第2話ギルドマスターと掘っ立て小屋

「さて、森平ちゃんどう思う?」


グルーダが完全に近くにいないと確認してから女の子、森平ちゃんに話し掛ける。


「それはスキルですか?それともグルーダさん?」


「どっちもかしらね、とりあえず森平ちゃんのスキルの通販って、」


「想像の通りかと、スマホを確認した所こちらの貨幣が適応されてますね、後通販サイトなら何処でも使える様です」


「それなら日用品なんかはそこで買えるって事?」


「はい。あっ百均使えますよ」


「本当!?やったわ!これで節約出来るわね!」


「後業務系とかホームセンター系も行けます」


「最高じゃない!」


スキルの名前を聞いた時、もしかしてと思って黙ってたけど予想通りだった事でつい、興奮して声を上げてしまった。

すると森平ちゃんが私の部屋にやってくる。


「内田さん、グルーダさんの様子って明らかに私達を厄介者って思ってるの丸出しでしたけど、それ以上にこの国何か可笑しくないですか?」


「やっぱりそう思う?グルーダさんは私達の事押し付けられたって感じだから仕方ないけど、この国は何だか寂れている様な感じだし、どこか余裕が無さそうな雰囲気よねぇ、後王様とかに会えないってのも気になるの、そういうのは普通なの?」


「普通は謁見の間まで行くと思うんですよね、なので召喚の間的な場所で直ぐに鑑定ってのも引っかかるんです、それにあんな早朝に召喚するのもまるで人目を忍んでいるみたいな気がします」


そう、私達の感じた違和感はまるで私達が来るのを秘密にしたい様なもの。

グルーダは面倒を極力小さく収めたいといった感じが丸出しだった。

その様子に明らかに何かの面倒事が見え隠れしている様で余計に気になる。


「この国ってもしかしてかなり面倒な事が起きているんじゃない?」


「やっぱりそう思います?あの老人も同情の籠った目をしてましたし、もしかしてこの国に今王様も女王様も居ないとか?」


「正解じゃ」


「「あぁ、やっぱ、り、、、は?」」


何処からともなく聞こえた声に二人して驚いていると


「ユキ、スマホじゃ、スマホの一番右のページの見知らぬアプリがあるじゃろ?それをタップするのじゃ」


「へ?あっはい、叡智の魔導書アプリ?」


森平ちゃんがアプリをタップするとアプリが起動する。

起動画面には魔法陣の様な模様がクルクルと回っていた。


「初めましてじゃの、わしは叡智の魔導書アプリのえいちゃんじゃ、ユキ、リキ、これからよろしくの、このアプリはリキのスマホにもインストールされておる。別々で使用出来るようにしておるから好きに使ってくれ。このアプリはこの世界のあらゆる情報が検索できるものでな、この世界の神からお主らへの贈り物じゃ。さて、先程ユキの言った通り、この国は今、王も女王も居らぬ。理由じゃがな、王は五年前、とある遠征に行った際、行方が分からなくなってしまった。その後、本来ならば国を継ぐべき第一王子が居ったのじゃが、この第一王子も行方知れず、第一王女も同じくじゃ。そこでお主らが会った第二王女が女王になる筈じゃったが、第二王女は未だ未成年で継承の儀がまだ行われておらず正式に女王となれないまま今に至っておる」


叡智の魔導書の説明を聞きながらお互いに目を合わせていると、この国の現状が何となく把握出来てきた。


「あのえいちゃん?さん?もしかして第二王女を操っている貴族とか居たりして、その影響でこの国が寂れていたりします?」


「えいちゃんで良いぞ。予想通りじゃ。じゃが、第二王女も元々かなりの強欲さがあっての、その為に五年前から増税の繰り返しとなっている。民の不満は溜まり、ギルドも魔獣討伐や薬草採取にも税が掛けられ、ダンジョンの出土品にも課税されておるな」


その話を聞き二人してうわぁ、っと引き攣った顔をしてしまう。


「この国の王は質素倹約を心掛けており民にも慕われておったが、第二王女は贅沢をしたくて仕方なかったのじゃ、そして一部の貴族もな」


「それってもしかして王様の行方不明って仕込まれてたりとか無いですよね?」


「あっそれは偶然じゃ、第一王子も王を探しに行っての行方不明じゃ。第一王女は王達の行方不明に乗じて警備が手薄な所を狙われ誘拐、その後幽閉されておる。隣国の変態貴族によってな」


その情報に二人で天井を見上げる事となった。

終わっている。

この国、終わってる。

そんな国どうしろと?

この国から出ていった方がいいのでは?


「あの、えいちゃん私達これからどうしたら良い?王様も居ない様な国じゃ暮らしにもかなり影響があるし、出来れば安全な国に移動したいけれど、魔法も使えないしスキルもよく分からないのよ。私達におすすめの国とかあるなら教えてくれないかしら」


「この国の王と第一王子と第一王女は自力でこちらに戻って来ておるから時期に国は良くなるじゃろう。今移動し別の国に移住したとしてもどの国も大して変わらんからの。

後魔法は使えるぞ。あの水晶で測れる量では無かったのでな、反応しなかったのじゃ。スキルじゃが本来のスキルはユキが通販、言語理解、鑑定じゃ、通販はさっき見たな?言語理解は全ての生物の言語を理解出来る。そして鑑定は知っておるな。ちなみに鑑定のランクは最高ランクじゃぞ。

リキの方は筋肉、言語理解、鑑定(最高ランク)じゃ、筋肉は鍛えれば鍛える程他のステータスも上がる物。残りの二つはユキと同じじゃ。」


「じゃあ筋トレをすればする程、私は強くなれるのね」


「左様。故にダンベルでもユキの通販で購入し、日々鍛錬を積むことじゃな、後、魔法の習得と討伐と採取を行っておけば勝手にレベルは上がる。魔法の知識と使い方は儂が教えるから心配要らぬぞ。お主らは巻き込まれた側の言わば被害者じゃ、慰謝料と言っては何だがレベルアップ倍加もついておる。直ぐに強くなるじゃろう。今日は疲れたじゃろうから食事をし、ここを綺麗するだけにしておくと良いじゃろう」


えいちゃんに言われ、森平ちゃんと通販で食事を頼む事にした。

夜中に近い時間帯に呼ばれ今までバタバタしていて思ったよりも空腹だった様で、直ぐに食べられるものが良いと思い、出前も出来るのかと検索をかけてみる。

スマホに映される画面には○ーバーの画面。

どうやら通販にはこういった物も含まれるらしく、出来たての食事をとることが出来た。


「はぁぁぁぁ、ラーメンが染みます」


「筋肉弁当のハンバーグが美味しいわぁ、異世界なんて言われて不安しか無かったけど、森平ちゃんが色々知っていて安心したしえいちゃんも居るし、何より変わらない食事があるってのが良かったわぁ」


森平ちゃんは有名なラーメンを私は筋肉弁当を頼んだ。

元の世界の変わらない味に安心感が広がる。

今の状態もこれからの未来にも心配しか無かった。

でも今だけは安心する事が出来た。


「そう言えば内田さん、自分の事はユキでいいですよ。後掃除用具は百均で揃えましょう。入口も出来れば隠せる暖簾のようなものがあった方が良いですね、女二人ですし」


「私もリキって呼んで頂戴。ここ土埃が酷いものね。ユキちゃんは私の事女性として見てくれるのね、こんな筋肉ダルマみたいな私の事、そう言ってくれる人中々居ないのに、」


「身体は男性かも知れませんが、心が乙女なら女性だと自分は思うので」


「ありがとう」


そう、私は俗に言うオネェ。

嫌煙されたりする事もあったし、何よりジムでも嫌がられる事があったからこそ、自分でジムを始めた。

私と同じ人が来やすいジム。

心は乙女でも筋肉を鍛えたいと思う事は普通だろうと。

身体を鍛え、心を鍛え、同じ乙女を守れる様に。

そんな私をユキちゃんは普通に受け入れてくれて私を女として扱ってくれた。

異世界で二人きり。

帰れるかも分からないけれど力を合わせて出来る限り頑張って行こう。

そう決心した。


「そう言えばあのお姫様色々盛りすぎて笑いそうだったんですよね」


「貴女、結構図太い神経してるでしょう?」


「良く言われます。でも笑えたでしょう?」


「まぁね、アイシャドウの色とかリップの色とか、後チークを入れ過ぎててちょっとって思ったし、パーソナルカラーと全く合ってなくて肌がくすんでいたし、お肌が荒れてたからねぇ」


今日私達を呼び出したお姫様は色々と盛りすぎていてその衝撃で少し放心してしまっていた。

綺麗なはずの金髪も何処かベタついた印象を受け、肌はニキビが大量に出来ていた。そして肌の色に合わない濃すぎるブルーのアイシャドウに真っピンクなチーク、そして真っ赤なリップ。

容姿とのちぐはぐさに思わず驚き過ぎた。

彼女ならブラウンのアイシャドウにオレンジの薄いチーク、そしてコーラルピンクのリップの方が似合うだろう。

それに下品な程につけられたフリルが逆に安っぽく見える紫のドレスもあまりの滑稽さに驚きしか湧かなかった。


「彼女自分でも違和感とか持たないのかしら?」


「あったとしても周りが言いくるめたりしてるんじゃないですかね?」


「あぁ、道化にしてるのね、嫌ねぇ、あんな小さな子にそんな事するなんて」


「人間ってそういう所ありますからね、」


はぁ、と二人でため息を吐く。

だが、自分達の事の方が今は大事と百均で買った掃除用具を持ち、部屋の掃除を始めた。

部屋はシングルのベッドが置けて少し余裕がある程度。

窓も小さいながらもある為それ用のカーテンも忘れない。

部屋の入り口には突っ張り棒にカーテンを付け、開けやすく閉めやすさを重視。

一応勝手に開けられないようにカーテンにフックを付けた。

そして外の庭も掃除を始める。

日が登り、少し明るくなった裏庭。

ガヤガヤとした人の声が遠くに聞こえる。

裏庭には人は来ないようで、私達は人知れずこの世界の1日を過ごした。


夜になり、小屋に戻る。


「はぁ、疲れたわぁ。でも今日はお風呂も入れないし、お洗濯も出来ないし、硬い床で寝なきゃなのよねぇ」


「それなんですけど、えいちゃんから壁や空間に貼り付けられる部屋を頂けるとの事ですよ。なんでもこちらの生活水準だと私達の様な存在はストレスをかなり感じてしまうとかで病んでしまう人も居るとか、そこでえいちゃんがマンションタイプのお部屋で家具家電付きを作ってくれたそうです。この様な場所で無理をして身体や心を壊すより出来る限り色んな物に甘えた方が良いと提案されました。バストイレ別の冷蔵庫、セカンド冷凍庫、大きいキッチンやオーブンレンジ何かもあるそうです。出入りは魔法でも壁紙でもどちらでも出来るそうで、トイレ等もそちらを使用した方が安心かと、ベッド等もついていると言っていたのでそちらで休息を取りましょう」


「それ本当!?マンションのお部屋に住めてバストイレ別で家具家電付きですって!?じゃあここで寝る必要も無いし何よりゆっくりお風呂に入って洗濯機で洗濯も出来るの!?なんて、なんて親切なのえいちゃん!?ありがとう!私綺麗好きだし何よりこんな所でユキちゃんを寝かせるのは嫌だったのよ!これで安心だわ!しかもキッチンにオーブンレンジに冷蔵庫と冷凍庫もあるなんて夢みたいじゃない!私お料理もするしお菓子を作るのも好きだし、何より自分のプライベートをしっかり守りたいタイプだもの、はぁぁえいちゃん貴方って本当に最高の存在ね!!」


「う、うむ、そこまで言われるとちと照れるが、今日は色々こちらに関して調べておったんじゃ、そうしたらこちらに呼ばれた勇者や聖女も生活水準のせいで病んだ者がおったと判明してな、そんな風に二人にはなって欲しくは無いと思い、取り急ぎお主らの世界での普通の生活を調べた。そうした結果がこの壁紙亜空間部屋じゃった。これならば二人とも安心して暮らせる上に衛生的にも安心じゃ何より無理にこちらに合わせる必要も無いと思ってな、帰れるか否かそれは儂にも分からなかった、すまぬ、だからこそ儂にできる事は全てしてやりたい。お主らの為に生み出された儂の思いじゃ、まぁ余り気負わず緩く生きていけば良い」


えいちゃんは私の迫力に押されたのか、少し驚いた回答だったが、それでも私達を思ってしてくれた事がとても嬉しかった。


今日一日ギルドの裏手からたまに表の通りを見ていたが服装も汚れている物が多い上にあまり清潔感も無い。お風呂等もえいちゃん曰く入れるのは一部の貴族と王族のみで、殆どは身体を拭くだけ。

洗濯も水洗いが殆どで洗剤等は無く、柔軟剤なんて有り得ない物だった。

トイレなども汚いまま。

これでは疫病も流行りそうだった。


「それにしても本当にここって生活水準結構低めよねぇ、疫病とか大丈夫かしら、アルコール消毒とか持ち歩いた方が良いかも知れないわねぇ」


「自分もトイレを見た時の絶望感が未だに抜けません。でも発展途上国ならこんな感じだったりしますし、この世界は上下水道なども完備されてないのが普通なのでしょう。でもお風呂と洗濯機とトイレがあるなら安心ですし、これから魔法が使えれば殺菌や消毒も簡単に出来るようになるでしょうし、魔獣討伐も出来るようになればお金の心配も無くなりますし、魔獣のお肉は食べられる様ですよ」


「それなら多少は安心ね、それにしてもその唐揚げ美味しそうね、」


「そちらのささみの磯辺揚げも美味しそうですね、交換しましょうか」


疲れた私達は夜ご飯は出前をとり交換しながら私達の一日は漸く終わったのだった。

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