第4話魔法とお料理
昼食を終え、部屋に戻り食器を洗い終えると再び部屋を出てギルドへと帰還する。
受付に向かい、採取した薬草と依頼書を渡すと、鑑定され、報酬が渡された。
「はい、報酬の銅貨15枚」
「ありがとうございます」
報酬は税の引かれた金額で差程多くない。
だが、仕方ないと裏庭に戻る。
小屋に入り、個々の部屋に入る。
ユキside
今は昼過ぎだが、夜ご飯の支度をするには早いが、休むには半端な時間だった。
どうしようかと悩んでいると、
「魔法の練習がてらユキの好きなパン作りをしたらどうじゃ?」
「魔法の練習がてらですか?」
「うむ、パン作りは発酵が命じゃろ?その発酵を魔法で行うのじゃ、魔力を安定して長時間使うのに慣れれば魔法の使用も容易くなる。その上魔法で発酵させられればどんな場所でもパン作りが出来る。これからダンジョンに潜ったり狩りをしたりする間に役立つじゃろう。」
「確かに出来たてパンが色々な所で食べれるのは魅力的ですね、でも長時間、魔法を行使する事ってあるんですか?」
「あるぞ、攻撃中にバフとなる魔法をただ一回かけるのとかけ続けるのは効果が変わってくる。一回掛けただけでは徐々に効果は減退し掛けた直後より弱まる。故に何度も掛け直すと返ってコスパも悪ければ使用された側も疲労が無駄に溜まってしまうのじゃ、だが、掛け続けると効果は持続し、体力も温存出来る上にコスパも良い。故に戦闘中の動きが一回に比べて段違いに良くなる」
「つまりリキさんが戦闘中に自分がバフの魔法を掛け続ければリキさんは怪我を負ったりせずにいられると?」
「そうじゃ、相手へのデバフとなる魔法も然りじゃな」
「相手をレベル1まで落とす様なデバフなら弱い状態でタコ殴りも有り得るって事ですか」
「ま、まぁそうじゃの」
「成程、ならばサポートをお願いしても良いですか?最初なのでかなり魔力にむらがあると思うので」
「うむ、任せよ!」
そうして始まったパン作り。
最初はオーソドックスな丸パンから作って行く。
通販の画面からスーパーのページへ行きそこで強力粉、塩、砂糖、バター、はちみつ、牛乳、イースト菌と発酵させる為のボウルを購入。
計りにボウルを乗せ強力粉から加えていき、生地が纏まってきたら同じく購入した作業用の台の上に生地を出す。
生地をひたすらこね続け、最初はブチブチと切れていた生地が弾力を持ち、切れなくなってからはV字に捏ねていく。
掌の下の部分で押し出すように捏ねてから五分ほどで、柔らかくなったバターを加る。
バターを加える事でまた切れやすくなった生地を捏ねて再び纏まり生地がなめらかになった所で生地をチェック。
生地が薄くなっても切れなければグルテン膜が出来上がった証拠だ。
ここで一時発酵に入る。
「えいちゃん、発酵させるには温度が一定でなけばいけないんですが、その場合はどの属性を使うべき何です?」
「発酵させるには温度か、ならば火魔法と言いたいが、生地が乾燥しても良く無いじゃろ?だから水魔法と熱を生地に送る風魔法も必要じゃ、それにそれらの魔法を生地の周りで保つ為の無属性魔法も必要となる。よって四つの属性の魔法を同時に操作せねばならぬ」
「四属性を同時にしかもそれを数十分ですか、出来ますかね、」
「大丈夫じゃ、最初は失敗するのが普通。儂がサポートするからの、気負わずゆるりと挑めば良い。こういったものは気合いを入れても逆効果にしかならぬ。気安くやる方が上手くいくものじゃ」
「そうですね、魔法なんて一昨日までは夢物語でしたし、ゆるりと挑んでみましょう」
初めての多属性の行使。
初めから成功する方が稀とやってみる。
暖かいものが掌に集まる感覚。
生地を宙に浮かせる。
浮かせた生地の周りの空気を火によって少し温度を上げ、水によって少し湿度を上げる。
その空気を風によって生地の中に送り、それらが霧散しないようにボール状に生地の周りに集め纏わせる。
これを大体40分程。
ムラはえいちゃんが無くしてくれる。
だから大丈夫と自分に言い聞かせ肩の力を抜きゆっくりと魔法を使い続けた。
「ユキ、生地が二倍になったぞ、お主は凄いのぉ、儂のサポートがあっても最初からここまで休みなく出来るとは、才能もそうじゃが集中力も高く魔法の操作も良い。素晴らしいのぉ!」
「あれ?もうですか?何だか早い気がしますけど」
「うむ、発酵を初めて十分程しか経っておらぬからの、風魔法で生地の中にもしっかり熱と水分が行き渡った結果発酵が早くなったのだろうな、どれフィンガーチェックとやらをしてみよう」
生地が二倍になり、ふっくらとしている。
その生地の真ん中に打ち粉をし、指を入れると穴は塞がらずしっかりと発酵していた。
それから生地のガス抜きをし、八等分に分け、再び発酵をする。
これが二次発酵となる。
これを終えると焼成。
「ではもう一度先程の予習じゃ」
「はい」
再び四属性の魔法を使用し発酵させる。
今度は1.5倍程まで膨らむ様に。
すると今度は五分ほどで発酵が終わった。
そこでえいちゃんが今度は生地を魔法で焼いてみようと提案してくる。
火魔法で温度は200度程。
これを15分程度。
温度が自分で細かく設定出来れば戦闘でも役に立つからと。
そうしてえいちゃんのサポートの元、パンを焼く。
すると、
「ふむ、パンの中もしっかり火が入っておるしもう良いじゃろう」
と、七分程焼いた所で言われた。
「あれ?もうですか?早いですね」
「おそらく中まで風魔法で熱を送った事が早く焼きあがった理由じゃろう。どれ実食といこうではないか。バターを付けて食べてみたらどうじゃ?」
「そうですね、ではバターを購入して、さて食べてみますか、、これは美味しいです。いつも以上にふわふわで中の生地ももちもちふわふわに焼きあがっています。小麦の香りも良い。最高の出来上がりです!」
「ふむ。お主は魔法の才能があるようじゃのぉ、最初から四属性を同時に繊細に行使出来るとは思わなかったわい。これからが楽しみじゃな」
「そうなんですかね?まぁ出来て困る事は無いのでそちらは思いっきり伸ばしていこうと思います。リキさんのサポートにもなりますし、何より何時も時間の掛かる発酵がこんな簡単に出来るのは楽ですから」
そう言いながらパンを食べ終え、残りのパンを手に部屋を出る。
もう直ぐ三時。
おやつの時間だからと。
リキside
部屋に戻ると余った時間をどう使うか悩んでしまう。
今までは筋トレをして過ごしていたが、これからどうしようかと。
するとえいちゃんから素敵な提案をされた。
「リキや、お主はスキルが筋肉じゃろ?だから筋トレが出来る部屋を用意したぞ」
「まぁ!本当!?嬉しいわぁ!これがあると無いとじゃ天と地の差だもの!!はぁぁ、最高だわ!」
自分のジムの様に多種多様な器具の置かれた部屋。
そこにあるダンベルを持ち筋トレを始める。
一日空いてしまったが、それでもちゃんと筋肉は応えてくれた。
今日はあまり有酸素運動も出来てないとランニングマシンに乗り歩き始める。
一時間程歩き、シャワーを浴びてふと時計を見るともう直ぐ三時。
何か簡単でもおやつを作り食べたいと思った。
キッチンに向かうとふとフードプロセッサーが目に入る。
これならばと通販を開くと薄力粉とバター、砂糖、卵、バニラエッセンスを購入する。
それをフードプロセッサーに入れ数度回した後に生地が纏まるまで回す。
その後生地を冷やす為に冷凍庫に入れようとすると、えいちゃんから魔法で冷やすと良いと言われた。
「ねぇ、えいちゃん、魔法で生地を冷やすってどうしたら良いの?」
「氷魔法と風魔法を使い生地の中まで冷やせば良いのじゃ、儂がサポートするからの気負わずやってみよ」
「分かったわ、でも凍り過ぎても困るからある程度にしたいわ」
「安心せい、そこら辺もサポートするぞ」
えいちゃんのサポートもありながら氷魔法と風魔法を同時に使用する。
掌に感じる魔力。
氷魔法と風魔法で冷たい風を作り出し生地に送り込む。
先程まで常温だった生地が徐々に固まり、冷えていくのを感じる。
「リキ、もう良いぞ」
「あら、案外簡単に出来たわね」
円状に纏めたクッキー生地。
ディアマンクッキーにする為に砂糖をまぶしておいたクッキー生地はしっかり冷やされ切りやすくなっていた。
冷えた生地を切りオーブンを余熱しようとした時、
「リキや、焼成も魔法でしてみてはどうじゃ?練習は必要じゃぞ?」
「あら、確かに魔法でやった方が良いかも知れないわね、でも詰め込み過ぎても良くないじゃない?」
「確かにそうじゃが、使用しなければいざという時困る。出来る方が良いぞ?」
「そうね、どうも馴染みの無い力だと使用するのに億劫になっていけないわねぇ、えいちゃん、後押しありがとう!サポートお願いしても良い?」
「勿論じゃ!さっクッキーが焼けたならコーヒーを持ってユキを誘っておやつタイムでもゆっくりとると良い」
「そうね!ユキちゃんと一緒におやつタイムを堪能しましょう!素敵な提案ありがとう!さぁ!クッキーを焼きましょう!」
掌に再び魔力を集め、今度は高温の風を作り出しクッキー生地に送り込む。
バターの溶けた匂いが辺りに漂い、クッキー生地が焼きあがって行く。
数分後、クッキーがいい色に焼きあがった。
「お主中々良いコントロール力があるのぉ、将来有望じゃな、これならば戦闘においても役に立つじゃろう。さ、コーヒーを入れておやつタイムじゃ!」
「あら、本当!?嬉しいわぁ!そうね、コーヒーを入れましょう!」
二つのマグカップにコーヒーを注ぎ、クッキーを持って部屋を出る。
するとユキちゃんも同じく部屋から出てきていた。
「リキさんも何か作られたんですか?」
「あらユキちゃんも?」
はい、と返事と共に丸パンを差し出すユキ。
同じく私もとクッキーを出すリキ。
おやつタイム!と二人で笑い合いリキの入れたコーヒーを飲みながらパンにバターを塗り、クッキーを食べる。
ふっくらと焼かれたパンはシンプルなもの。
それを少しちぎりバターを乗せて口に運ぶ。
舌の上で溶けたバターと共に小麦の香りがふんわりと香り鼻に抜けていく。
「シンプルイズベストとはこの事ねぇ、はぁ美味しいわぁ」
さっくりと焼き上げられたディアマンクッキー。
口に運ぶ前からバターの香りが鼻を擽る。
パクリと一口に食べれば口の中でサクサクと解け優しい甘さとバターの芳醇な味わいとバニラエッセンスの香りが口の中を満たしていく。
「クッキーも最高です!コーヒーに合う優しい甘さとバターの香りで幸せですぅ」
お互いの作ったものを褒め合い、次はどんなおやつを作ろうかと盛り上がる。
薄暗い掘っ立て小屋の中、幸せな時間が流れていた。
おねぇさんとほのぼの異世界 葱塩バター @negi1129
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