの、き、胸部だよね!」

「あぁ、もうみんなおかしい」

 ヘクターの気苦労は絶えないようだった。


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